第41話人形の変化
「だったらどうして……」
「あなたの行動は正しかったはずです。少なくとも、私の頭はそう答えを出したのですから。ですが、実際にその行動を目の当りにして、あなたの行動は間違っていると、そう感じました。この感情を何というのかは分かりませんが……おそらく不愉快だったから、なのでしょう」
そう話したヴィーレだったが、彼女自身もなぜ自分があんな行動に出たのかはっきりと理解したわけではないのだろう。無表情の中にどこか困惑した様子が見える。
「そう思ってくれるのはありがたいけど……でも!」
しかし、グレアにはそんな些細なヴィーレの変化よりも気になったことが……気にしなければならないことがあった。
「でも……これじゃあ君の腕は返ってこないんだよ!?」
大会の作品として提出された義手は、例外なく主催者である国側に回収されることとなっている。そして、回収された義手は屍獣と戦って腕をなくした兵士や騎士達に使われることになる。
未発見の才能を見つけることができる上、性能にばらつきはあるものの費用を掛けずに義手を用意できる良い案だったと言えるだろう。参加者達も、義手は持っていかれるが後ろ盾を得たり成り上がるチャンスを得られるのだから、参加費として考えれば決して高くはないと言えた。
本来であればグレアもそのことには納得しただろう。だが、それがヴィーレの腕となると話が変わってくる。なにせ、ヴィーレの腕はミムスが……故人が作ったものだったのだから。一度提出されてしまえば、もう戻ってくることはないのだ。
「そうですね。ですが問題ありません」
「あるよ! だってあの腕は君のお父さんの形見じゃないか!」
「形見……確かに、そう言えるものなのかもしれません。しかしながら、結局は道具の一つでしかありません。道具は使うべき時に正しく使ってこそ価値を持ちます。ですので、これでいいのです」
それに、グレアは知らないことではあるがヴィーレに残されたものは他にもある。左腕以外にも、右腕も両の脚も義肢であり、なんだったら全身がミムスによって用意されたものだと言えた。だから形見と言われてもそこまで気にする必要があるものでもなかった。
「でも、それじゃあ君の腕はどうするんだ……」
確かに、仮にヴィーレが気にしていないとしても、その問題がある。だが、それは問題だとグレアが思っているだけで、それさえもヴィーレにとっては問題でもなんでもなかった。
「グレアが作ってくださらないのですか?」
なぜなら、ヴィーレの中ではそうなることがもう決まっていたのだから。
だからこその、この疑問だった。
「え……」
「私の腕は、あなたがまた作ってくれれば構いません」
「僕が、作る……?」
「完璧ではないとはいえ、ある程度の再現はできるようになっていましたし、これからも精進するとおっしゃっていたのでグレアに頼もうかと思っていたのですが……申し訳ありません。グレア側の事情を考えておりませんでした。グレアに頼むことができないのでしたら、どなたか他の方を――」
「ダメだ!」
考えたわけではない。ただヴィーレの言った通りになるのは嫌だったから、意地になって反射的に口から否定の言葉が出た。
そんな言葉が出たこともそうだが、叫んでしまった事にグレア自身目を丸くして驚き、慌てて口を押さえた。
「あ……いや、その……大丈夫だよ。君の腕は、ちゃんと僕が作るから。この役割だけは、他の誰にも譲らない」
「そうですか。では改めて私の腕をお願いいたします」
そう言って頭を下げてきたヴィーレだったが、グレアはそんなヴィーレの言葉にすぐにうなずくことは出来なかった。
――私の腕は、あなたがまた作ってくれれば構いません。
ヴィーレはそう言ったが、だからといってそれで心の底から納得できるほどグレアも子供ではない。
ヴィーレの腕で審査を合格してしまったことで嫌悪感と罪悪感を抱えていたこともあり、自分なんかがやってもいいのか、という迷いが生じていたのだ。
だが――
「ヴィーレ。僕はもっと頑張るよ。今まで以上に頑張って、いつか必ず君の腕を完全に作り上げて見せる」
自身の覚悟を告げるように、ヴィーレのことを真っすぐ見つめながら言葉にされた想い。
「その時を待っています」
そう言って微笑みを浮かべたヴィーレは、もう最初にこの街に来た時のような〝人形〟ではなかった。
システムエラー ~終わらない世界の終わり~ 農民ヤズー @noumin_00
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