画角編

画角編前半:分割された世界で

 今日も消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしについて調べさせられた。


 俺たち他団体兼任ファイターの副業として機能している消滅可能性都市しょうめつかのうせいとし治安維持ちあんいじは、許可証きょかしょうを特に考えず手に入れてしまった以上引き返せない内容だった。


 許可証きょかしょうを持っていると以前聞いたある三人のファイターのうち一人が生死不明せいしふめい、二人がうまいこと身を隠し暮らしている。


 ように見えた。


 誰かから拡散かくさんされた消滅可能性都市しょうめつかのうせいとし爆破映像ばくはえいぞう偽物にせものか何かだと考えられていた。


 許可証きょかしょうを持つファイターへの間接的かんせつてきなおどしであることは間違いない。


 俺はスマホでながめているさっき話していた内容の動画から目をはなし、アプリを閉じた。


知名度ちめいどが上げられへんやつらは大変やな」


 こちらを見なくても暁稲かいなには俺がなんの動画を見ていたのかバレていたかもしれない。


「俺達もやらされるかもしれませんよ。消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしの重労働。お年寄りには申し訳ないけど、情報がつつぬけでエコーチェンバーのまま死ぬまで傷をなめあう不便ふべんな村で結婚して自分達の子供を育てるなんて絶対に嫌だけどさ」


 つい本音がこぼれた。


 暁稲かいなは俺が予想外の反応をしたから腹をかかえて笑う


「都会か田舎か楽に選べる科学は日本にもない以上、おえらいさんは見限った市区町村しくちょうそうを人手が足りひんなか手練てだれに消してほしいんやろね」


 ひでえ話しだ。


 俺達は国の特殊機関とくしゅきかんでもなんでもない、理不尽りふじんと血の海をおよぎ資金繰しきんくりにいそがしい中で好きなことをして暮らしたい一般人なのに。


「また他団体ただんたい興行こうぎょうで試合せなあかんな」


許可証きょかしょうを持っていても今は俺達に仕事を押し付けられていない。だからこそ強くなりながら勝ち続ける必要がある……か」


 今に始まったことじゃない。

 だけど納得できない。


 でも俺達には今のところ関係がない。

 ただリングで戦えばいいだけだ。

 他のファイターがまた消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしを片付けているはずだから。


 鬼娑鍔藻失らくしゃあさりゅうけ21歳男性。


 ただ強さを観客へお届けするのみ。



--復讐のため、未来のために俺は戦って勝つ--



 くそっ。

 どうにもできない現状だけが自分をおそう。


 SNSも使わせてもらえない。

 所属団体や世間にどれだけ文句があっても。


 他のやつらは勝手に盛り上がっているのに!


 どうして俺だけ!


 赤縫須罰せきぬいまねじ 20歳。

 どこにもぶつけられない感情を胸に日々を過ごす。



*



 消滅可能性都市爆破しょうめつかのうせいとしばくはは誰も住んでいる人がいなかったからかそこに動物や植物、たまたま来ていた人がやってきたかもしれない予想を誰もたてずにファイター達にだけ知らされた。


 ふつうニュースになるだろ。

 爆破ばくは理由が自然によるものだったとしてもマスコミはニュースにするはずだ。


 それがなぜか何もなかった。

 そういえば給食か何かだっけ?

 資本主義しほんしゅぎだなんだいいながら失敗してなくなったらしい場所についてネットでもテレビでも誰もさわがなかったらしい。


 ふだん知らないニュースを一般人が話したものもふくめ目を通すようになって知った話だ。


「結局力が全てなのかよ」


 はながあって、身長が高くて、環境が素晴らしい人間達が全てを手にいれる。


 そうではない人間はたがいをけおとしあって悪口を言うだけ言って老いぼれるだけ。


 くだらない。

 だから俺は格闘技で同階級どうかいきゅう連中れんちゅうに勝つしかなかった。


 結果はずっと負けっぱなし。

 勝った試合もあったしベルトもとった。

 でも団体が乱立しているからかタイトルの価値にピンと来てくれる人間は身内しかいなかった。


 しかも立ち技ファイターは他団体で戦って勝たないと目立てない。

 エンタメだのなんだのいまだにSNSや動画を使って自己プロデュースをしてようやく世間の評価はマシ。


「リスクだらけのインターネットに民度の悪い信用できねえ人間達のためになんで余計なことをしなきゃならねえ!」


 世界は俺にも誰かにも優しくは出来ていない。

 だから悔しかった。


 消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしのことも良くは知らない。


 リング外で誰かをなぐりたくなかったし、心霊現象に使えない意味不明な許可証きょかしょうを持っていない俺は消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしを好きな動画を見ていた時におすすめとして上がるニュースを見て知った。


 なぜファイターが許可証きょかしょうをもって消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしなんかの治安維持ちあんいじなんかするのかって?


 報酬ほうしゅうがもらえるし自衛じえいにも正当な理由になるからだ。


 俺だって欲しくないと言えば嘘になる。

 でもリングの上で勝利と自分の価値を証明しょうめいしないと意味がない。


 話を少し変える。

 沌光莉八女系とばたりふぃいらにはがっかりだ。


 まさか許可証きょかしょうを持っていたなんて。


 彼は俺が昔先輩ファイターにいじめられた時に助けてくれた。


赤縫せきぬい。お前は悔しいか?さっきまでの自分に」


 当時は先輩ファイターに勝てないと思い込んでいた。


「あんたに助けてもらったからもうどうだっていい」


 俺がそういって去ろうとすると沌光莉とばたりは俺の前でこぶしを寸止めした。


 ただ呆然ぼうぜんとしているだけの俺を前に

「俺をなぐれないか……甘い!」


 沌光莉とばたりと俺は戦いを始めた。

 いつの間にか沌光莉とばたりとは稽古けいこをつけられるようになった。


 そして俺は沌光莉とばたりの顔の前へ寸止めが出来るようになった。

 ここで俺は彼へ宣言する。


「俺はあんたの挑発ちょうはつに乗るつもりもないし、あんたをなぐらないつもりもない!」


 沌光莉とばたりは笑いながら俺へ拍手はくしゅをおくる。


「次の試合でお前をいじめたやつとカード組まされたんだってな? そこでリベンジしろ。客のことは置いとけ。自分の人生を歩み進めろ!」


 彼に言われるのはしゃくだったがただの喧嘩けんかがガチめのスパーリングだったらしく俺は先輩ファイターへ勝利した。


 はっはっはっ。

 久しぶりだ。

 笑ったのは。


 それから沌光莉とばたりは姿を消した。

 次に彼を知ったのは消滅可能性都市爆破しょうめつかのうせいとしばくはけん


 試合にもしばらく現れないし、どこへ行ってるのやら。


 俺にはもう関係ない。

 SNSも所属団体しょぞくだんたいから止められ、さらに許可証きょかしょうも俺のプライドで取っていないから最近は息苦しい。


 次の戦いでどうにか勝ち続けたい!


「金、ないんだろ?」


 誰だ?

 ってこいつは鬼娑鍔藻失らくしゃあさりゅうけ


 年齢ねんれいは俺のひとつ上。

 俺とはちがう団体に所属していて、いま流行はやりの格闘技興行で顔の良さと強さでコアな格闘技ファンとにわかファンに知られている嫌なファイターのひとりだ。


「金がないのはお前らも一緒だろ? なんのようだか知らないが俺は許可証きょかしょうもないしお前となれあうつもりもない。じゃあな」


沌光莉とばたり選手とそれなりに交流があったらしいな」


「それがどうした?」


「彼が消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしから送り込んできたファイターが君と戦いたいそうだ」


 なんだと?

 沌光莉とばたりは何を考えているんだ?



*


 心霊現象には使えない許可証きょかしょう

 存在しないものはなぐれない。

 暴力への規制きせいもここまでくるとディストピアだねえ。


 暁稲かいな消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしで暴れる前のデモンストレーションに赤縫須罰せきぬいまねじ を選んだ。


 後輩だった本名がわからないリングネーム・如月いつつめとも面識があるらしい元ムエタイファイター。

 そいつが赤縫せきぬいだ。


 鬼娑鍔らくしゃあさが色々と整えてくれたおかげで復讐に燃えているらしい赤縫せきぬいの元へやってきたのだから。


 まあ沌光莉とばたりの命令で来たことにしないと赤縫せきぬいは反応しなさそうだったからやつの名前を借りることにしたのは自分でもバッドアイデアだった。


「俺もかつては所属していた場所もいまは他団体や。そこだけでの試合じゃ知名度も得られんし、ベルトの価値も見ている連中に思い知らせられへん。おまけに消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしで副業や。あほらしい」


 赤縫せきぬいは構え、こちらの攻撃をうかがった。


「よくしゃべるやつや思ったやろ? 自己紹介するか。俺は暁稲かいな。俺はお前とちがって復讐心ふくしゅうしんよりも女の子にモテたいし、金も欲しい。そしてゆくゆくは……」


 赤縫せきぬいはこちらの顔を蹴りあげようとハイキックを真っ先にくりだした。


 ちっ。話を聞かんやつや。


「今でも売れてるファイターの話は最後まで聞く耳もたへんか。面白い。でもな。許可証きょかしょうもたへんやつが俺へリング外で攻撃するのは規則違反きそくいはんやで!」


「よけれると思ったから攻撃した。それだけだ」


 たしかに油断ゆだんしたつもりはなかったから考えてはいるのか。

 SNSの使い方的に人気が出る選手ではないと思っていたから油断ゆだんはしていないがあなどる必要もないと馬鹿にしていた。


「せっかくだ。こんなところじゃ悪い意味で目立つ。命令は出てへんけど心霊スポットめぐりとして爆破ばくはされた消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしでケンカせえへんか?」


 鬼娑鍔らくしゃあさは待った方がいいと止めてくれた。

 でもこんなやつと戦うのならギャラリーがいない方がええやろ。


 そう耳打ちして作戦を変更した。

 赤縫せきぬいもその気だった。


「もうなくなった消滅可能性都市跡しょうめつかのうせいとしあとで戦ったって許可証きょかしょうは使えないだろ」


「まあそうやな。だから心霊スポットめぐりと言った。あの場所には何かおもろそうなネタありそうやからな」


 数は多い方がいい。

 それに赤縫せきぬいもケンカとはいえモラルは守っている。


 自分達の名誉めいよも暮らしもかかってるしな。

 おそらく封鎖ふうさされているだろうがあの場所へ一度は行ってみたい連中がここにはいる。


「じゃあ、ケンカの続きはあの爆破された場所で」


 なんだか消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしって言葉は便利やな。


 まるでこの世界が人が多い場所と少ない場所、または『誰もいない場所』で分割されているような。


 差別的さべつてきな感覚がする。

 そうだろう。


 おまえら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る