第5話
サーモグラフィーのような視界は人々が赤く着色されている。まばたきすると通常の視界に戻る。心に念じたとおりになるのが痛快だった。死神が本当に自分の体に宿ったことを実感できた。人ごみの道路を歩いていると突き当りに公園がある。その公園でも屋台が数多並んでいた。死神の意思で動いているんだ。公園のなかを体を立てに横にして歩くと奥の方に灰色、いや鈍色の三人と思われる人間が見えた。
『あれだな』
(ちょっと待って。どうやって殺すの?)
『バリエーションは豊富にあるぞ。痛めつけたり、安らかに眠るようにさせたり、即死させたり、晃が好きなものを選べ』
本当に小西らを殺すことができるのだろうか、もし夢だったとしても殺しておかなければ無駄だと思った。
(あいつらが僕をいじめたことを後悔するように殺してほしい)
『わかった。ざっと二四九年だな』
(何が?)
『あいつらの合計寿命だ。それだけ吸い取れたら十分だろう』
脚が一人でに三人の方へ向かっていく。いつのまにかサーモグラフィーのような視界は止まっていた。だが、三人の姿は捉えている。
『これから晃の声も借りるぞ。お前はただ見ているだけでいい。もしお前も手を出したくなったら言え』
(もし僕が手を出したら天罰が下る?)
『俺は何もしない』
早歩きで小西の背中に向かっていき、腕を振りかぶると後頭部を殴りつけた。鈍い痛みが広がったがすぐに収まった。
「おいっ、ゲロ太郎。殺すぞ」
頭をさすりながら小西は振り向いて睨みつけてきた。すくみ上るが体は勝手に動いている。
「小西、笹本、平山。誰から死にたい。順番決めていいぞ」
医師とは無関係に口が喋り出した。すぐに死神が話していることだと理解した。
「は? こいつ何言ってんの?」
笹本と平山はすぐに背後に回り取り囲まれた形になる。
「おい水目神社行くぞ。ゲロ太郎、大人しくついてこないとすぐ殺すからな」
晃は一人でに小西の背中を負っている。隣には笹本、後ろには平山がぴたりとついていて逃げ場はない。死神は一体どういう考えなのか。体は勝手に動くものの痛覚はしっかり感じるため、できるだけ殴られるようなことはしてほしくなかった。
神社の敷地は深めの砂利が敷かれている。神社の前まで来ると小西は足を止めた。
「俺から行くわ」
視界の横にいる笹本が指の関節を鳴らしている。
『晃、試しに唾を笹本の顔にかけてやれ』
(唾?)
聞き返す前に笹本が右手を構えて詰め寄ってきた。途端、胃からせり上がってくるものを感じ、反射的に吐いた。唾、という胃液は見事に笹本の顔面を直撃した。
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