第6話異世界への探究心

リアを救った夜、クルスはスマホを見つめながら静かに息をついた。異世界のエルフ、闇の魔女、巨大な熊の魔物……自分がまさかこんな非現実的な出来事に関わることになるとは思いもしなかった。


「リアをもっと助けるには……」


彼の中に新たな意欲が湧き上がってきた。異世界のことを知り、もっとリアの力になれる方法を探す――そのためには異世界フォルダのアプリを使いこなさなければならない。調べているとリアの世界の人々は自らの世界を「ルーセリア」と呼んでいる事がわかった。


まず、クルスは「魔法」について調べることにした。異世界ブラウザに「魔法の詠唱」「魔力量」といったキーワードを入力して検索をかける。魔法に関する詳細な解説が次々と表示され、クルスは画面を見つめながらその情報に目を通していく。


「詠唱数が多いほど魔法の威力は増すが、詠唱数が変わっても必要な魔力量は変わらない……?」


その一文に、クルスは引っかかりを覚えた。詠唱を短縮しても、魔法そのものに必要なエネルギーが減るわけではない。つまり、短縮詠唱には詠唱以上の高度な魔力コントロールが必要だということだ。


「そうか……リアが八詠唱の魔法を二詠唱で使えたのは、彼女がもともと持っている魔力量が膨大だからなんだ」


ふとした閃きが彼の頭を駆け抜ける。リアは細かい魔力のコントロールが苦手で、通常は三詠唱までしか扱えないと言っていたが、持っている魔力そのものは並外れているのかもしれない。クルスはこの仮説を胸に、リアの大きな潜在能力に期待を抱いた。


「リアには、きっと恐るべき才能があるんだ。あとはその力をどう引き出すか……」


考え込む彼の視線は、画面に表示されている「闇の魔女」という別の検索結果に移っていった。再び興味をそそられ、彼は闇の魔女の伝説について読み始める。


かつて異世界を恐怖で包んだ存在――それが「闇の魔女」だという。闇の魔女は、禁じられた魔法の知識を得て、異世界全体に破滅をもたらす力を手にしていた。しかし、彼女の力はエルフの一族によって封印され、魔女が手にした魔力の源もまた、古の書に封じられたのだという。それをエルフ達は大切に守っているらしい。


「なるほど……リア達エルフは『古の書』を闇の魔女から守っているのか」


クルスは異世界フォルダで得た情報を通じて、リアの使命がいかに重いものであるかを理解し始めていた。彼女が守るべきものは、エルフの一族の誇りであり、闇の魔女の脅威から異世界全体を守るためでもあるのだ。クルスは、単なる魔物退治の延長でなく、リアの背負うものの大きさを改めて感じた。


次にクルスは「エルフの文化」「エルフの詠唱」についても検索し、リアたちエルフの生き方や価値観について知ろうとした。異世界ブラウザに表示された情報には、エルフたちが自然と調和し、魔法を詠唱という形で大切に伝承していることが書かれていた。


「エルフにとって詠唱はただの魔力操作じゃないんだ……歌や詩のように自然の力を感じながら、祈るように魔力を込めるものなんだな」


クルスは、リアが誇りを持って剣士として生きているのも、このエルフの文化の一環なのだと感じ、彼女に対する尊敬の念がさらに深まった。


その後も、クルスは異世界に関するさまざまな情報を読み進めていった。異世界には魔法が日常に溶け込んでいるが、辺境ではいまだ魔物の脅威が人々の生活を脅かしている。都市部の豊かさと辺境の危険、魔力と自然の共存――異世界の複雑な構造が、画面を通じて少しずつ彼の中に浸透していった。


「リアの生活も、常に魔物と隣り合わせなんだろうな……」


リアが異世界でどれほどの危険と向き合いながら生きているのか、クルスはますます彼女を支えたいと思うようになった。そんな中、ふと一つの疑問が浮かぶ。


「もし、現代のアプリをこのフォルダに入れたらどうなるんだろう?」


思いつくままに、クルスは自分のスマホにある「マップアプリ」を異世界フォルダに移してみた。すると、アイコンが一瞬光り、見慣れたアプリが「異世界仕様」に変わるのが目に入った。


「……マジか?」


驚きながらマップアプリを開くと、そこにはリアのいる異世界の地図が表示されていた。地形や村々の位置が表示され、リアナの現在地やその周囲の状況まで確認できるようになっている。クルスは息を呑みながらその画面を見つめ、異世界フォルダの機能にますます興味が湧いてきた。


「現代のアプリをフォルダに入れるだけで異世界仕様になる……これは本当にすごい」


クルスは、次々とアプリを異世界フォルダに入れてみたい衝動に駆られた。そして、ふと新しい考えが閃いた。


「もし、自分でリアナを助けるためのアプリを作ったらどうなるだろう?」


彼には簡単なアプリを開発するスキルがあり、以前からちょっとしたツールを自作して楽しんでいた。異世界フォルダの力を使えば、自分の手でリアに役立つアプリを作れるのではないか――その考えが、彼の中に新たな情熱を燃え上がらせた。


「よし、俺ができることをもっと増やして、リアの力になってみせる」


異世界の知識を深め、フォルダの可能性を探る中で、クルスはリアを支えるために異世界向けのアプリを自作する決意を抱いたのだった。

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