episode 4 お兄ちゃんの勝ち? [終]

 次の日の午後、私は再び茶野駅から城山線に乗った。今日はお兄ちゃんの指示で、メールには「ラインが赤くなって行きたい駅に行けなくなるはず」と書かれていた。いったい何をするつもりだろう、確認だろうか。一緒に来てくれればいいのにと思ったけど仕事中だ、一人でがんばるしかなかった。

 結果、電車と私はその通りになった。お兄ちゃんの考えに沿っているから文句も出ないとはいえ、こうなるのは不思議だし見えない力に左右されてばかり、嫌なものは嫌だ。

 ところが、二度目に乗った電車であっさり美杜に着けてしまう。振り返れば電車のラインも青い。

「――ま、今日は爽くんと約束してないんだけど」

 今さら悔しい私がメールで連絡をとって茶野に戻ると、ホームにお兄ちゃん、そして同じく仕事中であろう井田さんが立っていた。

「ごめん、俺のせいだ。俺が井田に話したから」

 誰もいないホームの端でお兄ちゃんが深く頭を下げ、隣の同僚の後頭部も手で無理矢理押し下げる。

「俺、前からおかしな力を主張する井田を危ない奴だと気にはしてて、昨日の結花の話からこいつが勤務してる日じゃないかって思ったんだ。それでも信じられるわけなかったけど、今日は証拠をつかむために一度だけやらせて止めた。そしたら……」

  何と、井田さんが犯人だったとは。とまどいに包まれた私の歯が緊張と衝撃でかちかち鳴り、頭を押さえられたままの彼がよろめいて白状する。

「僕、実は超能力があって、結花ちゃんの恋を聞いて邪魔しようと思って――、ごめんなさい」

 ああお兄ちゃん、私の恋を話したんだ。それから井田さんは私が好きだということ、その好きな人の邪魔をして傷つけたという罪。いくら謝られても彼に応えることはできないし許せないけれど、苦しみと恐怖の原因が明らかになったのは正直助かった。問題は彼があきらめてくれない限り今後も何が起こるかわからない点、でもお兄ちゃんがまた護ってくれるはず。私は信じている。

 そして再び日曜日を手にした私は、今度こそのきらきらの約束をして爽くんの待つ美杜駅に〝近道〟で向かった。電車のライン? 美しすぎるくらい青だったよ。ちなみにお兄ちゃんが時岡さんを見て血相を変えたのは、単に仕事をさぼっているところを見つかったからだってさ。


          了


▽読んでいただきありがとうございました。


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君にとどかない行先 海来 宙 @umikisora

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