チート持って第一王子になったけど1週間後に奴隷にならなきゃ死ぬぅ!

轟鏡

第1話 奴隷制度撤廃!?

 高校2年のしょーもない男子高校生、正川 裕は学校の帰り道に突然目の前が真っ暗になり、何があったかも分からない内に死んでしまった!


  


 クランゼット王国の首都王城の大会議室では、王国暦1500年という大きな節目の年に最も大きな会議が開かれていた。


「では国王陛下、第一王子殿下、元老院、各領貴族の過半数の一致により、奴隷制度の完全撤廃を決定いたします」


 議長が宣言して拍手が上がるが、同時に苦虫を噛み潰したような顔をする者達も居る。


「流石は第一王子殿下! 奴隷制度を撤廃して人の道に順ずる政策は、諸国からも見習うべき先例と称えられましょう!」 


「今まで様々な下準備をして、奴隷が市民や兵士になれる下地を作ってきた甲斐がありましたな!」


「平民たちの差別意識を無くするため、誇り高き王族の殿下が大広場での演説で市民たちに頭まで下げた姿、感銘せずには居られませなんだ」


 この大胆な政策を主導したのは大国であるクランゼット王国の第一王子である僕、ライウス・ヴェル・ビッグズ・クランゼットだ。


 奴隷制度など人として間違ってるし、経済という長い目で見れば奴隷制度はマイナスにしかならない!そう掲げて王国の有力者を纏め、今日やっと奴隷制度撤廃が完全可決されたんだ。


 品行方正、眉目秀麗、才色兼備の王子とされた僕でも酷く苦労させられたけど、それが報われて本当に良かった。


「諸侯を纏めてくれた貴君らの働きあってのことさ、僕だけの成功では決して~~……」


 皆に礼を言おうと思った瞬間、僕の目に見た事も無いような光景が広がった!


 想像を絶する巨大な火の玉、闇に浮かぶ巨大な球状の何かの周りに丸い輪っかが浮かんでる、無限の闇の中に無数の光が瞬いてる!そして全てを悟った。



・体力、魔力、レベル、オールカンスト


・パワー操作、魔力操作、日常生活に不備の無い調節が可能


・でも1週間後に奴隷身分になってなきゃ死ぬ


・そこを越えたら現代に帰れるよ!



「………」 


「ん? 王子? どうされました?」


「王子?」


 ライウス王子の動きが突然に止まり、周囲がザワつく。


(あ…俺ってライウス王子じゃなくて正川裕だわ…。いや、ライウス王子でもあるんだけど…)


 ライウス・ヴェル・ビッグズ・クランゼットは18歳にして前世の記憶が蘇ったのか、いきなり意識が混ざったのか知らないが、正川裕と混ざり合ってしまった。今は王子の意識と裕の記憶が混ざり合い、裕が80%くらいを占めてる。


(おいおい! 異世界転移だか転生ってやつか!? チートっぽいのもあるし、でも死ぬってちょっと待ってや!)

 

 ライウスなのか裕なのか、どっちつかずの王子は目が回りそうになるのを抑え、集中しなければと思い直して現状把握に努めた。


 とりあえずは1週間後に奴隷にならなきゃ死ぬぅ!しかも肝心の奴隷制度はこのバカ(自分)が撤廃しちまった!


「いやー、やはり奴隷制度は間違った制度ですな!」


「い、いやぁ…今思えば、そーでも無かったかなーなんて思っちゃったり…」


「王子こそ時代の先を行くお方ですな! 臣下として是非にも誇らせて頂きたいですぞ!」


「は、ははっ…先を行き過ぎて崖から落ちちゃったぁ…みたいな…? ほこりくらいに思ってもらいたいな~…なんて…」


 奴隷制度なくなっちゃってるじゃん!?どーすんのコレ!?自分で無くしちゃってるよ、このバカ王子が!


 そんな事を思っても始まらないから、どうしようか考えてると国王が席を立って侍女とかはべらせながら俺に近付いてきた。


「息子よ、よくぞやったな。王国の奴隷制度撤廃なぞ経済的にも、貴族たちの感情をかんがみても不可能だと思っておった。それを見事な政策と革新的な国家運営を打ち立て~~……」


「あ…あはは…、そ、そうっすよね~…」


 ライウスの父である国王が何か言ってるが、中身の80%が裕のライウスには響かない。


 ここは父に認められた感動で泣いたり、王に膝をついて敬うとかそんな感じの場面なんだろうけど……こちとら1週間後に奴隷になってなきゃ死ぬんやぞ!?


 大会議室の中は新しい時代の到来に湧き立ち、王子の努力が政治的勝利という結果に終わったことに喜ぶ者や、これからの身の振り方を考えてる奴など様々だ。


「静粛に! 今から制度撤廃の立役者であるライウス王子から皆にお言葉を頂く! それでは王子、どうぞ」


 そんな中で王子の王族や貴族諸侯に向けたスピーチが始まり、そこでライウスは衝撃的な言葉を発した。



「あ、あの~…やっぱ奴隷制度は続行って感じになりませんかねぇ~? 撤廃はナシってことで、ここは一つぅ~…でへへ」



 まさかの一言に大会議室は固まった。


 制度撤廃に賛成して協力してくれた者達も、制度撤廃に反対して結託して工作してた者達も、同じ顔してポカンと呆気に取られてる。


 国王も「ん?この人は何言ってんの?」みたいな顔してる。


 王国教会から代表として会議に出席されてる聖女様も「なんやコイツ?」みたいな、何とも言えない表情を浮かべていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る