第17話:ドラゴン? 美味しいのか?
さて、邪魔者は居なくなったな。
まさかレッドアイズスタードラゴンを倒そうとしたら先客がいるとは思わなかった。
囮となっていてくれたおかげで簡単に倒せたが……。
(それで、殺してはいけないってのは、どういう事だ?)
氷槍でレッドアイズスタードラゴンを地面に転がした後、止めを刺そうとしたらアクマからストップを掛けられた。
『それが、レッドアイズスタードラゴンはただの魔物じゃなくて、この世界にとって重要な存在だったみたい』
(こいつの素材を勧めたのはお前だぞ?)
『管理者からお願いだから殺さないでって懇願されたんだよ。殺さないなら素材は好きにして良いって言ってるから、それで勘弁してだって』
このまま殺してしまって魔石やら何やらを奪いたかったが、駄目と言われたならば仕方ない。
『それと、治してくれると助かるってさ』
(……仕方ないな)
『一応話せるだけの知性はあるみたいだから、殺す以外なら好きにして良いってさ』
好きにして良いと言っても、素材さえ貰えれば後はどうでもいいんだがな。
こんな大きなドラゴンなんて、連れて帰っても迷惑なだけだ。
「
気絶しているレッドアイズスタードラゴンの怪我を治し、頭に向かって氷の塊を落とす。
すると唸り声と共に動き出した。
「……グルルルル」
「話せるのは知っているので、威嚇しないで下さい。それと、敵対するのでしたら、次は殺しますよ」
「そうか……」
ドラゴンなので表情は分からないが、しゅんとした感じで顔を下げた。
名前の通り目は真っ赤であり、身体は銀色の鱗で覆われている。
全長は最低でも十メートル以上はあるだろう。
「さて、一応謝罪を。いきなり攻撃してすみません。殺そうと思ったのですが、上からストップを掛けられまして」
「謝罪は要らぬ。弱い方が死ぬのは、自然の摂理だ。あの魔法陣を見た時、我は死を覚悟していた。――うむ? 上?」
「はい。この世界の神に当たる存在から言われたので、諦めました。後はこれまで通り生きてくれれば良いです。それでは」
カイル達に渡した以外にも、まだ鱗や爪は散乱している。
これを持ち帰れば、素材としては十分だろう。
杖の核となる魔石は、違う魔物を倒せばいい。
「待て。貴様は何者だ? 我は我より強いものを見たことがない。何より、貴様からは何も感じない。何故我より強い?」
どうしてと聞かれても、頑張ったからとしか言えない。
俺も魔法少女に成り立ての頃は弱かった。
それから幾度も死線を越え、何なら最後には死んだが、その結果俺が居る。
それは魔女も同じだったはずだ。
「それくらい自分で考えなさい。強いのでしょう?」
「いや……それは……」
更に頭を下げ、地面に顎が着いた。
あれだけ暴れていたのに、案外肝は小さいのか?
さて、適当に倒しても大丈夫な魔物を探して帰るとするかな。
こんなアホみたいな気候だし、居るのはそれなりに強い魔物のはずだ。
「…………何ですか?」
翼をはためかせて空を飛ぼうとしたら、レッドアイズスタードラゴンの爪が、俺のローブを掴んできた。
しかもローブが破けないように、妙に加減して。
「……付いていっては駄目か?」
「なに馬鹿な事を言ってるんですか。自分がどれだけ大きいか分かっているのですか?」
残念ながら俺に、子犬を拾う趣味なんてない。
そもそもこんな大きな生物を持ち帰れば、いらぬ騒ぎを起こすこととなる。
俺よりも弱いとは言え、この世界では相当強いのだし、自分の事は自分で何とかして欲しい。
「うむ……なら、なら小さくなれば良いのだな?」
「小さいと言っても、私程度まで小さくなれればですよ。どうせ無理でしょうし、その爪を離してください」
『ハルナ。それってフラグじゃない?』
図書室で本を読んだ限り、そんなことが出きる魔法の記載はなかったし、魔物だからってそんな理不尽なことを出きるわけがない。
だからさっさと帰れ…………帰るのは俺か。
「
魔力がレッドアイズスタードラゴンから送られ、手の甲が赤く光だした。
更にレッドアイズスター…………長いな。
RISドラゴンの全身が光だし、みるみる内に小さくなっていく。
「これで良いだろうか? ちゃんと小さくなったぞ」
「…………その魔法とこの甲の紋章はなんですか?」
RISドラゴンの姿は…………少女に変わってしまった。
俺の白髪とは違いしっかりと銀色だと分かる髪に、光っているのかと錯覚するほど赤い目。
服は一応着ているが、足は裸足の状態だ。
こんな荒れてた大地で、良く普通に立てるものだ。
「母様から教わった契約の魔法と、人の世に紛れるための変化の魔法である。教わった時は意味が分からなかったが、負けた今ならば、理解できる」
(解説を頼む)
『えーっと、契約の魔法は、召喚の魔法とセットで使われている奴だね。通常は人間側からだけど、魔物側からも可能みたいだね。両者の同意が必要だけど、ハルナの言葉が同意と取られたみたい。変化は一部の魔物が使える特殊な魔法だね。この世界に必要とされる魔物とかが世界に働き掛けることによって使えるみたい』
なるほど。つまり、RISドラゴンの討伐を勧めたアクマが悪いってわけだな。
「……やっぱり無しで」
「なっ! 良いと言ったではないか! 契約を違えるのか!」
今にも泣き出しそうに顔を歪め、RISドラゴンは俺を見詰めてくる。
残念ながら俺に、泣き落としは通用しない。
「それと、この契約も解除してください」
左手の手の甲には、RISドラゴンを表すような紋章が赤く刻まれ、主張が激しい。
「やだ。絶対にやだ。我が死ぬまで絶対に解かん」
「ドラゴンの肉って美味しいんですかね?」
「ピィー!」
訳すと、我儘を言うなら殺す。
殺すのは駄目と言われたが、時と場合による。
向こうも俺に無茶振りをしているのだし、此方も少し位やらかしても許されるだろう。
『まあまあ、一旦落ち着こうよ。確かに困る存在だけど、役にも立つよ』
(ほう?)
『権力ってわけじゃないけど、煩わしい存在が現れた時にけしかける事も出来るし、鱗を売れば金策も出来るよ』
珍しくアクマからの提案だが、アクマが理路整然と話す時は、大体本音が隠れている。
(それで、本音は?)
『ドラゴンに跨がる魔法少女とかカッコ良くない?』
…………否定はしない。
「なあ、ならばどうすれば良いのだ? どうすれば一緒に居ても良いのだ?」
あれだけ威厳たっぷりだったRISドラゴンは、俺のローブをくいくいと引っ張りながら懇願してくる。
母と先程言っていたし、割りと幼いのか?
「……分かりました。ですが、私の命令に従うことと、無闇に力を振るわないことを誓って下さい」
「本当か! 分かったのだ!」
なんだろう。どことなく知り合いに似ている気がするが、とりあえずメイド長に頭を下げなければな。
「名前はなんと言うのですか?」
「我の名はヨルムだ。貴様の名前は?」
「ハルナか、イニーと御呼びください。その状態で空は飛べますか?」
「無論だ。それで、これからどうするのだ?」
「材料採取です」
必要になりそうなものは、一通り揃えておきたい。
ドラゴンの鱗と爪が手に入ったから、後は魔石と鉱石。
それと良い感じの木材だ。
「材料? もしかして鉱石や魔石などか?」
「はい。なるべく質の良いものと思い……いえ、何でもありません」
これ以上騒がれるのも面倒だし、ヨルムを殺そうとした理由は有耶無耶にしておこう。
「それならば我の巣に沢山転がっているぞ。確か人の世では、暮らすのに金が必要だったな。いくらでも持っていくが良い」
ドラゴンと言えば金銀財宝を貯えていると言い伝えがあるが、ヨルムもそうなのか。
折角だし、迷惑料として貰うことにしよう。
「うむ! もういらなくなるものだ。幾らでも持っていくが良い」
「それではお言葉に甘えましょう。道案内をお願いします」
背中から巨大な翼を生やしたヨルムは空へと飛んだ。
元の姿に戻って飛んでくれれば、背中に乗れたのだが……俺も飛ぶか。
今も出しっぱなしになっている翼だが、白いのは移動用。黒いのは攻撃用の用途がある。
常に魔力を吸われるが、詠唱しなくても弱い魔法を使え、俺に対しての攻撃に自動で反撃もしてくれる。
俺が普通に話していたのはこのためだ。
ヨルムが気の迷いで攻撃をしてきたとしても俺に当たる前に、ボコボコに出来た。
因みに、もう一つ小回りを重視した四肢に小さな翼を生やす魔法があるが、魔物を相手にする程度ならば、多分使う事は無いだろう。
あれは回避用であり、同程度か強者でなければ、使う意味がないからな。
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