異世界で「自分の体格に見合わない程に巨大な武器を持っているロリ」と出会ってしまった件!

イマジナリー彼女、略して今カノ

第1話

 先日予定の埒外らちがいではあるものの、ご逝去の方を遂行させていただいた僕ではあるのだが(あんまり記憶はない)、しかし予定外の事とは続くものらしく、今いるのは天国でも地獄でもなく、どうやら異世界のようだった。


「マジかよ……」


 来ちゃったよ、異世界。

 なんだかんだで前世でも、読者という形でご縁のある世界観だったのだが……、まさかその住人として関わりを持つことがあろうとは、全く予想だにしなかった。

 へぇー。

 フィクションじゃあなかったんだ。

 ……ちなみに、目覚めた瞬間は暗室もかくやってくらいの暗い空間で、なんか箱?(あるいは棺?)の中にいたらしく、冷たい床(というか箱の底面)の温度を感じながらの起床だったのだが、とにかく、そこから手探りで部屋の輪郭を辿って、階段を登り、這い出た先が異世界だった。

 それでその、してみると、チート能力なんかも付与されたりもするのかな──なんて、呑気なことを考えていた時、

 

「よっ! 久しぶり!」


 という、懐かしき親友の声が聞こえてきた。


「なんだよ! お前も異世界に来てたのか…………よ?」


 前世ぶりに会う親友との、いわゆる感動の再会ということらしいので、ここは一つ、熱い抱擁でもかわそうかと思っていたのだが……。

 そこには親友などいなかった。

 背後を振り返って、実際にその姿を認めたのは、

 なんということだろう、ロリだった。

 それも単なるロリではなく、「自分の体格に見合わない程に巨大な武器を持っているロリ」だった。

 す、すっげぇ〜〜〜〜。

 本物じゃん。

 とりあえずサインもらわなきゃ。


「……? オイ、どうしたんだ?」親友(?)は心配そうに僕を覗き込み、見た目の印象を裏切る低く響く声でそう言った。「オレもさっき目覚めたばっかでさ、お前と会えて嬉しかったんだけど……、もしかしてオレのこと、覚えてない?」

「いや、覚えてる、覚えてるけどさ。それよりも見てみろよ。お前「自分の体格に見合わない程に巨大な武器を持っているロリ」になってるぞ」

「はぁ? お前何言ってんの? オレが「自分の体格に見合わない程に巨大な武器を持っているロリ」になってるわけ……」


 西欧風の小屋のガラスに彼の姿が映った。


「う、うわぁ! オレ「自分の体格に見合わない程に巨大な武器を持っているロリ」になってるーーーーっ!!?」


 あたりに低声がこだまする──とりあえず僕たちの異世界ライフは、こういう始まり方のようだった。







 「自分の体格に見合わない程に巨大な武器を持っているロリ」との邂逅かいこうに、驚きのあまり異世界についての描写が疎かになってしまったけれど、今からその分の描写を取り返すので、どうかその辺の微妙な感じは、甘く採点して頂けたら幸いである。


「うわっ!」


 あつらえたようにタイミングの良い登場を果たしたのは、僕が初めて会ったモンスターと、どうやら同種の獣らしかった。

 そう、

 この世界には、モンスターが存在するのである。

 であるならばその論理的帰結として、この世界は異世界だと、果たして、断言せざるを得ないことだろう。

 

「改めて見ると……なんというか、人畜無害そうではあるんだよな」

「まあ……、な。つぶらな瞳してやがるし、思ったような攻撃性はないようだし」


 でも、見た感じ前世の動物とは、おもむきを若干ことにするようだ。

 一見すると鹿……のようなのだが、その実は結構な相違点を抱えている──例えば、


「ほら、コイツのここ」僕はモンスターの鼻先を指差した。「鼻が紫色の鹿なんて、生まれてこの方聞いたことがない。毒状態なのかもしれないが、それならそれで、魔法の存在を肯定することになる」

「いや、それは単にそう言う色ってだけなんだろうが……」それにつけても、と親友は続ける。「目がヤギ目なのは、いよいよ無茶苦茶って感じだな……。鹿だかヤギなんだか、ハッキリして欲しいものだよ」


 不思議な感じである。

 状況と併せて考えると、モンスターと言って言えないことはないんだが……。


「ま。兎にも角にも鳥も直さずに」


 僕は端的に言った。


「街に出て情報を集めた方が良さそうだ」


 親友は反対しなかった。







 ここですぐに場面転換を果たして街に辿り着けるほど、人生の糖度は高くない──今もまだ森の中である。

 目覚めた時にいた暗い空間の外に出て以来、我々は文明との別離を果たしているのだ……、僕がたまたまサバイバルの名手でなければ、異界の地で出会った親友諸共、そのまま朽ち果てていたことだろう。

 道中でもやはり、モンスターの姿は度々見かけた。

 なんだかんだで見覚えのある感じなのに、しかしディティールを見ると少し相違点がある。

 大体そんな感じだった──攻撃性の有無はやはりあるようで、向かってくるようなら、横のロリに対応してもらったが……。

 

「もうすぐ一週間くらいか……?」

「とっくに経っているよ。今日で十日目の昼だ」


 それにしても、しかし……だ。

 これだけ歩いて文明が見えないってことは……、ひょっとするとこの世界に、人類は……。


 ………………。


 いやいやいや。


 考えすぎである──第一、初日に小屋だって見つけたではないか……、まあアレは、既に住人は去った後だったようだけれど……。

 とにかく、歩けば何とかなる。

 道が開くのを期待できないなら、拓けば良い。

 要は、それだけの話なのだ。

 

 ……そして、さらに三日ほど歩を進め続け、僕たちはついに、念願の街を見つけたのだった。







「ヒャッハーーッ!!!! 夢心地だぁーーーーッ!!!! ごめん間違えた。皆殺しだぁーーーーッ!!!!」

「落差」


 「ゆめごこち」と「みなごろし」にどれくらい言い間違いの余地があるかは議論を呼ぶところだとしても、それはさておき、敵襲である。

 魔法使い? のような人(さっきの言い間違いをした張本人)が、いかにも異世界チックなこの街に、恐らく安穏に暮らしていたであろう人々を、横暴にも魔法で追いやっている──逆らうようなら問答無用で殺害されているあたり、状況は最悪と言えよう。

 ……いやごめん、何が何だかサッパリだろうけれど、コレに関してはこっちも被害者だ。

 街に来たら状況はこうだったのだ。

 情報を集めに来ただけなのに……、これではそれも、叶いそうにない。


「オラオラオラーーッ!! 明日また来るまでに全員街から去っとけよぉーーッ!! さもなくば町民全員磔刑たっけいに処す! ギャハハハハハッ!!!!」


 不必要に手間暇をかけての数千人単位の殺戮を宣言し、悪漢は街から去っていった──危機は去ったが、戦慄わななかざるを得ない事態だ。


「…………………………」


 異世界に転生したからには、チート能力で悪漢を無双……、ということも、一応考えていたけれど……、どうにも僕には、そういった主人公体質的なモノは、期待できない感じだった──主に、実力的な意味で。


「息子を返してよォォーーーーーーッ!!!!」


 突如、慟哭どうこくが聞こえた。

 声の方向を辿り現場へ向かうと、そこには泣き濡れるご婦人の姿があった。


「ど、どうしたんですか……? 僕でよければ、話を聞きますけれど……」

 

 どう話しかけるべきか分からず、何があったかなんて火を見るより明らかであるこの人に対して、僕はそんなことを言った──愚かしいことこの上無かった。


「むすっ……息子、が、ぁぁ、ああああああ!!!!」


 ……ひとまずは話よりも、落ち着かせる事の方が先決のようだった。

 泣きじゃくり、滂沱ぼうだの涙を流す彼女を、僕と親友は慰めることしか出来なかったけれど……、しかしそれは、出来ることを放棄する理由にはなり得なかったので、僕たちは、彼女が心ゆくまで、大変な時間、慰め続けた。

 

「……すいません。ありがとうございます。ほんと、こんな、見苦しい姿を……」

「そんなに卑下しないで下さい」彼女の背中をさすりつつ、僕はそう言った。


 親友も「そうですよ」と、それに続いた。

 

「ありがとう、ございます……」彼女は訥々とつとつと言った。「是非、お礼をさせてください。大したものは出せませんが、それでも、夕餉ゆうげくらいは振る舞わせて欲しいのです」


 僕は「いえ、お世話になる訳には……」と固辞したのだが……、


「ぐぅぅぅ〜〜〜」


 と、身体の方は空腹を訴えるのだった。







 夕飯をお相伴に預かり、一通り食べ終わってわかったのは、このご婦人──名前はシエスタと言うらしい──が、相当なお金持ちだっていう事だった。


「いやぁ、こんな、申し訳ないですよ」

「食べ始める前にいうセリフだろ、それは」


 もう全部たいらげた後じゃねーか、と言って、僕は反射的に親友のボケを突っ込んだ。


「……でも、なんとなくわかるよ」目を伏せたままで、僕は言う。「こんなに素晴らしい料理に見合う事は出来ませんでしたよ、我々は。なんだかちょっと、騙しているようで、心苦しいです……」

「そんなことおっしゃらないで下さい」苦笑して彼女はそう言った。「でも、そう思ってくださるのなら、もう少しだけ、話に付き合ってくれませんか?」

「そんな事で良いのなら」


 是非もありません、と結んで、僕は快く笑った。

 それを受けて、ご婦人……シエスタさんは、滔々とうとうと、昔の話を、話し始めた。


「アレは、五年前のことでした。息子が「面白いものを見つけた」と言って、アタシに、とある物を見せてくれたのです。とある物……、と言っても、結局はそれがなんなのか、今もなお名状はし難いのですが……、とにかく、縦に長い円柱形の箱のようで、片側の底には、何やら穴が開いており、「ビーム砲みたいだ」と言って、息子はその箱のことが、痛く気に入った様子でした。……ですが、それから五年。つまりごく最近、しばらく埃をかぶっていたに、久しぶりに息子が手をつけたのです。息子は、めつすがめつして、懐かしげにそれを眺めていたのですが……、しかし、ことは懐古の想念に止まらず、何というか……、出たのです」

?」親友がすぐに聞き返した。冷静になったシエスタさんは、幼女から変声期を経た男性の声が聞こえる事実に、若干以上に戸惑いつつも、しかし、こくりと頷いた。

──


 それは多分、魔法の事だった。







 どういう事だ……、この世界は異世界なのだから──街並みも至極平均的なザ・異世界なのだから──、ビームのようなものが飛び出しても、それは魔法だと処理されるはずだ。

 それとも勘違いなのだろうか……某魔法学校のように、杖の先から何かが出る、という形式に、さっきの例も、割と当てはまると思うのだけれど……。

 いや、わかる。

 杖にしては形状がおかしいというのも。

 でも……、多少イメージから外れるくらいで、杖というガジェットが円柱に置き換わっただけなのだと、言って、言えないことも無いだろう。


 ……うぅん。

 イメージから外れる……、と言えば。

 

 そう言えば、この世界のモンスターも、モンスターにしては少しインパクトがなかった。

 前世の世界とディティールをことにするくらいで……、大まかなところは寧ろ、一致している。

 なにより、攻撃してくるタイプと、そうでないタイプがあるのが気になる──全体、これはなんの意味を含めるのか……、かなり気になるところだった。

 

「…………か? ……丈夫ですか?」

「ハッ!」沈思黙考する余り、現実の音がしばらく立ち消えていた。「すいません。続けてください」

「は、はい」シエスタさんはすぐに切り替えて「それでその、ビーム砲なんですが……」と続けた。

「ビーム砲が……?」

「あの悪漢に強奪されてしまったのです」

「マジですか」

「はい……。こういったことが、どうやら各地で起こっているみたいで、先程のような悪漢が、現在の知識では解明できない──それこそビーム砲のような──不思議な道具を、駆け回り蒐集しゅうしゅうしているらしいのです」

「なるほど……」あごを指でさすり、僕は小さく相槌を打つ。「つまり、これまでガラクタ同然だったにも関わらず、ある時期を境に、同時多発的に不思議な力を示した謎の道具が、各地でトラブルを惹起じゃっきしている、と……」

「そういうことです」


 と、なると相手はかなりの強敵である。

 各地で魔法の力を蒐集しゅうしゅうし、我が手に収めた不埒者──そりゃあ一方的な殺戮が出来るわけだ。


「明日、また来るんですよね?」親友は俯いてそう言った。

「? ええ、まあ。自分で言っていたし、多分また来るのでしょうね、この町に……」


 親友は口を一文字にきゅ、と締めて、シエスタさんの目を見据えると、静かに次のことを言った。


「俺に、奴を倒させて下さい」

「お、おい──」焦って声が上擦った。いきなり何を言い出すのだ。「勝てるわけがないだろう、僕たちに! それとも何か? 勝てる公算があるのか!?」

「ない」

「はぁ!? 無責任にも程があるぞ!? あのなぁ、人には出来ることと出来ないことが──」


 ……言いさして、辞めた。

 それはなんでかって……、なんでだろうなぁ。

 分からないけれど、多分あるとしたら、それはまぁ、次のセリフを言われたから……なんだと思う。


「でも、大丈夫だろ? 俺とお前なら」


 僕は間を空けず頷いた。







「戦略を立てよう。どうせ戦うのなら、勝率は高めた方が良い」


 僕の発言を受けて、親友は「そうだな」と頷いた。


「でも、どうするんだ? 自分で言い出しておいてアレだが、到底勝てるとは思えんぞ」

「分かってるのかよ……」

「もちろん」

「じゃあやめるのか?」

「やめない」

「オーケーくたばれクソ野郎」


 コイツは昔からそうなのだ。

 勇気は人並み以上にあるのだが、無謀さがそれをゆうに上回る……。


「鍵はお前だ」

「俺? 俺じゃ扉は開かないぞ?」

「そうじゃなくって……、ほら、その大剣」

「大剣? ああ、「自分の体格に見合わない程に巨大な武器」のことね」

「大剣で伝わるだろ……まあいい、兎に角、それを僕に持たせてくれ」

「ほれ」


 投げ渡された。

 大剣は床に深くめり込んだ。


「テメェ! 危ねぇだろ!」

「悪い悪い」

「ったく…………とにかく、戦略の鍵となるのはだ」


 親友は、僕の言わんとするところを理解したらしく、


を利用するんだな?」


 と言った。

 僕は無言で頷いた。




※ 




「ひゃっはーーーーッ!!!! オレ、再来!! ギャーーハハハハハハハハ!」


 夜は静かにして欲しいものだ。

 ……ともあれ、二度目の敵襲である。


「オラ! そこのお前!」親友が悪漢の行く道を塞ぎ、大見得切ってこう言った……、因みにコイツもかなりうるさい。「倒してやるからそこに直れ! 死にたくなければ大人しく殺されろ!」


 言い分は無茶苦茶だが、挑発にはなっているだろう──合目的性は確かにあるのだし……、この際、その辺のことは一切構うまい。


「誰が直るかァ! 寧ろお前が頭を下げろ! が高いんだよ、クソガキがァ!」


?」素っ頓狂な声を出して親友は言った。「この通り安い頭ならいくらでも下げられるが……、あいにく高い頭は持ち合わせがない」


 親友は続ける。


「……随分高く評価するんだな? 単なるクソガキである────この俺を」


「クァ……」


 刹那、少しの間があって、


「くぅぉんのクソガキャァァアアアアアーーーーッッッッ!!!!」


 と言った。

 ひとまず作戦通りである。

 かように上手く行く想定では無かったのだが……、しかし、上手くいって損をするってこともあるまい──冷静さを失った悪漢に、適切な行動は難しい筈だ。


「歓迎が熱烈だねぇ! ……だが、テメェなんざにゃあ俺は、高嶺の花……否、の花だよ!」


 何せ頭がんだからなァ! と親友は言った。

 上手いこと言うのに命を賭けすぎである。


「…………ハハッ!」

「フゥーーーーッ! フゥーーーーッ!」


 悪漢は興奮している様子だった。

 手に持った魔道具……それこそ、ビーム砲であちこちを撃っているものの、照準がブレブレで全く当たらない。

 戦局はどうやらこっちのペースらしかった。


「オラァ!」


 ビーム砲は撃ち続けると、次に撃てるようになるまで、いくばくかのインターバルが生じるらしい。

 親友はその間隙かんげきを狙い、例の「自分の体格に見合わない程に巨大な武器」で悪漢に踊りかかった。

 だが────


「なに!?」

「ギヒヒヒ…………」


 相手の実力も生半ではないらしく、アッサリと身を翻して、大剣の軌道上から軽く撤退した。

 目を剥く親友。

 無論、その隙を逃すほど悪漢は優しくない。


「────でやぁ!」


 インターバルはどうやら継続中らしく、悪漢はもう一方の手で親友を打擲ちょうちゃくした。

 

「く────っ!」


 咄嗟に相手の間合いから逃れようとするも、一発目は喰らってしまう。

 親友は来たる二発目を予見し、すぐさまその場から離脱した。


「ハァッ……! ハァッ……!」

「どうしたどうしたァ! 辛そうだなァ? ケキャキャキャ!」


 ……まずい、相手のペースだ。

 それでも向かおうとする親友を、僕はいさめる。


「一旦逃げろ! 逃げながら体制を整えるんだ!」

「……っ!」


 僕の諫言かんげんを受けて、親友は弾けるように走り出した。


「ギィーハハハハ! 逃げろ逃げろ!」

 

 平静を取り戻し、悪漢の標準に正確さが宿り出した。

 時折り親友の服にビーム砲がかすめる──正直、このままでは敗色が濃厚だ。


だ! をやれ!」


 僕の意図するところを理解したらしく、親友は大剣を天に振りかざした。


「うぅ────っ!」


 ぐらり……、と大剣が持ち上がり、

 

「────おおおおおおおおおおっ!!!!」


 勢いよく、万象を潰えさせる一撃を……

 

「なっ!?」


 ……親友は、与える事が出来なかった。


 大きく持ち上がった大剣は、大きな的となったのだ。

 大剣は鉄屑と化した──ビーム砲の標的となる事で。







「ど、どうするんですか!?」作戦会議を聞いていたシエスタさんが、戦況を見て思わず詰問をする。「アレが作戦の肝心要だったはずでしょう!? 剣の重さがどうとかって……、ビーム砲に打ち砕かれましたよ!?」

「…………………………」僕は答えない。


 親友は尻餅をついて、慌てふためいて逃げ出した。

 悪漢はすぐに追撃しようと、ビーム砲の照準を合わせるのだったが……、


「…………」


 僕が投げた小石がこめかみに命中し、すぐに対照をこちらに切り替えた。

 ぶつかる殺気。

 一も二もなく……、四の五の言わずに僕は逃げだした。


「………………虫ケラが」

「ハ……ッ! ハ……ッ!」


 逃げて逃げて、五分ほど逃げて、果ては狭い裏路地に逃げ込んだ。

 行き止まりだった。

 絶対絶命。

 死に場所はここであるらしかった。

 僕は笑った。


「…………なんだ? 気でも触れたか?」

「僕さ、作戦を立てる時、言ったんだよ。親友に、……、って」

「あぁ?」

「そんで、こうとも言ったのさ。を利用するんだ……って!」


 僕は破顔を抑えきれないまま、天を仰いでこう言った。


!」


 刹那、空から女の子が降ってきた。

 そして悪漢を圧殺した。







 作戦を立てる時、僕は剣が床にめり込むのを見て「戦略の鍵となるのはだ」と言った。

 だから正確には、「重さを利用する」と言ったのは親友だし、事実それで間違っていないのだが、この文脈では誤解を与えかねなかった──説明は途中だったのだ。

 僕の言ったとは、重さの事であるのは確かだけれども、しかし大剣を指して言ったのではない。

 僕が言いたかったのは、親友の重さだ。

 無論、親友の価値が重いみたいな綺麗事でなく……、親友の、その質量が大きいと言う話だ。

 …………自分の質量より重いものを持ち上げるのに必要なものは何だと思う?

 勿論力も、パワーも要るだろう……必須条件だ。

 だけどしかし、必要なのはだけじゃない。


 ────重さだ。


 重さこそが、自重を超える重いものを持ち上げるのに肝要なのだ。

 ……じゃあウェイトリフティングとかどうなるんだよ、と言う声が聞こえて来そうだが、アレは違うのだ。

 アレは基本的に、重りの重さに対して、常に重心が縦であるよう努めてある……少しばかり事情が違うのだ。

 しかし剣となると違う。

 アレは、流派によって変わるものだろうが、振れば横にもなる──確実に重心が崩れるのだ。

 自分の手に、自分より重い物が横向きになって握られている。

 フィギュアで考えれば致命的だろう。

 重い物を持たせると、その方向にフィギュアが倒れる……常識だ。

 いくら力が強くたって、剣が本人よりも遥かに重ければ、その方向に身体は必ず倒れる……、たとえ頑張れたにしても、重力に従い、地面に刺さった大剣に対して、普通に持っていた時のポーズを維持するというのが、果たして関の山だろう。

 格好としてはかなり間抜けだ。

 例えば真っ直ぐ立っているフィギュアがあったとする。

 そしてそのフィギュアが、自分の質量より重い剣を、身体の角度が90度であるのに対して、45度の角度で握っていたとする。

 するとどうだろう、途端に身体は剣の方に傾いて、剣は垂直に地面に刺さり、剣が縦、フィギュアの本体は横向きの……、T字を形造る結果となろう。

 ……それでも不満な人間向きに、よりリアル志向に考えるなら……、剣は四十五度で地面に刺さり、フィギュアと併せて、「人」の形を作る事だろう──この場合、寄りかかっているのがフィギュアで、支えているのが剣の方だ。

 力が強くても体重が軽い人間の場合、これと全く同じことが起こる。

 力が強ければ、そりゃあポーズは維持できようが、持っている剣が自分より遥かに重たければ、重心を、持ち上げたままにすることは難しい。


「親友は、十日間と、更に三日森で遭難した時、普通にあの大剣を振るって、モンスターを撃退していた……」


 にも関わらず、


 ──ということになるのだ。







「普通にあの剣で倒せたらそれで良かったんですけれど、ダメだった時の作戦がでした」


 事前に打ち合わせた所定の位置に敵を誘き寄せ、路地裏の両側面にある、どちらかの建物の二階から、悪漢目掛けて飛び降りる──それこそが、僕が考えた作戦だったのだ。


「シンプルですね……」

「アハハ……まあ、そうですね」


 

 ただそれだけで、街の脅威を排斥できる。

 シンプルか否かと問われれば……、誰もが迷わず「前者」と答えることだろう。


「でも、何でそんなに重いんでしょう? あの短躯たんくのどこにそんな質量が……」

「ああ、それは……」言いさして、辞める。そして不自然さを隠そうともせず、僕は話題をすぐに切り替えた。「ああ見えて密度が高いんでしょう。それより、聞きたいことがあるんですけれど……」

「……? はい、なんでしょう」

「あの円柱が、単なる円柱から、ビーム砲になったのは、実はごく最近だとおっしゃいましたね? 具体的に言って、それは何日前のことなのですか?」シエスタさんに正対し、僕は見据えるようにそう尋ねた。

「確か、十日……いえ、更に四日前。十四日前のことだったかと……」

「! ……ありがとうございます」そう言って頭を下げる。この時の僕の声色には、ある種の確信が宿っていたに違いない。「助かりました。ではまたいずれ……」

「あら? もう行ってしまわれるんですか? せめてもう一晩……」

「僕にそんな歓迎を受ける資格はありませんよ」


 以前に一度言ったような事を僕は言った。

 

「そんな、ご謙遜なさらず……」

「そうだったら良かったんですけどね」

「え?」


 当惑するシエスタさんを傍目に、僕はこう言った。


「本当にすみませんでした。そして、永遠にさようなら」

 






 僕は親友と連れ立って、以前来た道を引き返した──十日と三日、つまり十三日の時間をかけて。

 

 ガラクタ同然だった円柱が、ビーム砲になった日付は十四日前だが、僕らが目覚めてあの街に来る前、森を彷徨っていた期間(十三日)と、シエスタさんの家で一泊した分を考えれば、十四日という数字は符合する。

 そして彼女は言っていた。

 時期を同じくして、各地で似たようなことが起こっていると。

 これは単なる偶然か?  

 いや、そうとは思えない。

 ガラクタの魔道具化と、僕たちの覚醒とは若干以上の相関が認められて然るべきだ。

 そして根拠はないのだが、或いはその元凶は、僕達の方にあるのではないかと……、そう思わずには居られなかった。

 だから、戻ってきた。

 こうして十三日かけて、僕たちが目覚めた始まりの場所である──あの暗闇に。

 僕と親友の始まりの地に。


「火をつけよう。こう暗くては敵わない」


 幸い、僕はサバイバルの名手であった。

 火の一つや二つ……、着火出来ない道理はない。

 そして灯りがともる。

 松明を中心に、辺りは環状に照らし出された。


「オイ……、コレって」親友は目を剥いた。

「ああ……!」


 僕は生唾を飲み込み……、こう言った、


「コールドスリープだ!」


 この部屋で目覚めた時、僕はと感じた──あの時の感覚は、つまりコールドスリープの中で寝そべる感覚だったのだ。

 いかにも最新鋭、前衛的とすら取れる雰囲気であるが……、横にいるコイツは、恐らくそのずっと最新をいっている。

 

「お前、ひょっとすると全身が義体なんじゃないのか?」

「……あぁん? そりゃどう言う意味だ?」

「だからさ……」


 躊躇せず僕は言う。


「今のお前って、……って、そう言っているんだ」


 ……それこそが、「自分の体格に見合わない程に巨大な武器を持っているロリ」の質量が、「自分の体格に見合わない程に巨大な武器」の質量を、ゆうに超えている理由なのだった。


 機械の体は、鉄の体は……、とてつもなく重いのだ。







 重さに関しての理屈はそれで通るにしても、機械が何故こうも人間らしい相貌なのかと問われれば、それはまあ、それくらい人類の技術が進歩したのだと言う他ない。

 僕がコールドスリープで眠らされている間、身体を後世に保存する方法も細分化されたのだろう、恐らくそのうち一つの選択肢が、脳を除いた全身の義体化だったのだ。

 このことから推理を発展させるに──こんなものを推理と言っていいのかはわからないが、それはともかく──、あのビーム砲やらなんやらの魔法道具も、単なる科学技術の産物ではなかろうか。

 あまりにも飛躍しているし、その根拠を胸を張って答えるのは憚られるから、ここはあえて、先人に解答権を譲ることにするのだが……、曰く、高名なSF作家はこう言った──『高度に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない』……、と。

 だからあのビーム砲みたいな魔法道具も、魔法道具みたいなビーム砲だったのだ──科学技術の産物による。

 ……してみると、少し前、ていうか十四日前、この世界に魔法が誕生したのはごく最近……なんて推論をしていたけれど、それはまるきりズレていて、真相は「この世界はそもそも異世界じゃない」……あるいは「科学の力ってスゲー!」ってことになるのだろうか……。

 それはそれで、異世界転生より夢のある話だ。


「で、でもそれじゃあ、この世界がこんな異世界みたいな世界観である理由にならないぞ? この世界が異世界でないのなら、どうしてこんな、ファンタジーじみた……」

? おかしな事を言うもんだな。……そもそもファンタジーとは、現実の要素をコラージュして創られるものだ」僕は続ける。「故に、それは発想の順序からして違う。……ファンタジーとは、つまり、現実そのものなのだから。異世界であろうとそれは、所詮、現実に過ぎないのだ」

「…………意味が分からねぇぞ」

「だからさ」


 僕は続ける。


「僕はコールドスリープで眠らされたんだ」

「ああ」

「そしてその後、君も後を追うように、義体化──全身の機械化──による体の保存を目論んだ……、或いは、誰かの手により、後世への身体の保存を仕組まれた……実際、こうして残っている訳だしね」

「ああ」

「その後、人類は滅亡した」

「ああ」

「文明がリセットされたんだ。人類は一から歩み直しだ」

「ああ」

「人類は滅んだはずだろって? それが違ったんだ。事前に人類の滅亡を予見した旧人類が、文明を早送りで再興する計画書と、人間の素とを同封したんだ」

「ああ」

「計画書通り、新人類は文明の趨勢を早送りで再現することで、旧石器時代とか、新石器時代とか、その辺りの非文明的時代を急速にスキップして……、そして今、中世ヨーロッパの時代が訪れた」

「ああ」

「そして大概の異世界のモデルは、中世ヨーロッパに存在する。……これで分かったかな? 僕たちがこの世界を、異世界だと勘違いしてしまった理由が」

「分かったけど全くわからない」

「説明しておいて何だが上に同じだ……理屈は通るけれど、まるで絵空事めいている」


 でもこれだといろいろ説明がつくのだ。

 人類が滅ぶ時は多分核戦争だろうし、諸々の動物を巻き込んでの拡大自殺(当人たちの意識はともかく)だったのだろうから、当然動物たちもリセットされる。

 完全なリセットでは無いにしても、様変わりした環境で、通例とは違う様々な形の交配を続けることで……、見覚えはあるものの、しかしよく見ると違う動物が、新たに出来上がってしまったのだ。

 それこそがモンスターの正体。

 化け物ではなく、単なる野生動物の子孫。

 襲ってくるのと襲ってこない奴がいるのは、野生動物にも攻撃的な奴と、そうでない奴がいるってだけの話だろう──やはり、異世界は幻想であり、現実だ。


「でも、それなら知識とギャップが生じるのはおかしいな……どうしてコールドスリープだの、義体化だのが出来る世界で、俺たちはそのことを知らないんだ?」

「そりゃ簡単だろ、もっと前にコールドスリープしてたのさ」


 コールドスリープ自体は僕らの時代でも可能だった。

 そして、何年経っても解凍する機会が得られずに、次へ次へと、ものが新しい技術へと代替わりしたのだろう。


「そして僕は、最新のコールドスリープに。そしてお前は、最新の保存法である、義体化によって身体が保存された」

「なぜ、そんなことになったんだ?」親友は聞いた。「誰が、何の目的で……、どうして俺たちの身体を保存した」

「それは……」


 質問を受けて、僕は松明の灯りで視線を誘導した。


「アレに聞けば良いんじゃないかな」


 照らし出されたのは、台の上にある「ボイスメッセージの再生」と書かれたボタンだった。







「見つけたのが推理の途中だったんで、なかなか言い出し辛かったんだけれど……、はなっからコイツに喋らせとけばよかったんだ」僕は照れ隠し半分に、若干ヤケになった口調でそう言った。

「押すぞ」そんなことは意に介さず、親友はボタンに体重をかけた。「ポチ」


 少し間があって、「ザ……ザザ……ッ」みたいなノイズも時折り乗ったけれど、これと言った大過たいかもなく、次第に音声が流れ出した。


『君たちがこれを聞いているということは、ボクはもう死んでいるということだ。……あ、言い方的に誤解を与えるかもしれないけれど、別にボク、君たちにとって大事な人とかじゃないから。勘違いしないでよねっ!』


 もう既に好感が持てない。

 なんなんだコイツ……聞いた感じ、壮年の男性って感じの声だけれど、まさか美少女以外からその台詞を聞くハメになるとは思わなかった……、実に最悪の気分である。

 なんか一人称も「ボク」だし……。


『とにかく、君たちの身体保存の管理者を担当している、ボクだよ〜っ! 佐々木蔵之介ですっ! いえいっ! 因みにトシは秘密だよ? 性別は〜……』


 以降三時間ほど新出の有益な情報は一つとして絶無だったのだが(ちなみに僕の推理は概ね当たっていた。驚いた事に)、ここにきてようやく、新しい有益な情報が手に入った。


『……君たちの身体を保存していた理由はね、未来で生きる過去の人間が見てみたかったからさ』

「その心は?」

 

 合いの手を入れる僕を不審に思う人があるかもしれないが、ちなみにコレ、会話ができるらしい。

 三時間ぶっ通しで話し続けていたから気が付かなかったのだが、一応は管理者の性格と知識をディープラーンニングさせた、対話型AIということだった。


『過去の人間が未来に行って戸惑う姿、激オモロじゃね? と思ったのさ。ほら、信長が現代に来る奴とか、孔明が現代に来るとか……それの実話ノンフィクション版』

「…………ハッ!」僕は失笑した……、笑うしかない。「そんなことの為に……お前は」

『ま、タイミングを失して未来は無理そうだったから、ここは今風に異世界でっ! ってことで、中世ヨーロッパになっちゃったけどね……これはこれで』

「……は?」親友は明白に苛立った声を上げた。「まさかお前、辻褄合わせの為に魔道具……じゃなくって、旧人類の遺した科学装置を復活させたのか……?」

『そゆことっ! 『高度に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない』ってやつだねっ!』

「テメェ!」半ば上擦ってしまっている声で、親友は蔵之介とやらに半畳はんじょうを入れた。「それのせいで全体何人の人達が!」

『死んだのかって? そんなの知らないよ……くだらない。大体、ボクも死人だしねっ!』

「……っ! 貴様ァアア!」

『おぉっと! やめた方がいいよ、壊すのは? ……君たちの行動次第では、過去に、というか現代に、帰してやらないこともない』


 刹那、僕らの空気がしん、と冷えた。

 

「…………本当なんだな」

『本当だともっ! そこにあるコールドスリープだけど、僕が操作をいじりさえすれば、タイムマシーンにだってなるんだぜっ!』


 ……すごいけれども。

 なぜそれと併用させたんだ。


「一台しかないぞ」

『別に少し待てば二人目も使えるよ』

「そうか……」僕は少しの間沈思黙考して「分かった。条件を呑もう。僕たちは何をすれば良い?」と言った。

『そう身構えなくて良いよ? クイズを解いてもらうだけだから』

「クイズ?」思わず胡乱うろんな声が出る。「なんでまた?」

『僕は知恵と勇気でピンチを切り抜ける展開が好物なのさ』


 ……クソッタレが。

 それなら十四日前にやった所だ。







『デデン! 問題です!』 


 僕も親友も、英語のリスニング問題よろしく、静かに聞き耳を立てていたのだが……、


『1\2は?』


 ……蔵之介は、それを画面に表示したっきり、完全に緘黙かんもくしてしまった……、まるでそれ以上のセンテンスが、一切不要だと言わんばかりに。


 ……。


 …………はぁ?

 

「二分の一……?」親友は、多分近いと思ったであろうことを発言した。

「うん、確かに近い、近いけれど……」


 表記がちがう。

 二分の一は、形を変えても1/2だ。


「じ、じゃあ一月二日……? でも、それだって……」


 そう、一月二日でも同じことなのだ。

 一月二日は……、形を変えても……1/2だ。

 では、一体コレは────


「わか……「るけど、まだ確証がないなぁ〜〜っ!」

 

 親友の失言に被せて僕は誤魔化した。

 ヤツは性格が悪い(決定事項)。

 そんなことを言ったら揚げ足を取られるに決まっている。


「…………すまん、助かった」

「いや、いい。とにかく解こうぜ……」


 解けそうにないという気持ちは分かるけど。

 しかし、今はそれを出す時ではない。


「1\2……うーん……、なんというか、反転しているように見えるんだよな……逆っていうか」

「反転?」親友はコペルニクス的転回を得たとばかりに……、得意げにその声を張り上げた。「そうかっ! 鏡か!」

「鏡……」


 良いアイデアだが、しかし細部が詰めきれていない。

 鏡で反転するなら棒(バックスラッシュ)だけでなく数字も反転するわけで、1\2では成立しなくなる。

 反転しても成立する数字でなければ……、例えば、「8」とか「0」とかでなければ、この仮定は意味を成さない。

 「1」だって場合によれば行けただろうが、画面に映されたのが「I」でなく「1」だったの良くなかった……、そして、「2」なんてのはもう、もってのほかだった。

 反転したらどうなるんだ?  

 2の逆?

 想像がつかない。


「逆に、数少ない問題文のセンテンスに注視してみたら……? 『1\2は?』。仮にこれが日にちを聞いているのだとしたら、〜は? という言い回しは不適当だ。それなら問題のセンテンスは『1\2は何日?』と問うべきだろうし、これが日にちではなく分数だとしても『1\2はいくつ?』だとか『1\2=◯◯ マルのところを埋めよ』とかにすべきだ。それなら、そこにこそ鍵がある……?」

「この『1\2は?』というセンテンスこそが、問題文として適当……ということか?」

「……いや」網羅的に、僕は別の可能性も探っておく。「適当というより……適していて当たっていると言うより……、これでないと矛盾するからという、消極的問題文である可能性も……」

「それなら、やっぱりこの『1\2は?』というセンテンスが、問題の鍵になってくるんだな?」

「……そういうことになる、かも」

「かもか」


 近づいているのかも知らないが、どうにも茫洋ぼうようとしていて実態が掴めない。

 なんだか惜しい感じがするのに……尻尾を掴むのには至らない──自分の実力も。


「なぁ〜んか、見たことはある気がするんだけどなぁ〜」親友はそうひとりごちた。


 いや、確かにそうなのだ。

 見たことがある気はするのである……そう、まるで日常的に、何度も見てきた記号のように……。

 日常的。


「! そういうことかっ!」

「え? どうした? 何か分かったのか?」

「……だよ」

「へ? ごめんなんて?」


 僕は言う。


「Fだよ!」







 普段から日常的に見ていて、Fを足すとわかりやすくなる……要するに、こういうことだったのだ。


「答えは……1F\2Fだ!」

『正っ解っ! ブラボーーーーーっ!!!! ヒューーーーッ!!!!』


 既視感の正体。

 それは、階段の踊り場でたびたび見かける、だったのだ。

 一階から2階にかけて存在する、階段と階段の継ぎ目の部分……つまり踊り場には、大抵この表記で書かれている……、それ故の既視感だったのだろう──そりゃあ見たことあるに決まっている。

 鏡のくだりは、まあ無駄っちゃ無駄だったけれど……、しかし問題文が『1\2は?』と問うだけだったのは、センテンスを増やして情報を特定してしまうと、アッサリ答えられかねないと踏んだからであり、だから先刻さっきの話に出た、消極的問題文というのも、ある意味で正解だったのだ。


「オッカムの剃刀かみそり……ってことだな」


 説明の仕方が複数ある場合、その中でもっともシンプルなものを選べ──シンプルイズベストの思想である。


『コールドスリープのシステムを変えておきました。いつでも過去へ戻れますよ』

 

 コングラッチュレイション、と結んで、蔵之介は再び黙り込んだ。


「……………………」


 しん、と音が消える。

 多分だけれど、二度と喋り出すことはないと思う……、そう思うと、僕も少しだけ寂しかった。


『……ねぇっ! 早くしなよっ! ボクの気が変わる前にっ!』 


 喋った。

 目いっぱいに目を見開く僕。


『……んん? ……アレレ?? アレレレ??? もしかしてビックリしてる??? ボクがもう喋らないとでも思った??? 一瞬でも寂しいとか思っちゃった!? あっれぇーーーーっ!? カワイイとこあるじゃのぉぉおおーーーーっ!! うーーーりうりうりうりううりうりうりうりうりうりうり』

「黙れ」


 僕たちはクイズを解いた余韻もそこそこに(雰囲気はぶち壊された)、足早にこの世界から立ち去るのだった。

 ……なんというか、どっと疲れたよ、僕は。

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異世界で「自分の体格に見合わない程に巨大な武器を持っているロリ」と出会ってしまった件! イマジナリー彼女、略して今カノ @vampofchicken

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