第5話



「カムジがいるな。周りは街の衛兵か?緊張するよ」


「わたしの知り合いばかりだね。みんないい人だよ。だから大丈夫」


カムジは同じリュックを背負っているが、言っていたように先にそっちを片付けられたのだろうか?カムジの他は金属の鎧を着た兵士が20人ほど。驚かさないようにかなり手前からスピードを落とす。カムジがここに停めろって感じの手ぶりをしていたのでそこに停め車を降りる。


「ありがとなカムジ。知った顔があると安心するわ。依頼は終わらせたのか?」


「おう、大急ぎで済ませてきたぞい。ここから後はこの隊長の指示にしたがってくれ」


カムジの隣にいた背の高い衛兵が前に出る。デカい!2m以上ある。


「ようこそ異世界の方。わたしはズヴェルダーツの衛兵隊長をしているテムと申します」


「はじめまして、新藤祐樹です」


隊長さん、瞳孔が爬虫類みたいな感じ。また違う種族が出てきたな。


「テム久しぶりー!」


「久しぶりだなファウ。すまんがお前も一緒に来てもらうぞ」


ファウが言ってた通り知り皆知り合いみたいだ。他の衛兵たちとも言葉を交わしている。


「迎賓館までご案内します。先導しますからついてきてください」


「わかりました。ファウ、行くよ」


先頭に馬に乗った隊長、ちょっと後ろに自転車のカムジ。俺たちはカムジの後ろを進み、俺たちを囲むように10人の衛兵が馬でついてきていた。

迎賓館までの道は両側に衛兵が立って道路を規制している。異世界人が来た話が伝わっているのか元々人が多いのか、とにかく凄い人だかりだ。


迎賓館は街の湖側、外壁近くにあった。外壁ほどではないが、ここも高い塀に囲まれていて、門には4人、敷地内には見える範囲で20人くらいの兵がいた。洋風の庭園の奥には、派手では無いがいかにも要人を迎える雰囲気の館がある。


「乗り物はここに置いてください」


本来は馬車で乗り付けるであろう屋根のかかった玄関前に車と自転車をとめる。隊長を先頭に俺とカムジ、ファウは中へ。後ろに4人の兵が続く。その他の兵は車の守りのようだ。


「まず宰相に会っていただきます。今後の話をされるそうです」


「今後ですか・・・・どうなっちゃうんですかねぇ・・・」


「見知らぬ世界に来て不安でしょうが、この世界には異世界の方を保護する法があります。ですから安心してください」


「はい、ありがとうございます」


隊長さん、見た目はデカくてちょっと怖いけど、話し方は優しい。


「・・・・・この部屋です。異世界人ユウキ殿をお連れしました!」


「入れ」


後ろについていた兵が前に出て扉を開く。中にはソファーに座ったエルフの男と、元の世界とは服装が違うけれど、おそらく執事とメイドって感じな人たち。エルフが宰相だろう。

部屋に入るとエルフが立ち上がり言う。


「ようこそヴェルズ王国へ!我が国はユウキ殿を歓迎いたします。私はこの国の宰相でサヴィーテ・ヴェルガナスと申します。どうぞおかけください。ファウとカムジも掛けてくれ」


宰相が座り、俺たちはテーブルを挟んで向かい側のソファーに並んで座る。俺が真ん中だ。隊長たちは部屋を出て行った。普通は警護に残ると思うのだが、ファウとカムジがいるからか?もしかするとこの宰相強かったりする?


「早速ですが今後の話を。これから数日はこの館で過ごしてもらうことになります。その間、ユウキ殿やあの乗り物について簡単に調べさせてもらいます。本格的な調査の前の予備調査といったところですね」


「わかりました。あの、衛兵さんたち出ていきましたがよかったんですか?俺が危険な人物だったらどうするんです?」


「ファウとカムジがいますからね。2人ともしばらくユウキ殿と一緒にいてもらう。本来なら依頼は拒否することも出来るが事態が事態だ。申し訳ないが頼む」


「仕方あるまい。上級の務めじゃ」


「わたしは望んでここにいますのでお気になさらず」


「なんとなくは察してたけど、やっぱり二人とも強いんだな」


「まだまだじゃがの」


「でもわたしは抑えるより守るためにいると思ってるからね」


「ファウ・・・ありがとう」


「カムジの話や私の印象から、ユウキ殿は危険人物ではないとは思っています。ですが万が一の場合取り押さえる者が必要です。そこはご了承いただきたい」


「理解しているつもりです。それに知り合ったばかりですがこの二人なら気が楽ですので」


「ありがとうございます。その後の話ですが、今大急ぎで空いている館を改装しています。作業の完了、それと他国の調査団の到着を待ってそちらに移っていただき、そこで本格的にあなたやあの乗り物を調べさせていただきます。もちろん話したくないことや調べられたくないことについては無理強いはしません。ですがこちらとしましては可能な限り協力していただきたいと思っております」


「こちらも出来る限りのことはするつもりです。外出は可能ですか?」


「申し訳ないのですが出来ません。これはあなたを守るためでもあるのでご理解いただきたい。ですがこの館の中では自由にしてくださって結構です。三人の世話には彼らをつけますので、何かあればお申し付けください」


横に立っていた執事?メイド?な人たちが一礼する。


「わかりました。皆さんよろしくお願いします」


貴族なんかはしないのかもしれないが、日本人な俺は立ち上がって彼らに頭を下げておく。あまり偉そうに出来ねぇんだよ庶民だから。それと・・・


「二人ともすまない。俺と出会ったばっかりに」


「なあに、かまわん。また異世界の酒が飲めるでのう」


「料理おいしかったし、晩御飯はまたユウキが作ってくれる?よかったら宰相様も一緒にどうですか?」


「それは是非ともご一緒させていただきたいですね。ですが今日は難しいです。可能な限りこちらには顔を出す予定ですので、その時にでも」


「わかりました。俺が元の世界の料理でおもてなししますよ」


「楽しみにしています。ではあとはよろしく頼むよ」


執事たちに言い、宰相は部屋を出て行った。


「では改めましてご挨拶を。私はこの迎賓館の業務を取りまとめておりますセイバと申します。ここにいる間は私達がお世話をいたしますので、何かありましたら遠慮なくお申し付けください」


「新藤祐樹です。しばらくお世話になります。俺は一般人なのであまり堅苦しいのは苦手です。そんな感じでお願いします」


「そのように心がけましょう。まずはお部屋にご案内します。乗り物に荷物があればお運びいたしますが?」


「あー、じゃあ車・・・あの乗り物に。ファウの荷物も積んだままだしね」


「わしも手伝おう」


「じゃあ皆で行きましょ!」


車から洗面具や衣類、酒、食材などを降ろす。


「わたしたちがお持ちします」


メイドさんが言ってくる。


「じゃあそっちの服が入ってる箱お願いします。カムジは冷蔵庫頼むわ」


そう指示しながら、冷蔵庫から引手を引っ張り出す。持ち運べるように車輪付きだ。

冷蔵庫はバッテリーでしばらくは動くけど一応ポタ電も持ってくか。あとノートPCも持っていこう。


「これで全部ですかな?」


「あとは必要になったら取りに来ますので」


「ではお部屋にご案内します」



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