第7話 昔話

 ルーナは村の人々から称賛を浴び、褒めちぎられてから、またネイアたちの家に戻った。


「お疲れ様でした、ルーナさん」


「しかし、それにしても強いですね。父と引き分けるなんて。それに比べ、私は……。私は母のように聖騎士になりたいんですが、剣の才能がないんです。父からも猛反対されていて……でも、それでもなりたいんです。」


「……。」


「あっ、すみません。突然、こんな話をされても、困りますよね。」


 ネイアはそう言って、少し寂しそうに笑った。

 なぜか、ネイアに重なる影が見えた。


「いや、聖騎士は剣の戦闘がメインみたいですけど、パぺルさんのようにそれ以外のステータスで補ったら、できると思いますよ。もちろん、人と違うことをするので、人一倍、努力はしなければならないとは思いますけど……。」


 ルーナの言葉にネイアは目を大きくする。それと同時に、ネイアは目頭が熱くなるのを感じた。


「ありがとうございます。ルーナさん」


「私、頑張ってみます!」


 ネイアがルーナの手を掴み、礼を言う。一方、ルーナはネイアの熱い雰囲気に気圧され、半歩下がる。いや、正確に言うと、ネイアの急激に悪くなった目つきの方にだ。

 ────いや、怒っているわけでも、悲しいわけでもないんだろうけど……。こうも目つきが刺すように鋭くなると、思わず、自分が何か非難されているみたいで心配になるんだよね。




 それは、ルーナにギルマスを思い出させた。



────モモンガさん、パンドラズ・アクターの事なんですけど、ちょっといいです

    か?


 モモンガはパンドラズ・アクターという言葉に反応し、肩をビクつかせる。


────アハハ、大丈夫ですよ。ただ、服装の話をしようと思っただけですし。


────あ、あ~、そ、そうですよね。


 そう言いながらも、モモンガは自分の黒歴史を思い出し、悶絶する。


────それでですね。服装のことなんですが、軍服の中に着るのはワイシャツにして、デミウルゴスと同じようなデザインでシンプルにした方がいいと思うんですよね。後、色はワイシャツが赤でネクタイが黒とかはどうでしょう?


────確かにいいですね。それなら、軍服を着てますし、襟の部分をデミウルゴスは出してますけど、襟の一部は上から羽織った軍服の隠して、きちっとした感じにしましょうか。


────じゃあ、宝物殿に行きましょうか。


────……。


 そう言いながら、パンドラズ・アクターをどういじるか、考えるウルベルトはモモンガの返事が聞こえないことに気づく。


────あれ、モモンガさん?


 そして、目の前に目を向ける。すると、モモンガさんはそこにおらず、どうやら強制ログアウトさされていたようだ。


────こんな時にバグとか本当に、運営はクソですね。


────そ、そうですね。


 ウルベルトはモモンガの反応に「?」を浮かべるが、気を取り直してもう一度、宝物殿に行こうと言いかける。


────では、……


 しかし、どうやらもう時間らしい。ウルベルトは仕方なく、あきらめる。


────あ、あの、ウルベルトさん。


────あっ、すみません。もうそろそろ時間が来てしまったようです。パンドラズ・アクターを一目見るくらいはしたかったのは残念ですが、すみません。今日のところはここまでにしますね。


────あ、はい、そうしましょう。


 モモンガさんはなぜか、うんうんと物凄くうなずいていた。

 モモンガさんはやはり周りに合わせるのが上手いな。まあ、そこが美点でもあり、モモンガさんを時に苦しめるのだが……。ウルベルトはそんなふうに一人、思考に耽るのだった。


────では、また。


────はい、また来てくださいね。



────はぁ~、良かった。自分の黒歴史を見ることに体勝手に反応して思わず、ログアウトしてしまったなんて、言えるわけがないよな。まあ、ともあれ、ウルベルトさんには助けられたな。今度会ったら、何かお返しでもしなきゃな。


 一方のモモンガはモモンガでそんなふうに独自の解釈をしていて、どちらも真実には気づかずにいた、めでたい2人だった。



 我らのギルマスは超のつくほどの (すごく言いにくいし、言い方がドストレートかもしれないが……)まあ、正直言って「ど・ん・か・ん」なのだ。(ど・ん・ぶ・りじゃないよ。)

 特に、女の子からの好意とかは凄く鈍いのだ。まあ、それがさらに好感度を爆上げして、本人が知らないうちにどんどん収拾がつかなくなることになるのだが、まあ本人は気づいていないため、なんだかんだ、そのまま行くことも多く、結果、オーライ(本当に?)となるのが、お約束だ。


 それに加え、超メンタルが弱いので、そんなモモンガさんがもし、この子と関係を持ったら、間違いなくモモンガさんの胃が小さくなっていってしまうのは想像に難くない。





「ただいまー」


 どうやら、そうこうしているうちにネイアのお父さんは帰ってきたようだ。

 ルーナは村のみんなに囲まれているパぺルをそっとしておいて、ネイアと帰って来たのだ。

 その時、パぺルの遠目からルーナとネイアが仲良く話しながら、帰っている姿を見て複雑そうな顔をいていることにネイアは気づかなかった。



「お疲れ様、いい模擬戦だった。君は本当に強かった。」


「君の立ち振る舞いは流れるような美しさがあって、素晴らしかった。」


「君の流派は何という名前なんだ? お父さんに教えてもらったのか? とても珍しいものようだが……。」


「あ~。この流派の名前はありません。これは幼いころに母が教えてくれた舞を参考に自分でオリジナルとして作り出したものなんです。」


 そういえば、長い事やっていなかったけれど、思ったよりも覚えているものだね。小さい頃はよくお母さんの舞を見てかっこいいと思って、見よう見まねでやってみたら、どんどん上達して……そのたびに、2人は「いい子ね」と言って褒めてくれたんだっけ。

 ネイアもお母さんと同じ聖騎士を目指していると言っていたけれど、こんな感じだったのかな?


「ほう……。君のお母さんも剣を学んでいたのかな? 是非とも会ってみたいな。」


「どうでしょうか? 私は母のことはあまり知らないんです。私が小さい頃に死んでしまったので……。」


 ルーナは下を向き、目をふせる。


「ああ、すまなかった。つらいことを聞いてしまったようで、申し訳ない。」


 パぺルは少し慌てた様子で、すぐに謝る。


「いえ、大丈夫ですので」


 ルーナも慌てて謝り返す。

 ……どうも、こちらの世界ではどうも、気が緩んでしまうようだ。少し、気を締めなおさないと。




「では、私はこれから王都に向かおうと思っているので、ここらへんで……」




 そのときだった。


 バーン!


 誰かが、ネイアたちの家の玄関を勢いよく開けた。




「パぺルさん、見習い薬師さんが倒れました!」





─────────────────────────────────────


 ネイアの葛藤を書こうと思ったんですけど、ネイアがたくましすぎて……。


 そして、その後の……出ましたね。ンモモンガ氏の黒歴しぃが。

 パンドラズ・アクターは作者の推しです。アインズ様と同じくらい好きですね。

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2024年12月19日 18:00
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オーバーロード ~ウルベルトの奔走日記~ サイカ @yuiyui1010

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