レストラン見つけられてたら良いな
病院の予約までの時間を潰したくて駅前をぶらぶら歩いてたら、見知らぬ中年男性に話しかけられました。
「ねえ、ちょっと聞いていい?」
「はい?」
にこにこしてる感じの良さそうな人だったけど、世の中には道に迷ったのを装う悪い人なんかもいるから、つい警戒しました。
「あのさ、数年前に、テレ東でさ」
「はァ」
あたしは多分、かなり変な顔をしてたと思います。
テレ東ってなに? いや、テレ東が何かは知ってるけども。
「テレ東で紹介されてたレストラン、知らない?」
知らないよ。
中年男性は本当に只々レストランを求めているだけの様子でした。
「この辺にあるはずなんだよね、すごい美味しいらしくて」
「知らないです」
ふつうにぜんぜん、見当すらつかないので正直に答えました。というかあたしはそもそも、その辺りに詳しくないのでした。病院のために来ただけで、地元の住人ではなかったのです。
「知らないかあ、まあ、そうだよね、ごめんね」
中年男性が笑ったから、あたしも思わず笑いました。ダメ元で聞いたのだろうけど、成功確率ぜったい低いと思う。情報がアバウトすぎる。
「この辺初めて来たから行ってみたくてさ、いや、ごめんね、じゃあね」
レストランは判明しなかったものの、中年男性は終始にこにこしたまま去りました。
あたしは道に迷ってもなかなか人に声をかけられず、地図だけを頼りにぐるぐる歩き回って余計に変な道に行っちゃったりするし、重い荷物を持った人に「手伝いますよ」と言うのも出来ないから、ああいう風にできる人は良いなあと思います。
その辺でびっくりすることがあった時に「今の驚きましたねえ」って思わずって感じに言ってくる人、通りざまに一言二言話しかけてきたかと思うと返事も待たずアハハ!と去っていくもはや自己完結型のお婆さん、研修中の店員に「頑張ってね」とにっこりするお客、などなど。
書いてて思ったけど、あたし、笑顔の人が好きなのですね。微笑まれると嬉しくなります。あたしは会話が下手くそだから、道で話しかけられたら大抵挙動不審になるけど、まあ向こうも、道端の見ず知らずの他人に対してそんなに豊かな会話を期待してないでしょう。
中年男性に話を戻すと、数年前・テレ東・レストランという、あまりにもざっくりした情報しかなくても一応聞いてみるという精神。行動へのスタンスが気軽で、なんて言ったら良いのか、さっぱりしてるなと思うんです。あたしはさっぱりした人間になりたい。
さておき、あの男性はふつうに良い人そうだったけど、やはり男女問わず知らない人に声をかけられたら、あらゆる可能性を想定しなくちゃならないのが悲しいところです。とくに最近は治安の悪い噂もあれこれ聞くし、最近でなくても、犯人が道端で助けを装って被害者に近づいたという悲惨な事件もあるから、とりあえず警戒せざるを得ません。
あたしは以前はもっと呑気だったけど、だんだん警戒心がはっきりしてきて、きっとこれからも他者を疑う気持ちは強くなっていくんだろうなと思います。世間を知るのも他者への疑いを持つのも必要なことだけど、必要性自体が寂しいことですね。
中年男性の質問の手がかりがあまりにも少なくてちょっと面白かった、と書きたかっただけなのに、飛躍しすぎました。何の話をしてるのか我ながら分かりません。
あ、そういえば、気になって後で「テレ東 レストラン 駅名」で検索してみたけど、それらしきものはヒットしませんでした。気になっちゃったので残念です。
雑然ダイアリー 狩本梢 @kk010
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