第23話 魔法士の国へ

――現在 ノアディル一行


 出発から数日が経過し、ノアディルたちはリアの改良したバイクで森の中を駆け抜けていた。

 広がる緑と木漏れ日が美しい景色を作り出しているが、車内はほとんどリアの話で埋め尽くされている。


「要するに、ナノマシンを完全に作り出せるようにはなったんだ。でも、全部消滅しちゃったとしても、再び作るのには結構な時間がかかるんだよね」


 リアがそう言いながら運転する横で、ノアディルが小さくうなずく。


「そうなると、実戦では限界があるな……。使いどころを間違えたらアウトってことか」

「そう! だからね、試行錯誤の末に結論を出したんだ。ナノマシンカートリッジをたくさん作る予定だったんだけど、それよりも重要なシールドギアにリソースを回した方が効率的だって気づいたの!」


 リアの興奮した声に、後部座席に座るヴィオラとルミナが興味津々に耳を傾ける。


「その結果、ヴィオラ用に特別なシールドギア付きのベルトを作ったんだ。これだよ!」


 リアがヴィオラにベルトを差し出すと、彼女は少し驚いた表情を見せながらも、それを装備する。


「これが……シールドギア……?」

「そう! しかもこれ、ナノマシンカートリッジを装填することで稼働するんだけど、今のところ3本しか作れてないから慎重に使ってね。リアが1本、ヴィオラが2本持つ形で分けることにしたよ」

「了解したわ。これで少しは戦闘が楽になるかもしれないわね」


 一方、ノアディルとルミナにはこのカートリッジは渡されなかった。

 ア曰く、2人は自分自身でナノマシンを増殖させてシールドギアをチャージできるため、必要ないとのことだ。


 さらにリアは、ノアディルの愛用機器であるT-0に施した新たなアップグレードについても話し始めた。


「でね、T-0もアップデートしたんだ! ガンモードは完全に削除して、常にガントレットモードで使えるようにしたの。それで空いたメモリを活用して、ブレードモードへの移行速度を大幅に向上させたんだよ。さらに、スキャン機能と戦闘補正もパワーアップ!」

「それで新しいT-0ってどんな感じになったんだ?」

「見てのお楽しみ! でも、少しだけ言うとね……肩まで覆うように伸びたデザインで、全体が赤を基調にしてるの。しかも、青いラインが2本入ってて、光るんだ! 完全に機械の腕と一体化してて、これぞ進化版って感じ!」


 リアが自信たっぷりに語るのを聞いて、ルミナは目を輝かせて拍手をした。


「リア、本当にすごいね! ルミナもT-0みたいなの、欲しいなぁ!」

「ふふん。時間があったら何か作ってあげるよ! 今はとにかく、この装備で生き延びることが最優先だけどね!」


 賑やかな会話が続く中、バイクは森の奥深くへと進んでいく。次の目的地である魔法士の国は、もうすぐだ。


・・・


 大きな森を抜けると、視界が急に開け、広大な平原が広がった。

 その先に立派な大橋が見えるが、何か様子がおかしい。

 橋の周囲には黒い影がひしめき合い、不穏な空気が漂っていた。


「橋が見えてきた……けど、何か変だわ……!」


 ヴィオラが眉をひそめて言う。

 リアがバイクを進めながら異変に気づき、

 「どうする?」とノアディルに尋ねると、彼は即座に答えた。


「リア、ちょっと止まってくれ」


 リアはバイクを減速させ、指定された場所で止まる。

 ノアディルはすぐに義眼のズーム機能を起動し、橋の様子を確認した。


「……大量に魔物がいるぞ。人と戦闘しているように見える」


 ノアディルは義眼に映った映像をT-0で出力し、全員に見せた。

 そこには、橋を挟んで繰り広げられる激しい戦闘の様子が映し出されている。

 黒い影の正体は無数のスカイサーペントの軍勢だった。

 そして、その後方には威圧感を放つナイトメアスカルの姿が見える。

 橋の向こう側――おそらく魔法士の国の兵士たちが必死に応戦していた。


「こいつ……出発前に俺たちが見た魔物と同じか?」


 ノアディルがヴィオラに問いかける。

 ヴィオラは険しい表情で首を横に振った。


「分からない……同じ奴に見えるような気もするけど……」


 彼女の焦りは隠しきれず、緊張感が一行の間に広がる。


「このままじゃ見つかるのは時間の問題だが……無視するわけにもいかない」


 ノアディルが歯を食いしばりながらそう言うと、ルミナが勢いよく手を挙げた。


「じゃあ、後ろから斬っちゃおうよ! こっそりとね!」


 しかし、ヴィオラはすぐに否定した。


「それは無理よ。これだけの魔物に気づかれずに近づくなんて、不可能に近いわ」


 だが、ノアディルは意外にもルミナの案に賛同した。


「いや、可能性はある。カモフラージュを使おう。俺が行く」


 彼の言葉にヴィオラが即座に口を挟む。


「私も行くわ。もしバレた時、一掃する術があった方がいいでしょ?」


 ノアディルは一瞬だけ考え込み、頷いた。


「確かに。それなら二人で行こう」


 それを聞いたルミナが慌てて声を上げた。


「ボクも行きたい! 絶対に役に立つから!」

「ルミナは、万が一バレた時の暴れる係だ。頼むぞ」


 ノアディルの言葉に一瞬むっとした顔をしたルミナだったが、すぐに楽しそうな表情に変わった。


「それも面白そうだから、待ってるね!」


 そうして作戦は決まった。ノアディルがT-0の機能であるカモフラージュを使い、魔物の背後に忍び寄る。

 そして、もしもの時はルミナがその力を解放して戦場を制圧する――。


「行くぞ」


 ノアディルの一声で、彼とヴィオラは慎重に橋へと向かい始めた。

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2XXX年のサイバーシティからファンタジー異世界に転移した少年 @TOYA_notte

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