第16話 独裁者の末路

 首都ドゥビンスクに押し寄せる革命軍に立ち向かう連邦軍は最早ルシーノフ共和國軍のみであった。

既にベルーナ宮殿の周辺や広場には革命軍の兵士で埋め尽くされ、蟻の這い出る隙間はなかった。

首都に真っ先に攻め込んで来たのは、國中を散々破壊され尽くしたフキローネ共和國の軍隊であった。

それは革命軍総司令トロスカヤの配慮であったのだ。

 宮殿の奥深くに隠れていた大統領は革命軍戦士らの前に引き出されると、

「私は傀儡、単なる置物で次官や副官がコピーと組んで私や人民を苦しめたのだ。如何か分かって貰いたい」

 取り囲む兵士らに哀願するように訴える。すると後ろの方から丸腰の美男子が前に出て来てこう大統領に話しかけた。

「君はコロチャンコ大統領ではない。私の師匠が作った替身(偽物)二号だ。

確かに数年前までは本物が此処に居た筈だが、如何やらコピー二号の君が入れ替わったのだ」

 大桂國の外科医琳顛であった。

故國に帰らずに革命軍本部に留まって居たのである。

このコピー二号に殺された大統領の副官ヴェリンスキーとは常に連絡を取り合っていたのだが、コロチャンコの訪チョンの帰國後間もなくから連絡が取れなくなったので

副官の身に何かあったものと推察し、調べて見ると大統領に射殺されたと判明したのである。

ひょんなことから親しくなっていただけに、許せなかったのである。

「誰だお前は」

 真贋検査の際、コピー二号はBとして検査を受ける筈だったが、本物のAがBとして受けた為琳顛とは合わなかったので面識がなかったのである。

「此処で本物とコピーを見分けられる唯一の人物よ」

 司令官のトロスカヤが笑いながらそう言うと、

「施術者でないものが解る筈ないだろう。如何証明するのだ」

 と偽コロチャンコは足掻あがく。

「簡単なことですよ。貴方がコピーであることを此処に居られる方々に解かり易く御覧に入れますから」

「ふざけたことを」

「この男を押さえて下さい」

「やめろ何をするんだ。私は大統領だぞ」

「では皆さん良く見て下さいよ」

 と言うなり、コロチャンコのシャツを切り裂いて上半身を曝したのである。

「何するんだ止めろ~」

 抵抗する大統領の肩に注目させた。

「皆さん良く見て下さいよ。此処に彫ってある文字は大桂國の文字で[假貨](jiahuo)と読みます。偽物と言う意味です。これは私の師匠の張徳豊先生がコピーの施術をされた時に彫ったものです。この男はコロチャンコではありません。本物はこの男の手に掛かって処刑されたそうです。然も親しかった大統領副官まで葬り去りました。

 そっくりを良いことに成りすまして天下を思うがままにしようとした極悪人です。後は皆さんの裁可次第ですね」


 誰が悪いのかとなると元々は独裁者となった本物のコロチャンコが悪いのだが、コピーでそっくりさんとなったばかりに成りすまして悪事を働いたコピーも決して許されるものではなかった。

 能々考えて見るとこの身代わりとて、命を曝した代償がこれだとしたら何と割の合わない仕事であったことか…。

だが数十年に亘っていい思いをしたことも確かである。


 己らの欲望の為に他國に侵略して金品を奪い、尊い生命や先祖伝来の土地國土を焼き払うなど、平穏な日常を恐怖と飢えに変えたのだ。

その為に未来を託すべき自國の若者すらゲームの駒の様に扱って家族から引き離し、戦場に送り込んでは数十万にも及ぶ尊い命を散らしたのである。

更には世界中に不安を及ぼした罪は大きいと言える。

 ルシーノフ共和國の独裁者コロチャンコは己が設けた替身(身代わり)によって滅び、その偽物は施術者が肩に彫り込んだ[假貨](jiahuo)の文字によって偽物と判明して、革命の志士らに処断されたのであった。

 その直前に起こったチョンソン共和國の國防委員長排除のニュースは、妹の智惠が起こしたクーデターだとすると骨肉の争いと言えないこともないが、この時点では判明していない。

 施術者の張徳豊ですら見分けの付かなかった替身(身代わり)たちはどうしているのかも分からなかったので、この王朝で起こった事変は外電からだけでは読み取ることは出来なかった。

 その他にも消滅すべき独裁者は数人居たが、それらは歴史が伝える様に、何れは滅び去る運命であることに違いなかった。

だがその生存中に犯す過ち次第では、この世界に於ける人類滅亡の危険はないとは断言出来なかった。

                   完










 このもうひとつの世界は、天地爺が造った世界である。

何処に在るのかは分らないが、人類が各地に住み、國を建て文明社会を型造っている。

天空の太陽は陽を注ぎ、或いは雲が雨を降らす。

夜空には星が煌めいて、微かに足元を照らすのだ。



 この世界の人々は年齢より若く見えるのは一日が二十時間で読者諸氏の住む世界より四時間少ない為であった。


 

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もうひとつの世界から 独裁者の末路 夢乃みつる @noboru0805

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