第7話古の書の行方

リアは深い森の中、静まり返った周囲に耳を澄ませながら、両手をかざしてクルスと共に使った二詠唱の魔法を再び試していた。彼と共にカグラグマを倒したとき、八詠唱の威力を持つ強力な炎魔法「紅蓮の断罪」を二詠唱で放ったあの感覚が、まだ彼女の中に鮮明に残っている。


「あの力が……もう一度出せるなら……」


リアは自分に言い聞かせるように呟き、意を決して詠唱を始めた。だが、どうしてもあの時の力が感じられない。胸の奥でどこか鈍い不安が広がり始める。もう一度深呼吸をして集中し、詠唱を繰り返してみるが、やはり結果は同じだった。


「……なぜ、だめなの?」


リアは呆然と立ち尽くし、静まり返った森を見渡した。さっきクルスと一緒にいたときは確かに使えた力なのに、今はどれほど集中してもあの魔力の感覚が戻ってこない。


「もしかして……クルスと一緒の時だけ、使える力だったの?」


彼女は、クルスと話していたときのことを思い出していた。クルスが異世界から自分に魔法のアドバイスをしてくれたあの瞬間、彼の助言に従うことで魔力のコントロールが驚くほど精密にできたことを――そして、そのおかげで自分の力を超えた魔法が放てたのだ。


「クルス……あなたのおかげで、私はあの力を引き出せたのね」


リアはその事実を実感しながら、心の中でクルスへの感謝が込み上げてくる。彼との不思議な繋がりが自分に未知の力をもたらすのかもしれないと考えると、どこか心強さとともに微かな希望が胸に芽生えた。


だが、同時にリアの心には深い不安も渦巻いていた。エルフの里に伝わる「古の書」が、闇の魔女の復活を狙う者によって盗まれてしまった。古の書は、かつてルーセリア全体を恐怖に陥れた闇の魔女の力を封じている禁忌の書物。その力が再び解放されれば、ルーセリアは再び破滅の危機に瀕することになる。


リアは古の書の守護者として、エルフの里でその一族の誇りを背負い、剣士として日々鍛錬を積んできた。だが、古の書が奪われた以上、ただ守護の役目に留まるわけにはいかない。里の安全を守るためだけでなく、ルーセリア全体を守るためにも行動を起こすべき時が来たのだ。


「私が、この闇の魔女の復活を阻止しなくては」


リアは改めてその決意を胸に固めた。自分の里を、そしてルーセリアを守るためには、古の書を取り戻し、闇の魔女の復活を阻止する必要がある。そして、あの二詠唱の力を再び引き出せるなら、クルスの協力もまた必要になるかもしれない。


リアの頭に、クルスの存在が浮かんだ。あの異世界の少年が持つ知識や知恵は、ルーセリアでは知られていないものばかりだ。そして、彼と共に戦うことで自分にしか引き出せない力があることも知った。クルスとの繋がりを再び頼ることは、何か運命的なものを感じさせるが、確実に彼の力が必要だとリアは感じていた。


「クルス……あなたの力が、私に必要になる時がきっと来る」


リアは心の中でそう呟きながら、自分の中に芽生えた使命感を改めて確かめた。彼女には、里を守るために、そしてルーセリアの未来を守るために、すぐに行動を起こすべき責任がある。


その日の夜、リアは決意を胸に、エルフの里を離れる準備を進めた。ルーセリアの平和を守るため、そして何者かの手に渡った古の書を取り戻し、闇の魔女の復活を防ぐための旅に出る覚悟を固めたのだった。

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