第16話:姉弟対決勃発
「一ヶ月後、ネフェリウス様と勝負をしていただきます」
「無理で無茶よ!」
後の事はゼアーに放り投げてリディスの部屋へ来た後、ネフェリウスとの勝負が決まった事を告げたら怒られてしまった。
「大丈夫ですよ。私が先程勝ってきましたので、勝てる筈です」
「半日離れている間に、一体何があったのよ!」
旧友? に再会して、生意気な坊ちゃんに格の違いを見せつけ、勝負の取付けをしただけだ。そう驚く事でもない。
「淑女が大声を出してはしたないですよ。それと、此方をどうぞ」
ゼアーから貰って来た過去問をリディスへと渡す。
「これって……もしかして!」
「入学試験の過去の問題となります。これがあれば勉強が捗るかと」
「こんなものどうやって手に入れたの?」
「さて、ご想像にお任せします」
そもそもゼアーがどうやって、この過去問を手に入れたのかについて、俺も知らない。
まあゼアーと言う存在は、都合の良い様に世界に認識させることが出来る存在だ。
何かしら……有り体で言えば、盗んできたのだろう。
「……そうね。私が欲しいのは結果だけだわ」
「魔法の練習の傍ら、過去問で満点を取れるように頑張りましょう。それと、一週間したら近接戦を含めた、本格的な戦闘訓練も始めようと思います」
「分かったわ…………本当にネフェリウスと戦うの?」
何とか有耶無耶にしてやる気を出させようとしたが、リディスはしゅんと落ち込んでしまった。
これまで何をされ、何があったか知らんが、姉ならば姉の威厳を保たなければならない。
姉とは常に弟や妹の前に立ち、道を示すことが大事だ。
「あの程度の小物に勝てなくては、これから先やっていけませんよ。主席入学をするのでしょう?」
「でも……私って……」
「勝てなさそうでしたら、寿命を対価に力を貸すので、安心して戦って下さい。小事ですので、五年分くらいで大丈夫です」
寿命を奪うなんてことは出来ないが、どう足掻いても勝てる戦いだと思い込ませれば、何とか立ち直るだろう。
そもそも、あのアクアスパイラルがネフェリウスの全力だとすれば、魔法だけなら既にリディスの方が上だ。
後は勉強と実技だが…………杖を作らなければな。
「そ、そうよね。いざとなればハルナの力を借りれば良いんですもの……よし! やってやるわ! 勝って威厳を取り戻してみせるわ!」
「今日の残りは勉強をしていてください。私はまた少し席を外しますので」
「分かったわ!」
時間は大体午後三時くらいか。
(杖ってどうやって作るんだ?)
『材料を揃えてくれれば、エルメスがどうにかしてくれるよ。因みに材料は魔石と鉱石と木。若しくは骨や鱗とか目とかだね』
(何ともファンタジーな材料だことで)
折角ならば、出来の良い杖を作りたい。
ふむ…………そうだな。
(因みに剣とか作れるのか?)
『作れるですよ。まあ能力はともかく、見映えはある程度しか反映出来ないですけどね』
アクマではなくてエルメスが答えたのは驚きだが、剣も作れるのか。
この際だし、俺用の奴も一緒に作っておくか。
この世界でしか使わないだろうが、十年も時間があるのだ。
損は無いだろう。
部屋から人目の付かな所に転移し、変身する。
(おすすめの魔物は居るか?)
『うーん。レッドアイズスタードラゴンか、エンシェントフェアリークイーンとかどう?』
どちらも強そうな名前だが、折角ならドラゴン討伐と行こう。
(ドラゴンの方にしよう。ドラゴンの素材は色々と使えそうだからな)
『りょうかーい。あっ、空中に転移するから、飛んどいてね』
その言葉と共に、視界が変わり始めた。
できれば、転移する前に言ってくれませんかね?
1
霊峰
極寒と灼熱が共存する、常人では生きる事の出来ない大地だ。
此処に居るのは魔物の中でも上位種であり、一匹でも倒せれば世の中に名前が轟くだろう。
そして今日も、名声を得ようと一組の冒険者が、血脈の顎に足を踏み入れていた。
「やっとここまで来られたか……」
「ああ。後はレッドアイズスタードラゴンを倒せれば、俺達も英雄の仲間入りだ」
「焦るんじゃないわよ。これからが本番なんだから」
「皆さん一度休みましょう。ここから先は更に危険となりますから」
彼らは冒険者ギルドと呼ばれる組織に入っており、この世界では冒険者と呼ばれるている。
冒険者には階級があり、彼らはその中でも高位である、Sランク冒険者となる。
その上にはSSランクとSSSランクがあるが、どちらも国が滅亡するクラスの災害を防いだ者に与えられるものだ。
通常時にSランクから更に上を目指すには、ランク指定外の魔物を倒す位しか方法が無い。
最後の休憩とばかりに、四人が腰を下ろしたその時、大きな影が差し込んだ。
「ッチ! 早速お出ましか!」
「あの特徴的な身体は、お目当ての魔物みたいだな」
上空に現れたのはランク指定外であり、推定では過去に現れた魔王よりも強いとされている厄災の魔物――レッドアイズスタードラゴンだった。
空気を震わせる咆哮が響き、己が領域に足を踏み入れた招かれざる客へ、挨拶とばかりに隕石の雨を降らす。
「ハイプロテクト! ホーリーウィング!」
「サイクロン。ブルータルウェーブ!」
女性の二人が魔法を唱え、補助をしながら隕石の軌道を逸らす。
一発でも直撃すれば、潰れて死ぬような隕石の合間を縫う様に、男達二人は、空へと駆けていく。
「剛来斬!」
「閃光刃!」
レッドアイズスタードラゴンの背中に向けて剣と槍が振われるが、鱗に弾かれてしまった。
「思っていたより硬いな……」
「だが、刃こぼれはしていない。ならば勝機はある。一点集中で行くぞ!」
「おう!」
冒険者達四人とレッドアイズスタードラゴンの戦いは、想像を絶する激戦となった。
大地のあちこちにクレーターが出来上がり、ただでさえ荒れている大地は、更に酷く変貌していく。
しかし……。
「っく! 流石ランク外と呼ばれるだけはあるな」
「もうほとんど魔力も残ってないわよ!」
「逃げる……のも無理そうですね」
満身創痍の四人と違い、 レッドアイズスタードラゴンはほぼ無傷の状態だ。
受けた傷も、持ち前の回復能力で治してしまう。
やはり無謀だった……そんな思いが四人の胸中に広がり始めた。
「――俺が囮になる。だから、三人は逃げろ」
リーダー格である男は、剣を握り締めて立ち上がった。
四人ならばなんとか勝てると思っていたが、結果は惨敗である。
相手が飛んでいる以上、全員で逃げでも全滅してしまう。
ならば誰かが囮になるしかない。
そして、その行為は死を意味する。
「嫌よ! あなたを置いてなんて!」
「そうだ! 俺達四人でパーティーだろう? それに帰ったらお前は……」
「言うな。この事態を招いたのは俺だ。 それに、一人でも負ける気は無いさ」
ただの強がりだが、せめて三人が逃げ切るまでは、無様な姿を見せる気は無い。
「すまないな。エメリナ」
「カイ……ル」
光の魔法でアシストをしていたエメリナは、一足先に魔力が無くなり、ギリギリ意識を保っている状態だった。
二人は将来を誓い合っていたが、こうなってしまっては仕方ない。
エメリナは涙を流し、それから意識を失ってしまった。
男は……カイルはエメリナへと笑い掛け、覚悟を決めた顔をした。
「行け!」
「……すまない」
「カイル……」
カイルは剣を構え、果敢にレッドアイズスタードラゴンに挑もうとしたその時……。
――天から巨大な氷の槍が降り注いだ。
「な、なんだ!」
「これは……魔法なの!?」
氷の槍はレッドアイズスタードラゴンの翼膜を貫き、地面へと叩き落した。
先程までの羽虫とは違い、明確に自分を害する攻撃にレッドアイズスタードラゴンは怒りの咆哮を上げた。
しかしその咆哮は、直ぐに止むこととなった。
氷の槍がカイル達ではほとんど傷を付けられなかった鱗や翼を貫き、地面へと縫い付ける。
あまりの事態にカイル達は理解が追いつかず、ただ呆然とレッドアイズスタードラゴンが傷づいていく様を見る事しか出来なかった。
身動き出来なくなったレッドアイズスタードラゴンは、それでも姿の見えぬ相手と戦おう天を見上げる。
そこには大きな魔法陣が描かれており、発動の時を今かと待っていた。
魔物だけではなく、生きうる全ての生物の中でも、頂点に近い場所に居るレッドアイズスタードラゴンは、魔法陣を見て恐怖を感じた。
魔法陣の近く……人影を見たレッドアイズスタードラゴンは、迫りくる光を最後に、意識が暗闇へと落ちていった。
「夢……じゃないよな」
目の前で起きたことが理解できず、三人は固まったまま動けずに居た。
誰が? 何のため?
レッドアイズスタードラゴンより強い存在など、それこそパッと出てくるのは神くらいだ。
「先客でしたか」
ふと、空から声が聞こえた。
カイル達が視線を上げると、そこには白い翼と黒い翼を二対四翼生やした、白いローブ姿の何者かが居た。
声は高く、背丈から幼いのが分かる。
だが顔はフードの奥に隠れ、暗くて見ることが出来ない。
おそらく、少女……なのだろう。
「……あなたが助けてくれたのですか?」
不気味な存在だが、もしも現れなければ、カイルは間違いなく死んでいた。
「……ああ。偶然って事ですか」
「えっ?」
「いえ、気にしないで下さい。それよりも、爪や鱗程度でよければ素材を譲りますが、いりますか?」
カイルは後ろに居る三人……一人は気を失って担がれているが、目を合した。
付き合いは長いため、アイコンタクトでもそれなりに意思疎通が出来る。
そして、三人揃って首を傾げた。
これまで幾度となく死の危険に扮した事はあったが、この様な展開は初めてであった。
「あの……先に礼を言わせてください。あなたが来なければ、俺達は死んでいました」
「気にしないで下さい。ただの偶然ですので」
「偶然でも助かったの事実です。素材についてですが、あなたから買い取る形にしても良いでしょうか?」
「……ふむ?」
今回の戦いでは、カイル達は何も出来ていない。
Sランク冒険者として、タダで素材を受け取るのは沽券に関わる。
カイル達のパーティーは世間でも有名であり、蓄えも相応にある。
仮に払えない程の金額になったとしても、カイルは働いて如何にかする気でいる。
「まあ、何でも構いません。どれ位欲しいですか?」
「爪を一本と、落ちている鱗だけで十分です。俺は
「……通りすがりの魔法少女です。所属などは別に無いので、支払いも気にしないで下さい」
「いや……しかし……うん? 魔法少女?」
聞いたことない単語にカイルが首を傾げている間に、 白いローブの少女は適当に落ちている鱗を魔法で集め、丁度良く折れていた爪をカイルに渡した。
「あの、さっきのってあなたの魔法なのよね? それに、その翼も……」
「おい、アンリ!」
攻撃の魔法を使っていた、アンリと呼ばれた女性は先程の魔法が気になって仕方なかった。
アンリはこの世界では珍しく、三つの属性が使える。
水。風。闇。
全てを高水準で使えるが、先程の様な大規模な魔法など使えない。
何より、アンリが知っている魔法とは、根本的に違うように思えた。
「ええ。その通りです。それよりも、早く帰った方が良いですよ。他の魔物が寄って来ないとも限らないですからね」
「……せめて、何か恩を返させてくれないか?」
「なら、アインリディスと言う少女が、今年オルトレアム王国の学園に入学しますので、手を貸してあげて下さい」
「それだけで良いのか?」
「はい。それと、これは餞別です。
カイル達の足元に魔法陣が現れ、心地よい風が吹いた。
身体中にあった怪我は全て無くなり、涸渇しかかっていた魔力も僅かに回復した。
アンリは幾度も使われる未知の魔法に胸を躍らせるが、此処に留まれば留まるほど状況が悪くなるのを理解している。
「早く行きなさい」
「――はい」
カイル達は来た道を戻り始めた。
突如として現れた、羽を生やした謎の少女。
レッドアイズスタードラゴンを無傷で下し、余裕を見せる様は人とは到底思えない。
そして名乗りの時に言った、魔法少女という単語。
この出会いがカイル達の運命を、歪める事となる。
「なあ。ガッシュ。アンリ」
「どうした?」
「なに?」
後ろ髪を引かれながらも歩いてる途中で、カイルは仲間の名前を呼んだ。
「オルトレアム王国って、どこだ?」
アンリの長い溜息が、ゆっくりと漏れ出た。
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