予てから難易度が高すぎたゲームで転生を繰り返す俺は今回も絶望する

 転生した事無い奴は思うだろう。

 それが凄く楽しい事だと。


 したことある奴はこう思う。


「ホントマジ消えたい」


 ちゃんと死ねない無間地獄ってこういう事なんだろうな。


「おお!我らが祈りに応え、とうとう大魔王イゴルベータ様がご復活なされた!」


 どこかの木の少ない山の中、巨石造りの祭壇に置かれた黒い、石棺から起き上がった俺はもうもうと焚かれる向精神薬の香煙に顔をしかめた。

 否。

 しかめてしまったのは、かがり火に照らされた馬鹿共の狂った笑いの所為か。


「黙れ!馬鹿共っ!」


 怒鳴り声と共に雷音の幻覚魔法を使うと、馬鹿共は一斉にひれ伏した。

 俺の魔法を不審に思う奴は一人もいない。


 ああ。駄目だ。

 これはまた駄目な奴だ。


「永久の眠りを妨げた事、お許し下され、しかれど、この我らザイカ教信者、艱難辛苦も限界で御座います。さすれば、御御力に縋るより他なく!イゴルベータさ」


「だから違う!」


「へぁ?」


 間抜けなカイゼル髭のローブ野郎は、初めて俺の話を聞く姿勢になった。


「俺はイゴルベータじゃない!バイゼルハルドの王子だったフィンセルだ!」


「なっ!?ケツガバ王子フィンセル?!」


 ほほう。そういう伝わり方してんのか。


 この馬鹿にも殺気が伝わったのか、言ってしまった後に、俺の顔色を窺いながら引き攣っている。

 後ろの信徒服連中もガヤガヤし出した。


 はあ。

 もう面倒臭え。


「俺が認めた奴だけ発言を赦す!それ以外は!不用意な発言は口を縫い付ける!」


 久々に出した大声は良く通った。

 顔と声だけは自慢できる。

 死んでから何年経ったか分からないが、衰えてはいないな。

 復活魔法が適切だったのか?

 この馬鹿共に使いこなせたのか甚だ疑問だ。


「この私が呼び出したのは大魔王イゴルベータ様の筈!何ゆえガバ王子なぞグむぐぅ!?」


「話が通じない奴はキライなんだ」


 嗚呼。

 この台詞はゲーム中のキメ台詞でよく使われたな。

 自然と出てきてしまうと、呪われた運命を感じる。


 俺の魔法で口を縫い付けられた。カイゼル髭は、口を掻き毟りながらのたうち回っている。暴れず大人しくしてれば良いのに更に悪化して口がひき絞られている、残念な奴だ。

 見ていた奴らは、何をされたのか分からなかったらしく暫く呆然としていたが、血塗れの口で豚みたいにキーキー狂ったように泣き笑いしながら立ち上がったカイゼル髭が、泡を吹いて気絶したのを見ると、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


 口は血だらけだが、しっかりと縫われていて綻びは無い。

 うん。

 治癒魔法も腕は落ちていないな。


 俺は所謂”属性魔法”は苦手だった。

 日本からの転生組だったから仕方ないっちゃ仕方ない。

 でも、この世界では生活魔法というくくりで馬鹿にされている魔法はめっちゃ得意だ。

 実際の系統はそもそも生活でも何でもないんだが、この世界のクリエイターが住民に理解させる為に変なカテゴライズしたのが間違いの発端だ。

 それが世界の真理になっちまったもんだから、真実を探求する奴らは皆ガリレオ扱いされてしまって科学も魔法も全く発展しない。

 エンシェントだのレジェンドだの和製英語の横文字使って古いモノを有難がって新しく生まれるモノをことごとく潰しまくっている。


 多分ここは、地獄なんだろう。

 俺は宗教はやらない人間だけど、それだけは分かる。


 この世界に来たとき、初めは死ぬ間際の走馬灯だと思った。

 次に、植物状態で醒めない夢を見ていると思い。

 ゲームそっくりの異世界に来てしまったと確信し。

 結局ここは地獄なんだと腑に落ちた。


 走馬灯にしては長いなとか思っていた。

 夢だと思ったら、別の転生者に出会った。そいつは俺の人生の知識に無い事を色々知っていた。

 異世界なのは確定なんだが、システムは狂っているのに世界の完成度が高すぎる。

 ワンチャン、夢を見てる説は残るけど、顕微鏡や望遠鏡の向こうがちゃんと確認出来て、俺の知らない要素が多すぎる時点でまず違うだろう。

 そして、極めつけは。

 死んでも生き返る。

 ケガや病気が回復するのは百歩譲って我慢できる。

 拷問と回復のコンボはもう散々体験したからな!

 でも、生き返るのは頂けない。


 死者には永久の眠りをくれ。


 石階段の下に目をやると、一人、蹲って顔を上げない白ローブが居た。

 気を失っているのではなく、震え、でもじっと耐えるように伏せている。


「その方。何故逃げぬ?」


 そいつは更に首を垂れ、額を地面に擦りつけた。


 ああそか。

 俺の所為か。


「発言を赦す」


 白ローブは額を擦りつけたまま声を張り上げた。


「大魔王様ご本人のご尊顔!拝謁する事こそ我が望みでございあしたゅ!」


 若い女性の声だ。

 噛んでしまって尻すぼみになっている。


 こいつは賢い子か?

 当たり枠は有ったのか?


「何故そう思う?」


「ひっ?!そのご尊顔!そのお声っ!何より身に纏う膨大な魔力は大魔王の証に御座いましゅっ!」


 顔の至る所から汁を出しまくっている女は、嬉しいのか怖いのか、訳の分からない表情で上目遣いに俺を見上げてきた。

 端麗なクール系美女っぽいが、感情の動きを見るに、感動しているのか。

 顔がぐしゃぐしゃで見る影も無い。

 ついでに嬉ションしてる。


 その情けない顔を見て、少しだけ今世を生きてみようと思った。

 つくづく俺は、臣民に甘い。




「では。聖神の書に綴られている内容は偽物なのですか?」


「それは捉え方による」


「はあ」


 落ち着いた女を熱風で乾かし、若干パサついてしまった髪にトリートメントを施そうとしたら結構小汚かったのでまた洗い直した。

 因みに”クリーン”とかいう指パッチンするだけでキレイになる便利魔法はこの世には存在しないので、水素イオン濃度の異なる水を何種類か浴びせつけた後、温風を叩きつけた。

 着たままやったのだが、ローブが薄かったのでエロい事になってしまった。

 乾かす過程で魔力誘導で色々視てしまったが不可抗力だ。

 本人は魔法に感動してて、俺のエロ目線に全く気付かなかったみたいだ。

 前は流石に確認しなかったが、俺と違ってケツの穴はまだ無事だな。

 こんだけ美人なのに奇跡だ。


 あんな荒れ地の石棺で夜を過ごすのもキツい。

 住まいとして中央神殿に案内するというので、ついて行く事にした。

 現在のこの世界の状況も色々聞きたいからな。


「イゴルベータは有能ではあったが、魔法は使えなかった。魔力が無かったからな」


「ふえぇ」


 純真な顔で”ふええ”とか言うなよ、イメージが崩れる。


「実働は俺がしていたんだが、目立つと不味い立場だったんでな。手柄は全部あいつに任せて、俺は哀れな馬鹿王子でいる必要があったんだ」


「何故そのような?」


 色々あったんだよ。

 当時、転生者だとバレていたら、ケツガバ程度では済まなかっただろう。


「貴女の、あー」


「フィーネと申します」


「フィーネの信仰心、いや、信用はどの程度なのか測りかねるからな。これ以上は教えられん」


 ホホホと上品に笑った。


「今お聞きしたお言葉を大司教に進言するだけで、生きたまま皮を剥がれて串刺しになる事でしょう」


 げえ。


「今のザイカ教そんな事やってんの?」


 不思議そうな顔をしている。


「異端認定されて七魔財団の魔女たちに突き出されるのに比べたら、慈悲深き行いで御座います」


 地獄って加速するんだな。


 そういや、当時クレモンティーヌが言ってたな。平和な統治が何年もつのかと、一から苦労して築いた平和と善政も、一代と持たずに瓦解していく。

 文明レベルを現代日本から中途半端に導入した処で、更に歪んだ社会が出来上がるだけで良い事など何も無かった。

 真面目で優秀な日本人が何千人も力を合わせても、結局アフリカですらまともな治安と人権を導入出来なかったんだ。

 それより更にクソなこの世界を、パンピーが自称”チート”使ったところでどうにかできる訳がない。


 クレモンティーヌは、俺が死ぬ最後の時まで、転生者だと疑っていたみたいだ。

 試すような、確かめるような事を何度も仕掛けてきた。

 直接聞かれた事もある。

 結局俺は、獄中で死ぬまで隠し通した。

 何故かって?

 無駄だと確信してしまったからだ。


 この元々歪な和風中世ヨーロッパ美化世界とでも言おうか。

 出来の悪いゲームみたいな世界には、二十一世紀日本から以外にも、色々な時代から色々な人間が転生してきていた。

 二十二世紀の人類から見たら、俺の知識なんて時代遅れのゴミにしか見えない。それで世の中を良くする?

 鼻で笑われるだけだ。

 江戸時代くらいから転生してきて、頑張っている奴も居たし、現代日本から来て実用新案とか小学校の教科書みたいな事やってる奴も結構いた。

 俺が把握している最高は三十三世紀から飛ばされてきていた。

 三十三世紀でもヒトって文明維持してるんだな。あいつは遣る事成す事異次元だった。当時、色々聞きたかったけど、クレモンティーヌの目が光っていたから無理だった。

 どいつもこいつも、それなりのチート能力を持っていたけど、碌な死に方しなかったな。

 因果律とまではいかないけど、何か変な力がこの世には働いている。

 この世界を、宇宙を造った奴というかモノが確かに居て、そいつのルールは俺らには変えられない。


 絶対に。


 その謎を解こうとしたこともある。

 でも不可能だと理解してしまった。


 クリエイターは人格を持って個として存在していないし、そもそも存在する次元も違うので干渉できないし、元ネタのゲームみたいに、ボスを倒せば解決とかそういう分かりやすい話では無い。

 クレモンティーヌは、当時何とかしようと頑張っていたみたいだが、未だにヒト一人分の復活魔法一つで信徒百四十四人全員が魔力欠乏、俺の魔法にカウンターが何も無かった処を見るに、多分しくじったんだな。


 履歴書が四枚目の俺は、既に世界を導くのを諦めている。




 荒れ山の合間に真っ暗な民家が見えてきた。

 荒みまくっている。

 明かりの点いている家は一軒も無い。


「今は神聖歴何年だ?」


「千四百五十二年で御座います」


 百年経ってないぞ?!

 ここまで落ちぶれる?

 馬鹿なのか?何が起こった?


「国の人口は何人だ?ここはカルトの、ザイカの中央神殿なんだよな?隔絶されてたりする?」


 睨まれたので言い直した。


「人口とは何でしょうか?熱心な教徒は迫害されております。国は七魔財団の言うなりで御座います」


 昔のザイカ教は、ヤク中のヒッピー共が創った小規模な新興宗教だった。

 驚いた事に、ちょい前までは国教だったらしい。

 そりゃ、ヤク中の言う事よりセブンマジック財閥の言う事聞いていた方が国の運営もし易いだろう。


 鑑定系の高レベルにオラクルっていう未来を占う魔法もあるっちゃあるけど、あれ使う人が蓄積している経験によって同じ占いでも結果が違ってくるからあんま意味ないんだよなあ。

 そもそもこの世界、鑑定魔法自体が詐欺だ。

 自身に蓄積した知識から必要情報を抽出して言語表示するだけだから、魔法を使おうが使うまいが全く意味が無い。分からないモノはレベルが足りませんと表示されて終わりだ。

 ステータス表示させるUI自体が詐欺だから質が悪い。

 数値一つで生命力や魔力が明確化される訳ないだろ。クリエイターは馬鹿なのか?

 生命力残り僅かなのにやたら元気だったり、半分以上余ってるのに死ぬ寸前だったりするのに誰も疑問に思わない。

 クレモンティーヌですらUIに疑問を抱かずにいたのは恐怖を感じた。

 アレがゲーム世代と言われた二十一世紀の若者の特徴なんだろう。




 神殿に近づいていくとかがり火が灯り始め、次第に明るくなっていく。

 俺らが着く頃にはひれ伏した白ローブたちがずらりと並び、入口までの導線が出来ていた。


 見た目は自然派カルトの集落みたいだったけど、結構人が住んでいるな。

 子供の姿は見えないが、数えただけで三百人近くいる。

 光源が弱くて分かりにくいが、皆、元は白かったであろうローブが結構汚れている。

 あんま衛生環境良くないな。

 ブドウ球菌による肌荒れで皮膚がボロボロの者が多い。


 貧相なカルト村に相応しくない大理石造りの荘厳な神殿の前には、巨大な羽扇子を持った美女を左右に侍らせた百貫デブが汗をダラダラ垂らしながらデュフデュフ愛想笑いを浮かべている。


 こいつが現ザイカ教の最高指導者。大司教代行ゴべブッド。

 最高位の光皇が殺され、枢機卿全員が国外追放されたので、教団最高位は大司教のみ。

 先日、その大司教は食中毒で亡くなったらしく、偶々地方から出向してきていた司教のこいつが繰り上がって最高位になった。

 めっちゃ怪しいけど、毒殺とかでなく、普通に食中毒らしい。

 自分専用の食材を他の物に分け与えなかった為、食材の回転率が低く、保存状況が極めて悪くなっていたのを、料理番が気付かず調理してしまったのを腹いっぱい食べたのが原因だそうだ。

 その料理番も前の料理番が不手際で責任取って審問で異端扱いされて、新しく入ったおべっかだけ得意な信徒が担当してたというからこれもうコントだな。

 ザイカ教徒は全員治癒魔法が使える筈なのに、食中毒が治せないってのは一体どういう事なんだ?


「大魔王イゴルベータ様ではなきゅ役立たずの王子が召喚されたと報告はきていましゅたが、これは一体どういう事でおじゃるか?」


 頬に脱脂綿でもいれてるのか、滑舌がめっちゃ悪い。


「名誉信徒ペニーイグノランはいずこじゃ?役立たずと判明した者は審問にかけねばならんちん」


 こいつはこんな処で何をやっているんだ?


 分かり易く指パッチンしてやる。


 枯れ木のドレスを纏った大女が俺の後ろに現れ、不協和音の金切り声を上げる。

 隣に控えていたフィーネはまた漏らしてしまい、腰が抜けて座り込んでしまった。また洗ってやらないとな。

 おどろおどろしいく光るルーンの文言を可視化させた幻覚と共に、増幅させた歪振波を全方位から叩きつける。


 デブはニタニタ笑ったまま俺をずっと見ている。


 左右に侍っていた美女たちが、傅きながら羽扇子をふさりと振ると、炎の壁が俺の魔法を焼き尽くしながら迫ってきた。


 一瞬で目前まで燃え進んできた炎の壁は俺をすり抜けて、声を出せずに悶える枯れ木大女を焼き消し、最後に若干俺の前髪を炙ってから消し炭を残して夜空に消える。

 並んでいた信徒たちは完全に恐怖に飲まれ、ちぢこまって誰も動かなかった。


「ブッホホ。懐かしい魔法でおじゃる。ケツガバ王子殿。中へ」


 公衆の面前で俺をホモ扱いした貴様は万死に値する。


「フィーネ。ついて来い」


「ひゃぃ!?」


 神殿の中の暗がりに消えていくキモブタと踊りながらその後を追っていく美女二人。後を追う前にフィーネに声をかける。

 何故自分も?と飛び上がったが、俺が視線を向けると、泥汚れで真っ黒になったケツを手で隠しながらついてきた。

 暗がりになってからキレイ魔法セットでこっそりケツ周りを洗ってやると、尻尾が有ったら振りそうなくらいご機嫌になっている。


 祭壇や信徒席を通り抜け、真っ暗な廊下をグネグネと通り案内されたのは、たぶんこいつの自室だろう。

 外見に似つかわしくない、質素だが品の有る部屋だ。


 豪華なミニテーブルの向こうで重厚な椅子を軋ませて無理矢理身体を詰め込んでいるデブは、口の端から涎を泡にして吹きながら、黄色く濁った白目のねばついた視線で俺を上から下から舐っている。

 その周りを暫くクルクル舞っていた美女二人が、デブの両肘に寄り添うと、鼻息も荒く耳障りな声で唾を飛ばしてきた。


「近くにイゴルベータがおったであろ?王子が阻害しなすったのでおじゃるか?」


 記憶にないんだよなあ。


「あいつを呼んでどうするつもりだった?この状況で文官一人居た処で何も変わらない」


 あと。


「いつまでそのデブの皮を被っているつもりだ?」


 俺の一貫した態度にこいつも心が決まったのだろう。

 顔を崩して耳まで裂けた口でにたりと笑った。


「クレモンティーヌ。これはどういう事だ?」


「「「ホホホホホホホホッ」」」


 目の前の美女二人とキモデブが同じ声で一斉に笑い出した。

 凄く、気持ち悪い。

 俺の後ろに控えているフィーネがまた漏らさないか心配だ。


 ミチミチに張っていた祭司服を萎ませ、俺の良く知った、二度と見たくない顔が現れた。


 俺が王子として生きていた当時、悪逆非道の限りを尽くした。バイゼルハルドの、いや、ゴンドアナ大陸最凶の魔女。公爵令嬢クレモンティーヌ。


 もしずっと生きていたなら結構なババアだよなあ?


「痛っ!何だよ!?」


 頬を張られた。

 ぶかぶかの胸元から見えてしまっている谷間は瑞々しく張っている。


「失礼な思考を感じましたわ」


 間違いない。こいつはクレモンティーヌだ。


「もう隠さないのかしら?」


「お前は隠せよ」


 俺の視線に気付き、睥睨し、挑戦するように胸を張る。


「矢張り転生者だったのね。無理矢理脳みそを弄っておけば良かったわ」


「あの時代には、無残にくたばる道化が必要だった。俺は役割を果たしただけだ」


 面倒臭かったとも言う。


「今度も役割を果たしてもらいましょう。貴方の所為で計画が十年遅れてしまったのだもの」


 また面倒な事になりそうだ。


「拷問されて死ぬのなら願ったりだ」


「あら」


 脚を組み、値踏みするように俺の魔力を測定している。


「そんな下品な事は期待しないで下さらない?貴方には、そうね?」


 子憎たらしい笑いを口元に張り付ける。


「世界を救ってもらおうかしら?」


 俺の後ろを意味あり気に見ながらクスクスと肩を震わせた。


 振り返ると、所在なさげにフィーネがもじもじしている。

 ため息が漏れたのは意識してではない。


「良いだろう」


 きょとんとした悪役令嬢の顔を見たら、すこしだけ、ほんの少しだけ気分が晴れた。


「臣民に安寧をもたらすのは王族の責務だからな」


 皮肉の一つでも言っておこう。


「臣民を導くべき地位に生まれながらも、恋愛するしか能がないどこぞの令嬢と違って、俺は責任感が強いんだ」


 どの口がみたいな顔で、目の前の三女が高笑いした。

 俺も笑った。

 後ろで釣られてフィーネもクスクスしている。


 世界は絶望に満ちている。

 でも、それは希望が無いという意味ではない。

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かねてから異世界転生に思う処のあった俺はこの機会に自らの正しさを再確認すべく丁寧にツッコミを入れていく スイカの種 @su1kanotane

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