第4話意外な訪問者と小さな変化
キャンペーンを終えた後も、私と青木さんのコラボ企画は商店街で話題となり、「山口フラワーショップ」と「青木ベーカリー」には新しいお客さんが増えている。そんな日々の中で、商店街に少しずつ新しい風が吹き込んでいるように感じていた。
ある日、いつものように開店準備をしていると、青木さんが店先にやってきて、私に軽く手を振った。
「おはよう、陽菜ちゃん!昨日のキャンペーンも大盛況だったなあ!」
「本当に皆さんに喜んでいただけてよかったです。商店街全体が活気づいてきたみたいで、私も嬉しいです!」
私がそう返すと、青木さんはにっこりと笑った。
「それは何よりだ。陽菜ちゃんが戻ってきたおかげで、夢咲商店街も少しずつ賑やかになってきた。これからも色々と一緒に楽しいことをやっていこう!」
私も笑顔で頷き、青木さんはパン屋に戻っていった。
その日の昼過ぎ、店内が少し落ち着いてきたころ、見慣れない男性が花屋の前で立ち止まっているのに気がついた。彼は背が高く、スポーツマンのような引き締まった体つきをしていて、顔立ちもはっきりとした印象的な若い男性だった。少しキョロキョロと店内を見渡し、何かを探しているようだ。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
声をかけると、彼は私に気がついて少し照れくさそうに微笑んだ。
「あ、すみません。実は、花を買いたいんですけど……あまりこういうお店には来たことがなくて。」
その言葉に、私は少し微笑みながらカウンター越しに近づいた。
「そうでしたか。花を贈るのは初めてなんですね。どんなシーンで使われるか教えていただければ、おすすめの花をお見立てしますよ!」
彼はしばらく考えてから、少し真剣な表情で答えた。
「実は、僕の姉が結婚することになって、そのお祝いに何か贈りたいと思ってるんです。」
「お姉さんのご結婚祝いですね!それは素敵なシーンですね。」
お祝いの花としては、華やかで香りが良く、長持ちするものが好まれることが多い。私は彼に合いそうな花束をいくつか見繕い、バラやユリを中心にした華やかなブーケを提案してみた。
「この花束はどうでしょうか?ピンクのバラと白のユリがメインで、華やかさと上品さを兼ね備えたデザインです。結婚祝いにはぴったりだと思います。」
彼はその花束を見て、少し照れくさそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。とても素敵です。僕の姉もきっと喜ぶと思います。」
「それは良かったです。お姉さんに心を込めて贈られるなんて、きっと素晴らしい兄弟愛ですね。」
その言葉に、彼は少し頬を赤らめたようだったが、最後には感謝の言葉と共にお礼を述べて、店を出て行った。
その後、私は日々の仕事に戻り、キャンペーンで賑わう商店街の様子を楽しんでいた。しかし、数日が経つと、再びあの男性が店を訪れることになった。今度は少し緊張した面持ちで、私のところに来てこう言った。
「あの、先日はありがとうございました。姉がすごく喜んでくれました。でも、またお願いがあって……」
私がにっこりと微笑み返すと、彼は少し肩の力を抜き、もう少しリラックスした様子で話し始めた。
「実は、もう一つ花を贈りたい人がいて……」
その言葉に、私は少し驚きながらも、彼の話を続けて聞いた。
「姉の結婚を祝ってくれた友人がいるんですが、その人にお礼の気持ちを込めて何か贈りたいと思っているんです。」
私は再び彼にぴったりな花束を考えながら、心の中で「この人はとても優しい心を持っているんだな」と感じた。そして、友人へのお礼の花として、紫のリシアンサスと白いカーネーションを使ったシンプルで清楚な花束を作り、彼に手渡した。
「この花束なら、感謝の気持ちがしっかり伝わると思いますよ。」
彼はその花束を受け取り、今度は少しほっとしたような笑顔を浮かべて私に言った。
「本当にありがとうございます。いつも親切にアドバイスをくれて助かっています。」
そして、彼が店を出るとき、私はふと気になって尋ねた。
「ところで、お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
彼は少し驚いた表情を浮かべたが、やがてにっこりと笑いながら答えた。
「僕は佐藤陽一(よういち)と言います。陽菜さん、これからもよろしくお願いします。」
その名前に私は親近感を覚え、心の中で「陽一さん」という名前を覚えることにした。
その後も陽一さんは時折、花を贈るために店を訪れるようになった。彼は友人や知人、家族などさまざまな相手に花を贈ることが好きなようで、そのたびに私は彼にぴったりの花を提案していた。陽一さんとの交流が少しずつ増える中で、私はふとした変化に気づいた。
彼との会話や、花を選ぶ際に感じる温かい気持ちは、私にとっても新鮮なものであった。夢咲商店街で働くことで出会う人々や日々の出来事が、私自身の心にも新しい色をもたらしてくれているように思える。
ある日、陽一さんがいつものように店に訪れた際、彼は少し神妙な顔をして私に切り出した。
「陽菜さん、実はお願いがあるんですが……」
私は彼の表情を見て、少し緊張した。何か特別な相談事があるのだろうか。
「どうかしましたか?」
「夢咲商店街で、何かイベントをやる予定はありませんか?僕も協力できることがあれば、ぜひお手伝いしたいと思っているんです。」
その提案に、私は驚きつつも嬉しく思った。陽一さんが商店街の活動に興味を持ってくれていることが、私にとっても励みになる。
後日、私は商店街の人たちと話し合い、陽一さんの提案を受けて「夢咲フラワー&パンフェスティバル」を企画することにした。このイベントでは、私と青木さんのコラボだけでなく、商店街全体が協力し、花やパンをテーマにしたさまざまな商品や催し物を用意することになった。
陽一さんはイベントの準備に大いに協力してくれ、私は彼と共に商店街の仲間たちと一緒に一生懸命準備を進めた。彼との交流が、私にとって商店街での仕事に新たな意欲をもたらしてくれたのだ。
こうして、「夢咲フラワー&パンフェスティバル」の当日を迎えた。商店街には多くの人が集まり、花やパンを楽しむ笑顔があふれていた。陽一さんの協力もあり、イベントは大成功を収め、商店街の人々にとっても新たな活気が生まれた。
その日の夜、私は陽一さんと共に商店街の片付けをしながら、お互いに感謝の言葉を交わした。
「陽菜さん、本当にありがとうございました。僕も夢咲商店街でこんなに楽しい時間を過ごせるなんて思っていませんでした。」
「こちらこそ、陽一さんが協力してくれて本当に助かりました。またいつでも来てくださいね!」
こうして、夢咲商店街に新たな仲間が加わり、私の生活には少しずつ新しい風が吹き込んでいく。商店街での毎日がますます楽しみになり、これからもたくさんの人に笑顔と花を届けていきたいと強く思うのだった。
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夢咲商店街の花屋さん~陽菜と笑顔を咲かせる物語~ arina @arina-t
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