画角編後編(CHAPTER7最終回そして):問いをもつべき世界

 映像で何度も見た消滅可能性都市爆破しょうめつかのうせいとし


 三人はケンカと心霊スポットめぐりのため本当に消滅した場所を訪れていた。


「ってなんで俺まで」


 鬼娑鍔藻失らくしゃあさりゅうけ疑問ぎもんを持ちつつも暁稲かいな赤縫須罰せきぬいまねじにツッコミを入れた。


「お前にジャッジしてもらえへんとまらないやろ」


 そういうことじゃないじゃん!

 案の定封鎖ふうさされていた消滅可能性都市爆破跡しょうめつかのうせいとしばくはあとを上手く抜けるの大変だったと愚痴ぐちったのに。


 さすがにすぐにケンカを始められる状態ではなく、子供のようにこの地を調べていた。


 いや子供ではないか。

 探偵たんていの気分で。


 勝手に入ってしまったこの場所ですぐにケンカしたくても暁稲かいな赤縫須罰せきぬいまねじも落ち着いたのか爆破跡ばくはあとを調べようとしていた。


「引き戻された時のこと考えてへんやろな?赤縫せきぬい?」


「てめえら知名度のあるファイターを殴れるんだ。そんなこと思うわけねえよ。ただしさっきから気になってる」


 おーい。

 赤縫せきぬいは霧につつまれた何もない空間に大声で気配けはいあるじを呼ぶ。


 封鎖ふうさしている警官けいかんにバレないほどいつの間にか奥までやってきた三人。


「へえ。勝手にこんなところまで来るやつらがいるとは」


 三人は身構みがまえた。

 消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしだった場所に住んでいるとは思えないほど金色にそめあげられ、階級はおおよそ55キロで戦えそうな肉体。

 それでも筋肉質で年齢は自分達と変わらない20代前半か19歳前後。

 オシャレもしっかりしている。


「お前。まさか若くして格闘技から引退した蛇蛾城尾じゃのめすじき?」


 久しぶりに聞く名前だ。

 もっとも蛇蛾城尾じゃのめすじきとは面識めんしき接点せってんもなかったが。


 赤縫せきぬいは彼のもとへ歩いていく。


「やっと会えたぜ。同じ格闘技界に疑問を持つ者が」


 蛇蛾城尾じゃのめすじきの引退前試合はここで言うのも散々なもので動画配信者にかなりいじられていた。


 ある意味で伝説を残した彼がこんな所でサバイバルを行うのも無理はないか。


 SNSが普及ふきゅうする現代社会と消滅していく田舎。

 人口が減っていく現実は加速していくだけ。


「ところで蛇蛾じゃのめ。サバイバルをしているはずなのにほぼ家の中みたいに封鎖された中で暮らしていけているのはなぜだ?」


 鬼娑鍔らくしゃあさは彼へ疑問をぶつける。

 このサバイバルのなれよう。

 収入源はどこにあるんだ?

 下世話なことばかり気になり三人はケンカ所ではなくなった。


 蛇蛾じゃのめはにこりと笑い、三人を奥へと誘った。


 平たんで霧ばかりの奥へ進むとそこには何らかの門があった。


 赤紫あかむらさきの不気味なもやがかかっていて一瞬いっしゅん三人は現実を直視ちょくし出来なかった。


「誰かがここで厄介祓やっかいばらいをしてくれたおかげでこの門から必要な資源を好きなだけとれる。たまにここを封鎖しているやつらとも戦ったってこの門から記憶を消せる力を手に入れればどうにでもなるしな」


 そんな馬鹿な。

 急に意味不明なファンタジーが押し寄せてるなんて。


 蛇蛾じゃのめは話を続けた。


許可証きょかしょうをもった格闘家がここで契約を結ぶ悪魔を倒してくれと命令があって一人で乗り込んだらしい。そいつが誰かは知らないが、悪魔との戦いに勝ったあとで契約を結び死んだ。そうすれば門も封じられるはずだったからこの地を秘密で爆破ばくはしたらしい。なのに結局解決していなかった」


 三人はそこまで面識めんしきがない蛇蛾じゃのめが説明を続けている間にもしもの時にそなえていた。


「お前たちがなんのためにここに来たのか知らないが消えてもらおうか。現役ファイターでそのうち二人は名があるし強さもある。邪魔だ」


 門の力なのか蛇蛾じゃのめの筋肉質な身体はさらにふくらみ、プロ三人相手でも一歩も引かないどころか近付こうとしていた。


「俺にはおまえらを殺す明確めいかくな理由と目的がある。それだけだ」




⎯⎯⎯この世界は見られている




 蛇蛾城尾じゃのめすじきは都会や田舎で生きるのをやめた。


 どこへ行っても地獄ならせめて人が少ない場所を。


 引退してから許可証きょかしょうも機能しなくなったぶん報酬を減った。


 かといった今更いまさら何をすれば収入源しゅうにゅうげんを得られる?


 そんな時。

 消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしが何者かによって爆破ばくはされた。


 ニュースにはならなかったがおそらく俺が住むには一番てきしている場所だ。


 すぐに爆破跡ばくはあとへ向かって峰打みねうちで封鎖ふうさしていたやつを気絶きぜつさせて奥へ奥へと進んだ。


 そこにはゲームで見るような門が開かれていた。

 まがまがしい不気味な空間。


 そこで俺は欲しいものを手に入れ、ここで過ごすことに決めた。


 もう少し環境が整ったら家族でもつくるつもりだった。


 このまま他の連中に見つからないように結界けっかいを張って。


 プロファイターが許可証きょかしょうをもって現れてもいいように結界のセキュリティをゆるめた。

 持ってないやつもいるからな。


 筋肉を見ればすぐに分かるから。

 門を調べているうちに誰かが悪魔を倒してくれた過去を見た。


 ここを爆破ばくはした理由も。


 まあいい。

 門の爆破ばくははさすがに出来なかったらしいな。


 こんな生活もいつまでも続かない。

 それだけはちゃんと考えていた。


 いつでも戦ってやる。

 人間達と。


 蛇蛾じゃのめはいまだ消えない戦いたい気持ちをかかえながら勝手に入ってきた客人を出迎でむかえる。


 格闘家をやったあとだと『知名度ちめいど』って言葉にたいして敏感びんかんになる。


 やってきた三人のうち二人は人気興行に出ていることは知っていた。


 ここで消してやるか。


 拳の骨をならして蛇蛾じゃのめは三人の元へむかった。



⎯⎯⎯たとえ名前は知られていなくても



 赤縫須罰せきぬいまねじ蛇蛾城尾じゃのめすじき実質隠居生活じっしついんきょせいかつをしている理由がなんとなく知ることが出来た気がした。


 鬼娑鍔藻失らくしゃあさりゅうけ暁稲かいなのような知名度があるファイターは許可証きょかしょうを持っていてもいなくてもずっと暮らしていける。


 だから暁稲かいなが自分の意思ではないにしてもケンカを売ってきたからには誰の頼みだろうと高く買った。


 今は三人で協力して蛇蛾城尾じゃのめすじきと戦うことになったわけだが。


 赤縫須罰せきぬいまねじは二人を静止せいしし、蛇蛾じゃのめへ蹴りをくりだした。


「もし団体が同じで俺が現役だったら階級的に戦ったかもな」


蛇蛾じゃのめとアマチュア時代で戦うこともなかったのが悔しいな。それくらいいい動き今でもしてるぜ! 空間のせいか?」


 赤紫あかむらさきの空間は蛇蛾じゃのめに有利な効果を与えている。


 しかも鬼娑鍔藻失らくしゃあさりゅうけ暁稲かいなの周りには人間じゃない何かといつの間にか戦っている。


「一人で三人を相手するわけないだろ?」


 それは正しい。

 蛇蛾じゃのめが所有していることになった秘密の場所で戦っているんだからな。


「俺はあの二人が大嫌いだ」


「なら知名度がないもの同士、俺と組まないか?」


「こんなクソみたいな世界をどうにかするなんて一人じゃどうにもならない。でも俺一人で充分じゅうぶんだ」


 赤縫せきぬいにも仲間はいる。

 そして仲間達も理不尽りふじんと戦っている。


 赤縫せきぬいにとって消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしはただのケンカする所でしかなかった。


 今は鬼娑鍔藻失らくしゃあさりゅうけ暁稲かいなら知名度のあるファイターがここの空間から生まれた何かと戦わされている。

 いい気味だ。


 俺をめているからだ。

 赤縫せきぬいは少しだけ笑みがこぼれた。


消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしはこれからも増えていく。許可証きょかしょうを持っていたやつらはまた何かたくらむと思うぜ」


「お前みたいに空間の存在を知って住んでみたり?とか、か。は、はっはっはっはっは」


「何がおかしい?」


「知名度がなくてもお前はもうちょっとあがいてここでサバイバルしていると思ってた。それが全部たまたまで他の許可証きょかしょう持ちによって漁夫の利を得ているだけ。だとしても自分の力で手に入れた暮らしかもしれないな。でも!俺はお前を心の底からなぐりたくて仕方がない!」


 ずるいんだよ。

 どいつもこいつも。


 鬼娑鍔らくしゃあさ暁稲かいなも。

 そして蛇蛾じゃのめも。



 蛇蛾じゃのめにジャブを打ち込み、がら空きのボディへキックを食らわせた。

 しかし蛇蛾じゃのめのボディは想像以上にきたえられていて空間の力ではなく幼い頃からトレーニングをつんだ厚さだった。


「へえ。全てが空間だよりじゃないのか」


「20歳にもなってこんなことは言いたくなかった。俺もお前らがのうのうと現役ファイターとして戦っている姿をみていつかやり返したかった。だからここでお前らは死ぬんだよ! 封鎖している連中は全て事故として片付けるかもしれない。こんな好条件こうじょうけんでライバルを蹴落けおとせるんだからなぁ!」


 たがいの拳が顔にあたり、蹴りは交錯こうさくする。


 分厚ぶあつい二人の腹筋は着ている服をやぶり、切り傷となる。


 もうあの二人のことなんてどうでも良くなった。

 無いものをねだった者同士として戦い続けてやる!


 傷の手当てはしなくても空間が赤縫せきぬい蛇蛾じゃのめの二人を治す。


 まるでどちらかが倒れるまで願ってるように。


「俺たちまだまだガキだな」


「そもそもお前らがここに来なければ助かった命だ。ガキではなくてお前らがバカなだけだろ!」


 ちがいねえ!


 ケンカする相手を赤縫せきぬいは間違えている。


 いいんだ。

 リングも団体もちがう相手をなぐってもなんのメリットもなかったし。

 しかも暁稲かいなはやとわれ。


 同じ苦悩くのうちがう経験を持つ相手とケンカできた方が静かな戦いができるってもんだ!


 二人はただ戦いを続けていた。

 なぐり合い、り合いを。




*



 鬼娑鍔藻失らくしゃあさりゅうけ暁稲かいなは急に現れ、攻撃してきた何者かと交戦こうせんし続けていた。


雑魚ざこが!なんども邪魔じゃまばかりしおって。藻失りゅうけ赤縫せきぬいのガキはおいてくで」


「そのつもりだ。くっ! そもそも暁稲かいながこんな所でケンカしようなんて言わなければすんだ話なのに」


 鬼娑鍔らくしゃあさ達は出口へ向かい車のもとへ。


 すると目の前には見覚えのある人間が。

 いや、もう一人は……。


如月いつつめくん。そして遠目とおきめさん? あんた死んだんじゃ?」


 二人は無言で辺りにいた倒しても死なない生き物たちをとばした。


「すげえ。一瞬で」


 暁稲かいな遠目とおきめのもとへ飛び込み胸倉むなぐらをつかむ。


「お前死んだんやないかい!!」


「悪いな。死んではいるんだ」


「相変わらず俺の前では関西弁使わへんし冷徹れいてつな言い方で昔からお前のことは嫌いや。タッパもあるしな」


 っていまそんなこと言っている場合か!

 するとリングネーム・如月いつつめがもう一人の気配を呼び出して辺りを観察していた。


爆破ばくはでは完全な消去は出来なかったか。二人とも。あとでごちそうをしますからご内密ないみつに」


 一体何が起こっているんだ。

 消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしとは一体。


 コノセカイハ


 イツモ


 ダレカニ……


「な、なんだ? 今のは?」


 遠目とおきめは声に気がついた鬼娑鍔らくしゃあさへ何か思ったのか近付いて言い放った。


「契約していなくても声に気がつけるのか。ならもうここは本格的に危ないな」


 何が危ないんだ?

 しかもさっきの声はまるで水槽をながめる人間のようじゃなかったか?

 ながめている人間が泳ぐ魚をバカにするような。


「ここに残っている人達を帰す。

 辺りを封鎖している関係者達はそのままで」


遠目とおきめ。お前にそんなことできるのか?」


 如月いつつめ遠目とおきめを守っていた。


 遠目とおきめは両腕をあげて消滅可能性都市爆破跡しょうめつかのうせいとしばくはあとを黒いもやでつつむ。


 無尽蔵むじんぞういていた生き物も消え去り、ここにいた不法侵入者ふほうしんにゅうしゃは全て都市へと戻された。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 どこかで殴りあっていた二人も鬼娑鍔らくしゃあさ達ももとの場所へと帰還きかんした。


「く、車ごと持ってこれるのかよ」


「ちっ。死んでも恩を着せられるのかよ」


 如月いつつめ遠目とおきめは誰に二人ではなく、誰にたいして言っているのか分からない言葉だけ残した。


「消えた都市の今後はお見せできない。俺たちは俺たちでこの世界で生きていく」


「あそこの二人にも伝えて欲しい。もう消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしでケンカはするなって。俺たちは見世物みせものじゃないから」


 如月いつつめ遠目とおきめは黒い霧で漫画みたいに身をつつみ消えていった。


「はは。何が何やらさっぱりや。けど俺達は余計な副業せん方がいいかもな」


「強さと知名度に助けられたってことで。でもあそこの二人は?」


「放っておけ。さあ、帰るで」


 状況の整理がさっぱりだ。

 それにあの声は?


 空間ってやつの声か。

 蛇蛾じゃのめから上手く聞き出してやる。


 悩みが増える一方で無事に帰れたことだけは心の中であの二人に感謝した。


 悔しいことには変わらないけど。

 一体、今後どうなっていくのだろうか。


 俺達も。

 消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしも。



⎯⎯⎯エピローグ・消滅する未来と戦うしかない現在



 赤縫せきぬい蛇蛾じゃのめはルームシェアをしながらいずれは別の場所で暮らすために資金を貯めている。


 突然とつぜん空間を消されたことで計画がくるった蛇蛾じゃのめはパートナーともめていたらしい。


 それも解決し、蛇蛾じゃのめは負担の少ない事業を。

 赤縫せきぬいは試合を続け、バイトもトレーニングになるものばかり入れた。


蛇蛾じゃのめ! 少しくらいはこっちにも金を渡せ!」


「かんちがいするなよ。これもただの成行なりゆきだ。資金が集まれば俺とお前の関係は決裂けつれつだ」


 ったく。

 結局なぐり合いなんて自己満足じこまんぞくでしかなくて新たな悩みを増やすだけってのか。


 俺はもう誰にも笑わせない!

 消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしについてももう少し調べるか。


 もし他にも空間があるのなら。

 結局なんらかのメリットを考えてしまう。


 それに俺だけだったのだろうか?

 あの時に見た空間からは何かを感じた。


 



 だとしたらいつかそっちへいってぶん殴ってやるよ。

 誰の人生も見世物みせものじゃない。


 蛇蛾じゃのめ鬼娑鍔藻失らくしゃあさりゅうけ、そして暁稲かいな


 あの視線達。

 今に見ていろよ。


 お前ら!


 出遅れたメタバース。

 蛇蛾じゃのめがやっている事業にそんな名前があった。


 まさか……な。


 赤縫せきぬいはグローブをを持参し外へ出て頭を冷やした。



《了》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

CHAPTER 7 釣ール @pixixy1O

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ