第3話(終)


 お母さんは、洗い物を始めました。

 カイトくんは、空に横断歩道がないか、窓の外を見てみました。

 そこには、もくもくと美味しそうなわたあめがあるだけ。

 もう、横断歩道はありません。

 お母さんが描いた怪獣というのは、どんな姿をしていたのでしょうか。

 お母さんのことだから、怪獣と言ったけれど、どこかかわいらしい姿をしているんだろうな、とカイトくんは考えました。

 もしかしたら、青い空にある白い横断歩道の手前で、飛行機が歩いてこないかと、ピンクのもこもこ怪獣が歩みを止めたかもしれない。

 考え始めたら、空想はもくもくと広がっていきます。

 お母さんの頭の中に、ほんの少しお邪魔しながら、怪獣を描きます。

 違うなぁ、こうじゃないんだよなぁ……。

 頭の中のもくもくを、何度もこねこねして、色形を変えてみます。

「きっと、こんな怪獣がいたんだ!」

 カイトくんの頭の中に、はっきりとした怪獣のイメージが浮かびました。

 カイトくんは、また空に横断歩道が現れる事を楽しみにしながら、眠りにつきました。


 それから、何日か過ぎました。

 なかなか空に横断歩道が現れてはくれませんでした。けれど、今日。ようやく、再び横断歩道を見上げることができたのです。

 カイトくんは、一緒に歩くお母さんに、にっこり笑顔で言いました。

「怪獣が、飛行機が通らないかな? って、キョロキョロしているね。」

「んー?」

 お母さんも、空を見上げました。

「そうだね。飛行機が歩いてこないから、大丈夫って、走り出したね。」

 お母さんのふんわり笑顔を見て、カイトくんは嬉しい気持ちでいっぱいになりました。

 お母さんと同じ空を見ている。

 きっと、他には誰も、お母さんと同じ空を見ている人はいない。

 これは、二人だけの空。

 ゴォォォォ! っと、大きな音がしました。小さく見える飛行機が空にいます。

 飛行機は、右左右を確認することなく、ビューン、と横断歩道を渡っていきます。

「怪獣が止まってくれなかったら、危ないなぁ。」

「そうだねぇ。空にいる怪獣さんは、飛行機想いで優しいね。車もね、優しい車がたくさんいるよ。だけどね、時々とっても急いでいる車もいるの。だから、カイトはあの飛行機みたいに、右左右しないで渡っちゃ、ダメだからね。」

「わかってる。ちゃんと見る。あと、コレ!」

 カイトくんは、腕をピーン、とあげました。

 お母さんはにっこり笑って、カイトくんの頭をヨシヨシと撫でてくれました。

 どこからか、ガォォォォ! という鳴き声が聞こえてきました。

 お母さんにも、同じ声が聞こえたみたいです。

 キョロキョロと辺りを見回してみます。

 でも、鳴き声の主が誰だか、わかりません。

「きっと、怪獣さんが、『手をあげてくれると気づきやすいよ』って、言ったんじゃないかなぁ。」

 お母さんが言いました。

「これからも、ピーン、するね! バイバーイ!」

 カイトくんは、空に向かって叫びました。

 そして、ふたりは目と目を合わせて微笑みあうと、お家へ向かって歩き出しました。






おしまい




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そらのおうだんほどう 湖ノ上茶屋(コノウエサヤ) @konoue_saya

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