第8話 去る人と来る人
翌日、ソニーとマックスは、ブラザーキンブルと一緒に朝の日課に向かった。
スミス家の奥様は、僕達を迎え優しく抱きしめた。
「ごめんなさいね。怖い思いをさせてしまって。台所でサマンサがメレンゲたっぷりのレモンパイを用意しているわ。食べて行ってちょうだい。」
スミス家の奥様は、まるでこれが最後のおやつよと言っているように、ソニーには聞こえた。
いつもなら、すぐ走って行くところなのに、足が動かなかった。
「さぁ、行っておいで。」
ブラザーキンブルに、背中を押され、マックスと共に台所に向かった。
一度、振り向いた時に見た奥様の顔が、ソニーの見た最後となった。
修道院に戻ると、リリィが家に戻ると挨拶に来た。
「助けてくれて、ありがとう。ちゃんとお礼を言えてなかったから気になっていて。」
リリィは、ソニーの頬にキスをした。
どこかにブラザーカーチスがいるのだろうか?素っ頓狂な声がした。
ソニーは、また会えるといいねと伝え2人は笑顔で別れた。
リリィ達が出ていくにあたって、修道院では小さな騒ぎがあった。
トーマス・リープが、修道院の子供を養子にするので、子供を連れて帰ると言うのだ。
ソニーは、心臓がドキドキしながら走り、マックスが後ろで、お兄ちゃん待ってと叫んでいる。
修道院の門の所で、トーマス・リープと院長が話している。
ソニーは、急に立ち止まった。
マックスは、ソニーの背中にぶつかりながら止まった。
トーマス・リープと院長の間で、町の子供のような服を着たアーロンが小さく手を振っている。
トーマス・リープは、アーロンの頭を撫でている。
……僕も、リープさんに頭を撫でられたよ。
アーロンと僕の差って何?
「……アーロン、どこに行くの?」
マックスの小さな声が聞こえた。
「……新しいお父さんとお母さんのところ。」
ソニーも、小さな声で呟く。
マックスが、ソニーの手を握った。
「僕は、お兄ちゃんがいい。」
マックスが、ソニーを見上げた。
「僕は、お父さんにはなれないよ。」
ソニーは、呟いた。
「うん、お兄ちゃんでいい。」
ソニーとマックスは、リリィに手を振り、そしてアーロンに手を振った。
「……、さっ、籠を戻して、勉強に向かおう。」
ソニーは、なんとか気持ちを切り替えようと呟き、マックスと手を繋いで厨房へと向かった。
その夜、渡り廊下のベンチに座るブラザーヨハンソンの横に、ブラザーキンブルは座った。
すでに午前2時のお祈りは終わり、皆寝所に戻って行った。
「ソニーは、ずいぶん気落ちしているようだね。」
相変わらず、凄い耳だなとブラザーキンブルは感心していた。
ソニーは、いつもの様に振る舞っていたが、かなり落ち込んでいるようだった。
きっと怖い思いをして、抱きしめられる安心感を強く願った事だろう。
「酷な事ですが、仕方がありません。」
ブラザーキンブルは、少々不自然だと思いながら、考えを巡らせていた。
ずっと見ていた訳では無いが、ソニーやマックスと接しているトーマス・リープが、なぜアーロンを選んだのだろうか。
それと、リシャール王の側近の娘リリィが、こんなタイミング良く訪れ、スミス家の孫達の企みが露呈。リシャール王への謀反は静かに消された。
「リシャール王の側近の娘リリィは、何しに来たんでしょうか。」
ブラザーキンブルは尋ねた。
「ただの慰問、それだけさ。私達はただ神に仕えるだけだよ。ブラザーキンブル、もうお休み。」
ブラザーヨハンソンは、立ち上がると寝所に戻って行った。
一ヶ月後、この騒動に何もしなかった領主代理が解任され、新しい領主様がやって来た。
ソニーもマックスも、急いで修道院の門に駆けつけた。
新しい領主様は、まだ19歳で、リシャール王の側近の次男坊だとブラザーキンブルは言っていた。
つまり、リリィの兄だ。
リリィと違って目つきがキツイ感じで、マックスは怖いと言っていたが、ソニーは、なぜか怖いとは感じなかった。
そして、皆の注目は、領主様と一緒にこの町に来られた賢者様だった。
賢者様も若く、20代のようだ。
賢者様の姿を見て、皆、感嘆としている。
賢者様は、神様のような癒やし手を持つと言われているからだ。
「お前が、領主様になったらどうだ。」
「ご冗談を。」
2人の会話が聞こえた。
品のある賢者様を見たソニーも、感激して呟いた。
「……神様が、この町にやって来た。」
ソニーとマックス 〜僕らの忙しい毎日〜 のの @nono-1
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