*12

 私は志望どうりデザイン部門に配属され、9月から本社での勤務となった。ミナは営業部に配属されたからいっしょの本社ビルにいる。でもフロアも違うので普段に顔を合わせることはまずない。たまに時間を合わせていっしょに晩ご飯を食べに行くくらいのことは時々あるけれど。

 週末には『ビストロ ラ・パルム』まで出かけて行って夕食を採るのが習慣となりつつある。翌日はお休みだからちょっとくらい遅くなっても平気だ。いつものカウンター席に座って私が尋ねる。

「今日の下着はどんなの?」

「君が来てくれる日だから一番のお気に入りを着けてるよ。白生地にインゴムのスキャンティで綿ポリ80対20の混紡で肌触りもいいし伸縮性も抜群。前面に赤いリボンが付いててかわいいんだ」

 デザイン部門で働いている私の影響か、彼の説明も胴に入ったものだ。

「見たいかい?」

「ばか! いじわるね」

「君のは?」

「内緒よ。女性の下着を聞くなんていけない人ね」

「いじわるなのは君じゃないのかい?」

 カウンター席に座った私と厨房のシェフの間で密やかに交わされるそんな会話はギャルソンさんにもソムリエさんにも内緒、のはずなんだけど…… たぶん気付いてて聞こえないふりをしてくれているんだろう。

 いつか私がデザインした下着を彼にプレゼントできたら。それが今の私の直近の夢。そして下着だけじゃなくて服飾全般に男とか女とか関係なく、好きなものを選んで買えるようになったら、っていうのが私の将来の夢だ。そのとき、私のそばに彼がいてくれたら、いいな……

 

 

 = 終わり =


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私の彼は下着フェチ @nakamayu7 @nakamayu7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画