短編とは思えない
- ★★★ Excellent!!!
短編とは思えない人生ドラマが一万文字ぴったりに収まっていて、凄い物を読ませて頂いたという気分です。
朝吹さんの小説に登場する人達は良い人も悪い人も誰もがこの世界を一生懸命に生きていて、良い加減に生きている自分なんかは読むたびにこれはいかん自分ももっとしっかりしないとと思うのですが、まさにこの作品も読んでそう思ったのです。
さて、これだけだとなんだが薄っぺらい感想だなという気がするので、蛇足と思いながらも、もう少し感想を書いてみたいと思います。
※以下若干のネタバレになるので未読の方は自衛お願いします。
冒頭、娘の名前を決めた所から話が始まります。
この数行でなるほどこの話は母と娘の話なのかとわかると同時に、最初の候補が某有名な人芸妓さんの名前と同じという事を書くことによって、芸妓さんの生き方に何か思う所があるのだと感じさせます。
その後の一文、キャッチコピーと同じ言葉が出てきます。
そこで母である主人公は過去に何かあったのだろう……何があったのだろうか……と読者の興味を上手く惹きつけるのです。
そしてその後、続けて描かれる場面。
この話で自分が一番好きな場面です。
その後、娘の胴体にメジャーを回し……から始まる場面が描かれるのですが、具体的に何をしているのか、なんの場面なのか一切の説明がないのに、読者はそれが何の場面なのか分かるのです。
しかもこの場面、実は冒頭から一気に何年かジャンプしているのですが、何年くらいジャンプしたかまで分かるのです。
娘の胴体にメジャーを回し……のこの描写だけで、何の説明もしていなくても、読者は理解できるように描いているのです。
朝吹さんの小説はこのような描写のディテールの巧みさと時間跳躍の絶妙さが上手くて、気がついたら世界にのめり込んでしまうのです。
つい長くなってしまいましたので、この辺りに致します。