第6話
部屋は一人一部屋。俺が真ん中で左隣がファウ、カムジが右。どちらにもドアがあって直接行き来出来るようになっていた。
ずっと気を使って煙草を吸ってなかったので、窓辺で一服してるとノックの音。ファウの部屋のドアだな。
「どうぞー」
「遊びに来たよー!あ、それ何?」
「タバコ。こっちには無いか?」
「葉巻みたいなものかな?」
「まあそんな感じ。ファウ・・・・さっきまでと大分感じが違うんだけど」
今の服装は丈の短いTシャツみたいなのにショートパンツ。
「街の外は虫とかいるしね。街中だと大体こんな感じだよ?」
「そうなんだ」
エルフってスタイルいいのな。
「最初会った時みたいに見とれてくれたねぇ」
「バレてたんかい!あーでも気を悪くしたならごめんな?」
「悪くするわけないでしょ?あの時は嬉しくてニヤけちゃったよ(笑)」
あれは微笑んでたんじゃなくてニヤけてたのか。
「そうだったの?でも見とれてたとかなんか恥ずかしいな・・・そうだテムさんって種族は何?」
恥ずかしいから話題を変える。
「気が付いた?テムは竜人族。あのくらい背が高いとほぼ間違いなく竜人族だよ。他と違うのは背の他には目だね」
「俺は目で気が付いたよ」
「皮膚も違うんだよ。普通の皮膚に見えるけど、あれってこまかーい鱗なんだ。刃物で切り付けてもそうそう通らないんだよ」
「へー、鎧着てるようなものじゃん」
「そうだね。だからかな?冒険者とか兵士になる人が多いよ」
「ふーん・・・・あ、そうだチョコレート!別なお菓子も入ってるよ。そっちも気に入ってくれるといいけど」
実はチョコレート大好きなので沢山持ってきていたのだ。段ボールに入った他のお菓子ごと全部渡す。
「こんなにいいの?ユウキ、自分で食べる分無くなっちゃうんじゃない?」
「こっちに来た時のこと、ファウには言ってなかったよね?」
ファウにはまだ俺の歳のことしか教えてなかった。
「そういえばまだ何も聞いてなかったよね。でもこれと関係あるの?」
「あるんだなこれが。こっちに来ることになったのはさ・・・・・ってわけ。だからこのお菓子も食った分は明日の朝には元に戻るから、遠慮しなくていいよ」
「おおー!じゃあ遠慮なくもらっておくね!どれどれ・・・」
お菓子をあさるエルフ、なんか可愛い。
「これがさっき食べたのだよね?いただきまーす!んー、おいしー!」
「食べ過ぎて虫歯になるなよ?」
「ならないよぉ!ちゃんと歯は磨いてるし、魔法で治るし」
「それってヒールって魔法?」
「そうだけど、魔法が無い世界だったのになんで知ってるの?」
「現実では魔法は無かったけど、空想の物語にはよく出てきたからね。その中にヒールもあったんだ」
「それ、他にもいろんな魔法出てくるのかな?」
「そうだな。話によって違ったりするんだけど、例えば火魔法、水魔法、土魔法、光魔法、闇魔法って感じで系統がわかれてて、それぞれの系統にいくつもの魔法があるってのが多いかな」
「へー、面白いね。でも実際の魔法は術者のイメージ次第」
「イメージが大切って話はよくあったな。魔法って何を使って発動するの?魔素とか?」
「魔素も知ってるんだ!ユウキのいた世界は想像力豊かな人が多かったのかな?そう、魔法に使うのは魔素。これはどこにでもあって、空気、土、水、何にでも含まれてるの。もちろんわたしたちの体にも。で、発動のきっかけになるのは自分の体内の魔素で、これは魔力って呼ばれてる。本当は体内魔素量にイメージする力をかけたものが魔力なんだけど、イメージ力なんて簡単に測れないからね。普通は体内魔素を魔力って呼んでるよ。その魔力で周囲にある魔素を反応させて魔法は発動するわけ。でも魔力が強い人はそれだけで魔法が使えるよ。稀に魔素が少ない場所があるんだけど、そんな場所では必然的にその方法になるね」
「じゃあ魔力が無ければ使えないわけか。俺はどうなんだろ?」
「多分宰相様が次に来るときにいろいろ持ってくると思う。その時に測るんじゃないかな?」
「そうか、楽しみだね」
「ちなみに今までの異世界人さんたちはみんな使えなかったけどね」
「えー、使えなかったらガッカリだなぁ」
まあ使えりゃラッキー程度にしか思ってなかったから言うほどガッカリはしてないが。
「すまん、お菓子だけ出して飲み物出してなかったな。ファウはどんなのが好き?」
「気にすることないのに。いただくけどねー。どんなのがあるの?」
「暖かいのと冷たいのではどっちがいい?」
「じゃあ冷たいので。甘いのがあったらそれがいいな?」
「甘いの食べながら甘いの飲むの?」
「甘いの好きなんだ。チョコレート最高!わたしチョコレートだけで生きていけるわ」
「いや無理だろ(笑) あ、じゃあチョコレートみたいなのは?」
「飲みたい!それお願い」
「俺も飲もっと。えーっと・・・あった。はい、ココアって飲み物だよ」
「また違う容器だね。ユウキのいたとこ容器の種類多すぎない?」
「多分それぞれそうなっている意味はあるんだと思うけどね。これは横にくっついてるストローを出して伸ばして刺す」
「出して伸ばして刺す・・・・ストローって何?」
「ストロー無いのか?ここに口をつけて吸い出すんだけど、加減がわからないと多分器官に入るからゆっくり、ゆっくりな」
「ゆっくり・・・・おおー!チョコレートみたいな味」
「チョコレートドリンクって言ったりもするからな」
「これも好きすぎるぅ!暖かくてもいけそうね」
「そうだな。寒い時期には暖かいの飲むよ」
チョコレートと酒さえあればファウとカムジはずっと味方でいてくれそうな気がしてくるわ。
「さっきカムジが上級って言ってたけど、冒険者のランクのこと?」
「そうだよ。あまり細かく分かれてないけどね。上、中、初だけ」
「それだけ?」
「んっとね、これが冒険者証なんだけど・・・」
ファウはそう言って、首から下げていた自分の冒険者証を外して見せてくれた。革ひもの先には太さ1cm、長さは7scmくらいで両端に金属のリングがついた黒い棒と、同じ長さの薄い金属板。黒い棒は真ん中で折れるようになっているみたいだ。金属板には文字と数字が刻んであり、こちらの文字だが俺には読める。ヴェルズ ズヴェルダーツ 000238629 ファウ・アルニ。
「この棒が冒険者証。その冒険者の情報が記憶されていて、ギルドの魔道具で読み取ることが出来るの。ランクで色が違ってて、黒は上級だよ」
「じゃあファウも上級か。一人旅してるくらいだもんな。他のランクは?」
「中級の色は茶色、初球は白。どこかで亡くなって遺体が回収不能な場合、冒険者証を折って持ち帰る。冒険者証は本人が生きてる間は折るのが難しいくらい硬いけど、亡くなると簡単に折れるようになるの。あとから遺体が回収可能ならその時に確認するため棒の半分と金属板は残すのよ。金属板には登録した国と街、冒険者番号と名前が刻まれてるわ。それと戦とかで一度に大勢亡くなることもありえるでしょ?安置所で間違わないようにそっちは付けておくわけね。金属板は名札って呼ばれてるよ」
なるほどドッグタグみたいなものだな。
「登録後一年経てば中級になって、受けられる依頼の制限は無くなるんだけど、受けられるからと言ってこなせるとは限らない。命に係わるのもあるから、自分の力量を正確に把握して依頼を選べるのは冒険者の必須条件ね。そして今より稼ぎたいならもっと精進することが求められる。頑張って名前が売れれば指名の依頼なんかも来るようになるわ。そのくらいで上級かな?上級に上げるかどうかはギルドが判断するんだけど、冒険者証に記憶してる実績で判断してるそうだよ」
「危険な仕事って感じだなぁ」
「それは依頼によるけどね。魔物関係は危険なのが多いかな。でも依頼って基本人助けだからね、やりがいはあるよ。ユウキは?あっちではどんな仕事を?」
「俺は配送、運び屋だな。荷物を受け取って、車で目的地まで運ぶ仕事。車の運転が好きだったからね」
「一日でどのくらい走るの?」
「その日によって違うな。近場ばかりで60kmくらいだったり、遠いと1000km以上とか」
「1000km!そんなに走れるの?」
「こっちだと多分石畳になってるのって街の近くだけで、それ以外は土のままだよね?あっちは舗装道路って言って、街から離れてるとこでもほぼ全ての道路は石畳よりもっと平らになってるんだ。そして高速道路っていう車だけの専用道路がある。スピード出せるから結構な距離を走れるんだよ。1000km以上はキツかったけどね」
そう言って高速道路や実際に運んだ先の関西空港の写真や動画を見せてやる。
「これが飛行機、空を飛ぶ乗り物だよ」
「凄いね・・・・行ってみたいなぁ・・・」
「俺も帰れるなら帰りたいけど、それは出来ないって言われたから」
「・・・・・なんかゴメン。わたしたち、ユウキの気持ちとかあまり考えてなかったね」
「どうしたん急に?」
「ユウキ、あっちの世界のこと話してると、たまに寂しそうな顔するような気がしてたの。今はすごく・・・」
そんな顔してたのか。
「俺さ、自分の世界の技術でこっちがどんなふうに発展するかとかスゲー興味あるし、話してて楽しいよ?だからあまり気を使わないで」
本当にそう思っている。嘘ではない。でもたまにみんなに会いたくなる瞬間がある。だがどうしようもないことなのだ。
「・・・・・わかった。でも辛いときは言いなよ?おねーさんが聞くから」
ファウは優しいな。さっき出会ったばかりなのに。
「わかった。その時はお願いするよ。ありがとうファウ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます