第6話
「くそっ、こいつ……。汚ねえな」
笹本はもう一度腕を振りかぶりかけたが、何やら呻き始めた。唾をかけられた顔を押さえている。呻き声は大きくなり押さえた指の間から爛れた肌が見え隠れしている。たちまち皮膚が解け、赤い肉が露わになった。
『通常の胃液を百倍の濃度にした。アシッドアタックの比じゃねえぞ』
触れた指でさえ、肉が解け始め、白い骨が浮き彫りになった。手を離すと顔は肉も溶けており、ぼたぼたと砂利に落ちていく。小西と平山はその場に立ち尽くし、茫然と笹本を眺めている。笹本は溶けて地面に落ちた肉を拾い、「いたいよお」と叫んでいる。
『今度はゲロ吐いてやれ。ずっとゲロ太郎って言われてたんだからそれで死ぬことほど皮肉なことはないだろう』
(確かに、その通りだね)
鳩尾付近に力を入れると、先ほどの胃液よりはるかに多そうなものが逆流してきた。しゃがみこんで喘いでいる笹原に狙いを定め、一気に噴射する。薄い黄色をした吐瀉物は笹原の頭頂部から肩、背中にいたるまで飛び散った。
「ぐぐぐぎぎぎげげげ」
スプレーを振ったような音を立てながら吐瀉物が笹原の身体を溶かしている。
『言うのを忘れてたが、晃の体は強烈な酸に耐えれるようにしてあるから安心しろ』
(そこまで頭回ってなかったよ)
髪の毛は焦げ、頭皮が露わになったかと思えばそれも溶けて頭蓋骨が見えてきた。その頭蓋骨も白い蒸気を噴き上げ消えていき、脳が露わになった。それでも笹本はまだ呻き続けている。そのうち脳までもが溶け始め、ようやく動かなくなるころには頭部の大半が溶けて消え、あごから下しか残っていなかった。
砂利の踏む音が聞こえる。小西と平山が一斉に逃げ出した。しかし、小西と平山が逃げる先に砂利が鳥井より高い津波と化して、二人を飲み込んだ。
『やりすぎたか。まあ死にはしないだろう』
砂利の山にわずかに蠢く二つの場所がある。二つに順番に視点を定めるとぼこりと小西と平山が頭だけを出してきた。
「ごめんなさい。許してください」
鼻血を出した平山が泣きながら懇願し始めた。
『どうする? 許すか?』
「いやあ、許すわけないよね」
晃は気づけば声に出して喋っていた。
「お前はなかなかひどいことを考えるな。どこで学んだんだ」
「一人っ子だから妄想ばかりしてたんだよ。そのおかげかな」
頭だけを出した平山が怯えつつも驚愕の顔を浮かべている。一人で丸っきり口調が違う会話をしているからだった。
「平山、口開けろ」
「へ?」
「口を開けろって言ったんだ」
命乞いをしたわりには口を開こうとしない。晃は右の人差し指の爪が異様に鋭く長くなっていた。
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