第5話危険度Aランクの魔物
「クルス、まずい魔物に見つかった!」
リアと通話が繋がったままのスマホを手に、クルスは彼女の切迫した声に焦りを覚えながら異世界ブラウザで魔物の情報を調べようとしていた。リアが息を切らしながら、何とか状況を説明しようとしている。
「リア、今どんな状況なんだ?今襲われてる魔物名前わかるか?」
「これは…確か古い伝説に出てくるカグラグマかもしれない!」
「カグラグマ……分かった、少し待っててくれ」
クルスはすぐに異世界ブラウザを開き、「カグラグマ」を検索する。すると、画面に赤い文字で「危険度Aランク」と表示され、その下には「カグラグマ:巨大で凶暴な熊型の魔物。通常、八詠唱以上の炎魔法でのみ撃退可能」と書かれているのを見つけた。
「リア、カグラグマはAランクの魔物で、倒すには八詠唱の炎魔法が必要みたいだ」
リアの声に緊張が走る。「Aランク?!天災旧の魔物よ。しかも八詠唱の魔法……?そんなの、私には無理よ!八詠唱なんて、国家の伝説魔法師でも使いこなせる人はごく一部よ。私が扱えるのは三詠唱までが限界なの」
クルスは彼女の言葉に驚きと焦りを感じた。異世界では、魔法の強さが詠唱の回数に左右されるだけでなく、詠唱ごとに決められた魔力量を寸分の狂いもなくコントロールしなければならないのだ。リアの限界が三詠唱までなら、Aランクの魔物に対抗するのはかなり厳しい。
「他に方法がないのか……?」
クルスは異世界フォルダの「魔法翻訳アプリ」を試してみることにした。アプリを開き、「八詠唱の炎魔法」を検索すると、画面には「八詠唱魔法『紅蓮の断罪』」の詠唱と、詠唱を簡略化した「短縮詠唱」の情報が表示されているのが目に入った。
「リア、これを見つけたんだ。八詠唱の魔法『紅蓮の断罪』を二詠唱に短縮する方法があるみたい」
リアは困惑した声を漏らした。「二詠唱で八詠唱の威力なんて、そんなこと……あり得るの?」
リアの疑念には無理もなかった。たった二詠唱で本来の八詠唱の威力を発揮するなんて、普通なら信じられない。しかし、クルスはこの情報を信じ、リアに伝える決意を固めた。
「信じられないのも分かる。でも、このアプリには短縮詠唱のやり方が書かれてるんだ。それに、詠唱ごとに必要な魔力の調整もすごく詳しく書かれてる。もし本当にうまくいけば、リアでも八詠唱分の威力が出せるかもしれない」
リアは数秒間黙り込んだ後、覚悟を決めたように言った。「分かった……試してみるわ。今の私には他に方法がないもの」
クルスは、画面に表示された短縮詠唱と魔力の調整手順を読み上げ、リアに伝えた。
「最初に『紅蓮の炎よ、闇を貫け』って唱えて、魔力量を正確にコントロールして。次に『断罪の業火、すべてを焼き尽くせ』と唱えて、魔力を一気に解放するんだ」
リアは慎重にクルスの指示を聞き、魔力を操作しながら詠唱を始めた。彼女の声が森の中に響き渡り、カグラグマの目が鋭く光る。今にも襲いかかってくる魔物を前に、リアは必死に集中し、詠唱を続ける。なぜかいつもよりも苦手な魔力コントロールがうまくできている気がした。
「紅蓮の炎よ、闇を貫け……」
炎が彼女の手の中に生まれ、徐々にその力が増していく。そして、クルスの指示通り、二詠唱目の準備に入った。
「断罪の業火、すべてを焼き尽くせ!」
リアの詠唱が終わると同時に、彼女の両手から強大な炎がほとばしり出た。その炎はたった二詠唱でありながら、まるで八詠唱の威力を持つかのように、カグラグマの巨体を包み込み、燃え広がっていく。
カグラグマは炎の中で咆哮を上げ、その巨体がゆっくりと崩れ落ちていった。リアは、魔物が地面に倒れるのを見届け、息を切らしながらクルスに向かって小さく微笑んだ。
「……本当にできた……クルス今の力はいったい何なの?」
「正直俺にもよくわからない…」
必死だった。アプリに導かれただけの勝利だった。
クルスもスマホ越しに彼女の成功を確信し、心の中で大きく安堵した。「でも、リアが無事で本当によかった」
「あなたのおかげよ、クルス。もしこの情報がなければ、私はきっとここで倒れていたわ」
異世界フォルダと自分の力が、異世界の誰かを救う力になったのだと実感した。
「リア、これからも俺にできることがあれば、いつでも協力するよ」
「本当にありがとうクルス。また頼ってもいい?」
誰かに感謝され、信頼されたのはクルスにとって初めてだった。リアの信頼を感じたクルスは、さらにアプリの内容を細かく調べてリアの力になりたいと感じた。
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