私の望みは、野のあかり

私は38歳。高校を卒業してばかりで、外車ディラーに勤めていた時、そこで10歳年上親切なイケメンと結婚し、娘の明莉(あかり)を産んだ。しかし、夫は浮気男で、不倫してすぐに離婚。私は姉のところに住まわせてもらいながら、娘と生き抜こうと誓う。幼稚園にはいった娘が幼児を突き落とし、引っ越しすることになる。
今、私は大型センターに勤め、娘は高校生に。同僚には子供のいない田端さんや、交通事故で家族をなくした男やもめの飯島さんがいる。その時、私はぜ、娘が子供を突き落としたのか、わかった。明莉はものがちゃんと見えている子なのだ。いつか事故で足をなくした青年がテレビで「それまではずっとこうでした。頑張ります。何とかやってます」と言うのを聞いて、「それ、他人を遠ざけるための言葉だよね」と明莉が呟く。それは、私のことを言っている気がする。
さいごのところで、「されば君よ」という言葉が出てくる。
私は思う。「ある日あなたがわたしの許に現れて、いつか元気に去っていくだけで、がらんどうであったこの野にも柔らかな光は差している」
ここで、読者はこの小説のタイトルが「野のあかり」であり、娘の名前が「明莉」なのだと気がつく。すみずみまで神経の行き届いた文章で、描写も美しい。学校の成績は知らないが、どこか際立った感性をもつ娘。その娘に対する母の愛を切なく描いた読み応えのある傑作です。またやりましたね。