第7話
「それで唇の両端を切れ」
死神の言う通りに爪を唇の端に沿わせると、力を入れずとも肉が裂けていき、鮮血が浮き出てくる。
「いはあい」
あごの筋肉まで切ってしまったのか、両端をこめかみまで切っていくと、下あごがだらりと垂れ下がった。切り裂いた肉の間から歯列が全部見えている。すべて切り終わると爪は元の長さに戻っていた。晃は砂利を一掴みし、開けっ放しになった平山の口に放り込んだ。
「十回飲み込めたら、お前を助けてやる。やるか? やらないならすぐに殺す」
平山は顎が垂れ下がり、口には砂利が放り込まれていたので喋ることができなかった。代わりに激しく頷いている。放り込んだ砂利は顎が開きっぱなしのせいでぱらぱらとあふれ出てくるが奥に入ったものはしっかりと飲み込んでいた。
二回、三回、四回と平山は嗚咽を漏らしながらも砂利を飲み込んでいた。十回目では切った肉が皿に裂けて首まで到達しようとしていたが、平山はそれでも飲み込んだ。
「ほええ、あうええうえあうおえ?」
「何言ってるかわかんないけど」
「あああ! あうええうえあうおえ?」
「ああ、『もっとしてください』って言ってんだね。蓼食う虫も好き好きって本当にお前みたいなことを言うんだ」
「いあういあう! あうええあうええ!」
晃は両手で砂利をすくい、口の中に押し込んだ。それを何回も繰り返すと平山の顔は蒼白になって白目をむいた。口の奥を覗きこむと喉まで砂利が積み上がってきていた。
「もうやめてやるよ。苦しいだろ。砂利、だしてやる」
平山の体を引き上げると、細身の体だが腹だけが異様な固さを持って膨らんでいた。晃は再度長くなった爪を首に押し付け、ゆっくりと下げていく。皮を裂き、肉を裂き、内部まで到達した爪は異様に膨らんだ胃にも切り口をつけた。噴射する血とともに小石が雪崩のように体外へと流れていく。平山の体はびくんと痙攣するだけで本人に意識はない。用済みとなった平山の体はそのまま砂利の山に捨て、視界の端に映る小西に狙いを定めた。
「殺すなら殺せよ」
小西は堂々としていた。
「覚悟はできてる」
「本当?」
晃は心底面白くなかった。
『死神、小西の記憶を引き出すことはできる?』
『簡単すぎるな』
小西に手をかざすと本人でさえも忘れているはずの潜在的な記憶が晃の手から伝って来た。
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