第8話
「何してんだよ、早くやれよ」
「じゃあ死ぬ前にお前にこれを見せてやろう」
晃は社の壁に手をかざすとプロジェクターのように映像が流れ始めた。
「雄くん」
映像の中の女性はこちらにむかってやや膝をかがめつつ優しい笑顔で見ている。
「お母さん……」
首まで砂利で埋まった小西は小さく呟いた。
「雄くん、明日から学校だね。お母さん、雄くんがランドセル背負う姿楽しみ!」
「雄くんそのケガどうしたの? 体育のときにこけた? 大丈夫? しばらくお風呂大変だね。また一緒に入ってあげよっか」
「雄一も明日から中学生か、早いなあ」
「雄一っ、テスト返ってきた?」
「雄一、お祭り、気を付けて行ってきなよ。お母さんにも何か買ってきて」
映像は終わった。地面からすすり泣く声が聞こえる。小西が涙を流していた。
「優しいお母さんにもう会えなくなるな」
晃が言うと、小西は吹っ切れたように大声をあげて泣き始めた。
「うるさいな。バリアでも張っておくか」
「バリア?」
「俺たちの声や姿が見えなくなる。当然、ここに入ってくることもできない」
死神は言うと、神社の鳥居に腕を掲げた。なにか幕のようなものが張られた。
「やっぱ、死にたくない」
「え?」
「助けてくれ! 何でも言うこと聞くから!」
晃は口の端が異様なほど持ち上がった。死にたくない、という気持ちにさせるためにわざわざ母親の記憶を引っ張ってきたのだ。両手で小西の顔を挟み込んだ。
「僕が『止めて』って言って、お前ら止めてくれたっけ?」
骨にひびが入る音がする。小西は変顔で呻いている。
「泣いたら止めてくれたか。懇願したら止めてくれたか?」
ぼきぼきと音が鳴った途端、小西の口から歯や血が溢れだしてきた。晃は手を離すとすぐに頭頂部と下あごに挟むように手を添えて、また力を加えだした。
「お前だけは絶対に許さん」
「待って……。お願いします」
ゆっくりするつもりだったが、つい力を入れてしまい、小西の頭はトマトのように破裂して、眼球が視神経とともに外にはみ出した。脳みそや肉が露わになり、手が血だらけになった。砂利に擦り付けた。
「これで終わったな」
「もっと苦しめたかったけどね」
「どうだ? 俺と取引できてよかったか」
「うん、でも本当に僕は命取られないの?」
「お前の体を借りてるからな。お前を殺すと俺が居場所を失うだろう」
「じゃあ、何であんな木に宿ってたの?」
「さあな」
晃と晃に宿った死神は神社から出て人ごみの祭りの中に消えていった。
宿り死神 佐々井 サイジ @sasaisaiji
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