第15話:元魔法少女と現魔法少女によるいじめ

 国語、歴史、数学。


 問題数はかなりあるが、アクマの言ったことを書けば良いので、サクサク進む。

 

 しかし三つの試験を全て答えるのは、流石に無理だ。


 実際の試験時は、一つの試験時間が一時間なので、今回は六分の一しかない。


 それでも全て八割以上は埋めたので、負けることはまずないだろう。


「それまで。採点するから少し待ってなさい」


 ゼアーに答案用紙を取られ、試験は終わりとなった。

 

 そこそこ集中していたため、少し手首が痛い。


「お前は確か出来損ないのメイドだったな。貴様が望むなら、僕の専属メイドにしてやらなくもないが、どうだ?」


 休んでいると、坊っちゃんが鞍替えを提案してきた。


 ネフェリウスはリディスの事を見下しており、リディスの全てが気に入らない。


 なにやら一番上の姉に唆されてもいるようだが…………家庭内環境を少し整えてやるか。


 リディスが悪魔召喚になんか手を出したのは、本人が魔法を使えなかったのもあるが、家庭環境も原因である。

 

 誰かがリディスに手を差し伸べていれば、また違った結果になっていたかもしれない。

 

「ご遠慮させていただきます」

「なに? あんな出来損ないの所に居ても、意味なんて無いんだぞ? それに、僕に逆らって此処に居られると思っているのか?」

「契約自体は当主様と結んでいるので、あなたの一存ではどうにもなりませんよ。ですが、ここは一つ賭けをしませんか?」

「賭けだと?」


 食い付いてくれたな。


「はい。今回のテスト。もしも坊ちゃんが勝てたのなら、望み通り専属になりましょう。その代わりもし負けたのなら、一ヵ月後にお嬢様と勝負して下さい」

「――貴様。僕に勝てると思っているのか?」

「どうでしょう? ただの強がりかもしれませんよ?」


 向こうは勝てると思っているだろうが、最初から負けバトルである。


 俺とゼアーに踊らされているとは知らず、哀れなものだ。


 きっとネフェリウスは、俺をただの馬鹿だと思っていそうだが、本当の道化はネフェリウスだ。

  

「ふん。なら望み通りその賭けに乗ってやろう。それと僕の事はちゃんと名前で呼べ」

「勝てたら呼んで差し上げます」


 メイドらしく従っても良いが、こいつは坊ちゃんで十分だ。


「採点終わったわよ」


 ゼアーは採点した六枚の解答用紙をテーブルの上に並べた。


 結果は……。


「そんな……馬鹿な」


 解答用紙を見たネフェリウスは、目を見開いて驚いた。


 俺とゼアーはアイコンタクトをして、分かり切っていた結果にこっそりと笑おう。

 

「ネフェリウス様の合計点数は百二十四点。メイドの点数は二百五十点。言っておくけど、不正はなかったわ」


 そうだね。目で見える不正は何一つとしてなかった。目に見えない所でカンニングしていただけだ。


 しかし、全部八十点位だと思ったが少し高かったな。


 アクマの手を借りなかったとしても。時間さえあれば同程度の点数は取れそうだ。


 だが、目指さなければならないのは満点だ。


 教える側の俺が満点を取れなければ、リディスが満点を取れるわけがない。


「ありえない! こんな……たかがメイドの癖に、何故こんな点数取れるわけが!」

「見ての通りよ。現実を受け入れなさい。それとも、入学試験みたいに魔法の試験もやってみる? このメイドは間違いなく平民だから、勝てるかもしれないわよ?」


 怒りを露わにするネフェリウスに、ゼアーは更なる提案をする。


 確かに俺は平民で間違いなくないが、平民と貴族で魔法の差はあるのだろうか?


(そこの所どうなんだ?)


『あるっちゃあるね。一番の違いは今のゼアーみたいに教師が居るかどうかだけど、英才教育をされているかどうかは大きな差だろうね。それに遺伝も馬鹿には出来ないよ』


 魔法少女なんて摩訶不思議な存在とは違い、魔法が普通にある世界ならば、遺伝による才能差があってもおかしくないか。


 その最もたる存在がリディスのだから、ままならないものだ。


 遺伝と言えば、この世界は人以外にも亜人。所謂エルフや獣人とかが居るとか。


 使用人の中には居ないが、街に行けば会う事もあるだろう。


「――くっ! 直ぐに始めるぞ!」

「内容は単純に威力を見るって事で良いわね?」

「ああ。それで構わない。貴様も良いな?」

「何でも構いません。私は命令に従うまでです。アクマでメイドですので」


 イライラを隠そうとしないネフェリウスと共に、屋敷の裏庭へと向かう。


 俺がメイド長と戦った場所より少し離れたそこには、魔法の練習用に特殊な案山子だったり、荒れた地面を直すための魔導具などがある。


 魔法陣を使う文化はほとんどないはずだが、魔導具などの開発はされている。


 これがよくわからない。


 因みに案山子は、魔法の威力によって色を変える。

 

 これは回復魔法でも色を変えるので、攻撃魔法を使えなくても、入学試験では何とかなるそうだ。


 そんなことを道中でゼアーが教えてくれた。


 ネフェリウスの髪は青なので、最低でも水の魔法が使える。


 貴族なので他も使えるかも知れないが、正直どうでも良いので、調べる気もない。

 

「一応説明しておくけど、案山子に魔法を撃って、色が濃い方が勝者よ」

「説明しなくても分かっている」


 さてこの勝負だが、先程と同じく既に勝敗が決まっている。


 多分鎖を数本放つだけで勝ててしまう。


「アクアスパイラル!」


 ネフェリウスは部屋から持ってきた杖を構え、螺旋状の水を放つ。


 水の魔法をマジマジと見るのは、初めてかもしれないな。


 使い勝手は良いが、殺傷能力を求めるならば氷の魔法の方が良い。


(あれってどれくらいなんだ?)


『年齢からしたら、それなりに優秀って所かな。アクアスパイラルは中級の魔法に分類され、結構難しい分類とされているね。けど、ネフェリウスが使ったのは本当の威力の六割程度しかないね』


 無理をして見栄のある魔法を使たって事か。


 魔法を撃ち終えて俺を見る目は自信に満ち溢れ、見下すような感じになっている。


「見たか。これだけの魔法を使えるのは、僕の年代では公爵家位だ。メイド如きが僕に勝てるわけがない!」


 ここまで思い上がられると、いっそ清々しく感じてしまう。


『何だろうね。これが大人だったら間違いなくぶっ飛ばすのに、子供だともっとぶっ飛ばしたくなるね』


(支離滅裂になってるぞ?)


 アクマが微妙にイラっとしているので、今回は少し派手目にやろう。


 俺が使えるのは光だけではなく、火も使える。


 基本的に料理位にしか使ってないが、今が出番だろう。


「大体百点中五十点の色ね。その歳でみればなかなか優秀ね。それじゃあ次ね」

「承知しました」


 さてさてどんな魔法を使ったものやら……。


 勝つだけなら簡単であり、なんなら案山子だけではなくこの一帯を吹き飛ばす事も簡単だ。


 なんなら吹き飛ばす方が簡単なのだが、案山子を壊さないようにセーブする必要がある。


「念のため、注意だけはしておいて下さい」

「大丈夫よ」

「ふん。何を言い出すのやら」


 火と言えば、俺の義姉になるタラゴンさんの十八番である。


 正確には爆発の能力なのだが、似たようなものだ。


 そうだな。こんな魔法で良いだろう。


小さな龍の咆哮タラゴンフレイム


 背後から龍の形をした炎が現れ、一度上昇してから案山子を上から飲み込んで爆発を起こす。


 爆風により吹き飛ばされそうになるが、この世界に来てからはしっかりと鍛えているので、何とか耐えることが出来た。

 

「学園の規定で言えば、九十九点って所かしらね。実際とは異なるけど…………あれ? ネフェリウス様は?」

「向こうに吹き飛んでいます」


 気を付けろとちゃんと忠告したのに、ネフェリウスは大丈夫だと高をくくったのだろう。


 馬鹿な奴だ。


「そんな……たかがメイド如きに……高貴な存在たる僕が……」


 二連続で負けたことにより、ネフェリウスは倒れたまま放心していた。


 これ位心を折れば、後はどうとでもなるだろう。


「賭けは私の勝ちで宜しいですね?」


 話しかけられてしばらく口を閉じ、ゆっくりと開く。

 

「――悔しいが、負けは負けだ。結果を反故にするなと、父上に言われている。だが、あの魔法は何だ? それにどうして僕とそんなに変わらないのに、あれほどの点数が出せる?」

「お嬢様との勝負に勝てたのならば、教えて差し上げても良いですよ。それまでは、しっかりと学ぶ事ですね」


 負けた事で癇癪を起さないのは良い点だな。


 一応汚れ位は落としといてやるか。


 この世界の光の魔法には、汚れだけを落とすものがある。


 原理は正直不明だが、イメージするだけなので、一応使うことが出来る。


 ただ難易度としては上級になるが、個人的には攻撃系の初級魔法の方が難しい。


 指を鳴らして魔法を使い、目を見開いているネフェリウスに軽く礼をしてから裏庭を後にする。


 因みに入学試験の過去問は既にアクマのアイテムボックスに収納してあるので、これでリディスの勉強がはかどる。

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