魂の錬金術、あるいは人間性を取り戻す物語

 古代の錬金術師たちが追い求めた「変容」の秘法は、実は私たちの心の中にあったのかもしれない。荒廃した戦地で「分捕り屋」として生きる主人公が出会ったのは、エメラルドの瞳を持つ不思議な少女。その選択の瞬間に、魂の錬金術が始まる。

 物語は現代の戦争という暴力の只中で、人間の本質的な価値を問いかける。高価な石板か、見捨てられた命か。

 その二択の前で主人公は、自身の人間性を取り戻すための選択をする。緑の輝きを放つ少女の目は、まるで私たちの良心の象徴のようだ。

 錬金術の「下なるものは上なるもののごとく、上なるものは下なるもののごとし」という格言が、予想外の形で現代に蘇る。物質的な価値を超えて、失われた人間性を回復させる物語の展開は、静かな感動を呼び起こす。

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