第3話


「やはり馬や魔物が引いていない乗り物とは、なんとも違和感があるのう。しかしこのナビか?おぬしのいた世界は技術が進んでおったのだな」


車はカムジを乗せて街道をズヴェルダーツに向かって走っていた。


「ナビはこの世界じゃ動かないハズなんだけどな。神様が気を利かせてくれたみたいだ」


カムジと話は通じるのだが、何かが言語を翻訳しているらしい。お互い口の動きと聞こえる言葉が合っていない。カムジには俺の言葉がこの世界の言語で聞こえているとのこと。ナビの文字も俺には日本語、カムジにはこっちの文字に見えていた。


思ったより道は悪くないのだが、たまに穴が開いていたり大石が転がっていたりする。少ないが馬車や人の往来もあり、その近くではあまり土埃をあげるのもまずい。だから見通しのいい直線で誰もいなけりゃ40kmくらい出すが、それ以外は20kmほどで走っていた。


「俺このまま街に行って大丈夫だと思うか?」


カムジはいい奴っぽいんだが、他の人もそうとは限らない。神様が言っていた最初は悪人に会わないって効果、それがまだ続いているかもわからない。


「ああ、それは大丈夫じゃ。この世界には異世界人は保護するという法がある」


「そんな法があるのか?」


「これまでにも稀にあったと言ったじゃろ?その過去の異世界人たちはこの世界に知識や技術など、それまで無かったものをもたらしてくれた。じゃからそんな法が出来たんじゃろう。どこの国でも異世界人が現れた場合は保護され、他国に報告する義務がある。それとヴェルズ王国と他3か国には条約があってな、知識は共有される決まりじゃ。街に着けば国賓扱いかもしれぬぞ」


「それもなんかなあ。普通の一般人だぞ俺は。なあ?いつの間にか洗脳されてて、国のために働かされたりとかしねーよな?」


「ガッハッハ、そりゃ考えすぎじゃ!」


「すまん、カムジを信用してないってわけじゃないんだが・・・」


「気にするな。わしがぬしの世界に飛ばされたと考えると、同じように思うじゃろうからの」


ズヴェルダーツに近くなって道が石畳に変わる、ちょうどその境目あたりに野営地があった。ここで休憩をとることにする。時計は13時半。こっちの世界も一日は24時間くらいらしく、時計のズレは今のところ感じられない。

井戸が2カ所と小屋が2軒。大きい小屋の中は二つに分かれていてそれぞれに井戸がある。水浴び用だそうだ。分かれてるのは男と女ってことな。小さい小屋はトイレだ。


「夜は街の門が閉まる。ここは街から近いが、門限に間に合わない時などはここで野営をする者は多い」


その時俺たちの方へ走ってくる人が見えた。


「カムジ!」


「おう、ファウではないか!帰って来たのか」


耳が長い!エルフじゃん!


「知り合いか?」


「ああ、同じ冒険者じゃ。あちこち1人で旅をしながら冒険者をやっていて、年に一度ほど帰ってくる。久しぶりじゃの、ファウ」


ヤバい、可愛いと美しいが混ざり合ってとんでもないことになっている。思わず見とれてしまった。身長は俺より少し低いくらいかな?俺が175だから170くらい。ただ着ている服は意外と露出が少なくてちょっと残念。異世界ものの漫画なんかだと大抵露出が多い服を着ているものだが、女性が街の外で肌を露出するってのは、虫とかいそうだし実際はあまり無いのかもしれない。エルフさんは長袖の上着を着ていた。


「1年ぶりね!この人は?」


「おう!この男、なんと異世界人じゃ!」


「異世界人!前に来た人に会ったことがあります。いつこっちに来たんですか?まだ噂になってないってことは来たばかりでしょうか?」


見た目は20代前半くらい。だけど異世界人に会ったことあるってことは、少なくとも100年以上生きてるってことだ。やはりエルフは長命種らしい。


「昨日来たんだ。俺は新藤祐樹、よろしくね」


「はじめまして!ファウと申します。カムジとは以前仕事で一緒になって、それからの付き合いなんです。この乗り物はあなたの世界の乗り物なのですか?」


「そうだよ。これは自動車と言って、元の世界じゃ普通に走ってる乗り物だ」


「このような乗り物が普通に走っている世界ですか?とても興味深いです。今は休憩?」


「そうじゃ、昼がまだだったのでの」


「わたしもこれからなの。ユウキさん、ご一緒していいですか?」


そんなの断るわけがない!


「もちろん!じゃあちょっと遅くなったが昼飯は俺が異世界の食事を出そう。口に合えばいいけど」


神様が俺を食べるものが無い世界に送るとは思えない。だから俺の世界の食べ物もこっちの人は食べられるハズ・・・多分。


ガソリンのコンロと鍋を準備。


「カムジ、酒飲むか?」


「おう!今出してくれるのか?」


「別にかまわんだろ。俺はお茶にしよう。ファウはお酒飲む?」


「まだ昼間ですし、お酒以外でお願いします。水汲んできますよ?」


「そう?じゃあお願い」


ファウに鍋を渡す。


シェルには60リットルの冷凍冷蔵庫が3台積んであった。それぞれ中身は冷凍食品と氷、冷蔵食品と飲み物。1台は全部酒である。


「鍋はこの上に置いてくれるかな?じゃあカムジはこれ。ファウはこれね」


カムジにはビール、ファウにはペットボトルのお茶をそれぞれに開けてから渡す。


「冷たくておいしいです。紅茶とは違うのですね」


「これは緑茶。紅茶になる前の葉でいれたお茶だよ」


「カァーッこのビールはうまいの!物を冷やす魔道具のようなものも積んでおるのか?」


「ああ、冷蔵庫だ。好きなだけ飲んでいいぞ」


「もっと強い酒は無いのか?これもうまいが物足りぬ」


ビールを飲み切ったカムジが聞いてくるが、お前飲むのはええよ!


「じゃあもう少し強いの出してやる」


最近一番飲んでる奴だ。40度のジン。めんどくせーから瓶とマグカップ渡して勝手にやらせる。


「綺麗!これはガラス?こんな綺麗な瓶初めて見ました」


水色の瓶を見たファウが驚いている。


「そうなの?こっちではどんな容器使うのかな?」


「酒ならば樽じゃの。高級品になると陶器もあるが・・・おう!最低でもこのぐらい酒精が強くなくては飲んだ気がせんわ!」


「その酒はやるから持って・・・ってラッパかよ」


「カムジ・・・まだ昼間だよぉ?」


飲み切ってるし。仕方ないのでバーボンを出す俺。


「すまんの。あまりにうまいのでついな」


「まあいいさ、まだまだあるからな。食器なんかは何で出来てるんだ?」


「食器は木製が一般的で、陶器や金属は高級品になります。ユウキさんの持っている物は、どれもこちらからすると高級品ですね」


今持ってるのはほとんどキャンプ用。ステンレスだったっけ?よく知らん。


「このカップの金属も知らぬものじゃな。ビールの容器も知らぬ素材じゃったし、本当にぬしの持ち物は興味をそそられるものばかりじゃ」


話している間にお湯が沸いた。レトルトのカレーとご飯を投入。


「同じ料理でもちゃんと作った方が美味いんだが、時間がかかるから今はこれで。温めるだけで食えるから便利だよ」


「ほう、これは保存期間はどのくらいじゃ?旅の最中に食うのに良さそうじゃが」


「どっちも一年ってところだな。すこしくらい過ぎても大丈夫だとは思うが」


「それは便利ですね!味の方はどうなのでしょう?この世界の保存食は正直あまりおいしくはないですから」


「不味くは無いと思うけど、普通に調理した物より味は落ちるね」


いい感じに温まったところで、用意した皿でカレーライスを出す。


「・・・・・糞みたいじゃの」


「否定はせんが食う前に糞とか言うな!」


レトルトだと具が小さいから余計にそう見えるわな。


「正直見た目はあまり良くありませんが、香りは食欲をそそりますね」


「カレーライスって料理だ」


「どれ・・・おお、これは美味いの!見た目は糞じゃが」


「食ってる時に糞言うな!」


「凄く美味しいです。多くの香辛料が使われているようですね」


「そうだね。香辛料って街では手に入るかな?」


「売られていますけれど、種類によっては他国からの輸入になりますから高いですよ」


「やっぱりかぁ」


まあ俺はカレーを調合から作るなんて面倒でルーを使ってるから問題ない。

するとファウがシェルを見て聞いてきた。


「たくさん荷物が積んであるようですが、ユウキさんは商人なのですか?」


「違う違う、たまたま荷物を積んでいる状況でこっちの世界に来ることになっただけだよ、商人じゃない」


「どんなものを積んでいるのですか?」


「ほぼ引っ越しみたいになってるね。服と酒、食品と調理道具、工具類、自動車はガソリンってのをエネルギーにして走るんだが、それの予備。部品の予備もあるな。あとバイクと自転車、これは車より小さい乗り物ね。荷台のシェルが壊れた時に補修する材料もあったな。ギターとベース、これは楽器。ああ、あとバスタブ、風呂桶だね」


「風呂桶なんぞ積んでおるのか?」


「家を建てる作業に行くところだったんでな。他の材料はほとんど運んであったんだが、こいつは前回積めなくてさ。あとはタブレット、スマホ、ノートPC。これらは多分説明しないとわからないだろう」


「何に使うのですか?」


「見てもらった方が早い。これがスマホ」


ポケットからスマホを出す。


「ナビに似ているのう」


「ナビは機能の一部で、あれ自体はタブレットって言うものだ。確かに大きさが違うだけで、機能なんかはほぼ一緒だな」


そう言いながらタブレットでも使っているマップを出す。


「これがナビですか?地図のようですね」


「自分の居場所がわかる地図じゃぞ」


「そんなことが?」


「今はこの点にいるわけだね。あとは・・・二人ともこっち見てー」


スマホのシャッター音。


「何をしたんじゃ?」


「ほれ」


今撮った写真を見せる。


「なんですかこれは!」


「カメラ、見たものを絵にして残せるって言えばいいかな?この絵は写真と言う。カメラにはもう一つの機能があって・・・ファウ、自己紹介して」


「え?ええっとファウ、エルフ族です。ズヴェルダーツ生まれで206歳、冒険者をやっています。か、彼氏募集中です!」


「最後のそれはいるのかの?」


「急に言われたから焦ったの!」


「ははは、じゃあ見てみようか」


スマホで今撮ったファウを再生する。画面には自己紹介してるファウ。


「ガハハハハ、この道具面白いのう!」


「ファウはカメラ映えするわー」


「ちょっ!恥ずかしいからそれとめてぇ!」


「ファウ、写真の後に自己紹介って言った時点で次はこんなのだって察しようよ?」


「異世界の道具のことわかるわけないじゃん!ユウキ、恥ずかしいから絶対他の人に見せないでよ!」


「わかったわかった(笑)」


呼び捨てになってっし敬語じゃなくなってるし。削除できるってことは黙っておこう。


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