第2話 聖女様マジギレ

「あ、あの~…やっぱ奴隷制度は続行って感じになりませんかねぇ~? 撤廃はナシってことで、ここは一つぅ~…でへへ」


 大会議室の中の諸侯たちは全員『なに言ってんの?』みたいな顔してるけど、俺は本気だ!


 ってか撤廃してもらわなきゃ困るって!


「は、はははっ、殿下もなかなかご冗談がお好きなようで!」


「これが城下の若者の間で流行ってるブラックジョークという奴ですかな、面白いものですな!」


「まさか聡明なライウス王子からジョークのたぐいが聞けるとは、私は運が良い」


 もう完全に冗談としか思われない、当たり前だよな!奴隷制度を撤廃した本人が『やっぱ止めようや!』なんて言ったら俺だって信じねぇもん!


「素晴らしき手腕を持ちつつ笑いの境地にも挑戦する王子に拍手を! では国王陛下からお言葉を~~……」


 その後は会議は予定調和のように進んで行って終わり、ライウスは王城の自室へと戻って行った。




「ヤバイって、ヤバイってコレ! なんか1週間後に奴隷になってなきゃ確実に死ぬって分かる!」 


 なんでか知らないけど死ぬの分かる、絶対に死ぬ。死にたくないから色々と確認しよう。


「まずステータスバーがあって、スキルとかも有る感じの世界で、体力とか魔力とかがあって~~……」


 中身は正川裕だけどライウスも混じってるから、この世界の知識はある。


 中世ヨーロッパ的な感じで、現代世界との大きな違いは魔法が使えることで~…とか確かめる。チートは色んな数値が最大値だってことみたいだ。


「このチート…現状だと役に立たなくねぇかな…? むしろステータス見られたら奴隷にしてもらえないとかありそうなんだが…」


 俺のステータスは体力は国一番の怪力兵士の100倍、魔力は上級魔術師の1000倍、その他の数値も超高い。


 でも知能は『100→23』ってなってる!俺の意識が混ざって下がったの!?平均以下じゃん!


「王子殿下、王国教会のがご来室なされました。ご入室頂いてもよろしいでしょうか?」


「良いっすよ!」


 王子の部屋の護衛っぽい人に反射的に許可しちまったけど大丈夫か?大丈夫だろ、王子なんだし。


「王国教会のルナルー・イルマテラです。殿下っ、さっきのお言葉は何ですか! 冗談でも言って良い事と悪い事があると思います!」


「す、すいません…反省してます…」


 なんか小っさい女の子がメッチャ怒りながら入ってきたけど、こっちはそれ所じゃないんじゃ!


(あっ!この子って聖女様ってやつじゃん! ライウスと少し面識あるっぽいな)


 記憶を探るとルナルーと名乗った金髪の緑色の目の子は王子と何度か話してる、奴隷制度撤廃に真っ先に協力してくれた人だった。


 年齢は14歳だけど立派に教会の聖女として敬われ、地位が上になった今も懺悔室で国民の懺悔を聞くような人格者。


 この子が懺悔室に入る時は長蛇の列なんだって!俺も入りたい!あと奴隷制度復活させて欲しい!


「殿下には先程の発言の真意をお聞かせ願いたいのです! 冗談とは言え、何故あのようなお言葉をっ…!」


 まだまだ記憶を探る、聖女ルナルーは優しい笑顔を絶やさず、奴隷にすら対等に接し、国民からも貴族からも凄い人気だ。こんなに怒ってる場面を見たのは多分俺だけだと思う。


(ヤベェ! 聖女ちゃんメチャ怒ってるし、だんだん記憶探るの難しくなってきた!)


 焦ってもしょうがないけど乗り切らなきゃいけないから、とにかく耳触りの良い事を言って帰ってもらおう。こっちは奴隷になるのに忙しいんじゃ!


「真意ですか…聖女様は、この国の奴隷制度についてどのように思われて来ましたか?」


「どのようにとは…もちろん人の道にも、全ては平等という神の教えにも反する制度だと考えて来ました。特に貴族に虐げられる奴隷身分の人達の姿は直視に耐えません! だからこそ制度の撤廃を…!」


 ライウスの記憶はともかく、この世界の常識とかが思い出しにくくなり始めてる!そんなのどうでも良い!とにかく死にたくねぇ~~!


「だからこそなのです、聖女様の言う通り、俺は人の道に反し、神の教えに背く事を良しとしてきた国の王子です」


「っ…! それは…その…、はい…」


 良い感じに丸め込めそうだぞ!このまま押し切られて帰っちまえ!凄く可愛い子だけど構ってるヒマないんだって!


 あとは深刻そうな顔して良い感じのことを言えば落ちる!聖女なんて言っても所詮は世間知らずのガキだろ!まぁ俺もそこは変わんねぇか!


「長きに渡り奴隷身分の方達を苦しめ、悲劇的な生を送った数え切れない奴隷身分だった人達に、制度の撤廃だけで報いれるとは思ってないのですよ…」


「それは…どういう事でしょうか…?」


「クランゼット王国の最後の奴隷は俺自身として、この悪しき歴史を締めくくりたいのです。国の第一王子が奴隷になる事で、今まで奴隷だった方達の悲しみと苦しみに少しでも報いたい。それまでは制度は形式上だけ撤廃を見送り~~……」


 そんな無理のある理論と考えでテキトーに言いくるめてしまおうと思ったら。


「…す……し…です…っ」


「えっ? 寿司?」


「素晴らしいお考えですっ!」


「うおっ!」


「今まで虐げられてきた人たちに少しでも報いるためっ、奴隷を作る者は自らも奴隷になる可能性があるという事を考えよという教訓を示すためにっ、殿下自身が王国最後の奴隷になろうとするお心なのですね!」 


「そ、そういうことさ…うん、たぶん…」


 よし!良い感じに勘違いしてくれた!ライウスはメッチャ信頼されてる奴なんだな!聖女様、もう教会に帰れ!


「ご安心ください殿下、まだ時間はあります! 制度の完全撤廃まで1週間ありますから、その間に殿下が王国最後の奴隷として名を残せるよう、及ばずながら手伝わせて頂きます!」 


「えっ、いや、それはぁ~」


「幸いにも王国教会には様々な人たちの繋がりがあります! 中には救いようがない程どうしようもない人達が居ますので、是非ともご紹介します!」


「えっ、それはありがたい……のか?」


「奴隷を虐げるのが趣味の貴族や、冒険者ギルドでSランクだけど奴隷を使い潰すパーティーとか、奴隷は叩くものと教えられた悪徳の令嬢とか、他にも色々とダメな人達を知ってますので!」


「教会ってそんな人たち来るんだ……怖っ…」


 とりあえずは奴隷に関して一家言ありそうな連中を紹介してもらえる!これなら制度完全撤廃の1週間後までに奴隷になるのも夢じゃない!あと聖女様、可愛い顔でニッコリしながらダメな人って言わなかった!?


 王子だから色々と仕事とかあるだろうけど知るか!とにかく早速だけど行動しなきゃ!死にたくねぇし!

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チート持って第一王子になったけど1週間後に奴隷にならなきゃ死ぬぅ! 轟鏡 @tepure35

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