輪郭編最終回数値4 逃げ続けているうちにやがてたちむかう

 俺達は副業ふくぎょうといえば聞こえのいい厄介事やっかいごとをおしつけられた。


 消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしの始末を任されたのだ。


 リング上でどれだけの毎日にたちむかっても強さだけでは目立てず、乱立した格闘技団体でSNSや動画配信にスポンサーを集めて何かやらないといけない。


 そして。

 これだけやっても売れないし食えない。


 しかも俺達が任されている仕事もきなくはい。


 別のファイター沌光莉とばたり遠目とおきめ消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしへ向かって仕事を終えたあと、俺達ファイターに様々な情報が耳に入ることが増えた。


 沌光莉とばたりは仕事を終えたあとも試合を続け、誰から質問をされても一切答えないという。


 遠目とおきめさんは死んだとか言われているが本当なのだろうか。


 リングネーム・如月水飴いつつめみんと消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしでの仕事はまだ任されていないらしく、治安維持のために用意された許可証きょかしょうを持っていてもこんな管理体制かんりたいせいならない方がマシだった。


 だから俺達は許可証きょかしょうを持っていない。


 しかし。

 許可証きょかしょうを持っていなくても消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしに行かされる。


零牙れぬがくんのたのみだから来てみたけどなんだこの田舎いなか? いや、誰もいないしきりばっかだし」


 立華零牙たちばなれぬが・二十歳と高校三年生男子・限倍太刀鉄きりばたちかぜ遠目とおきめが消えたと言われた消滅可能性都市しょうかのうせいとしが仕事を任された。


「ここを爆破ばくはか。誰もいないからって」


 本当にきな臭いな。

 どんな人生も。




--消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしつ--




 立華零牙たちばなれぬがはとあるキックボクシング団体王者。

 階級かいきゅうについては明かさないらしい。


 もともと運動が好きな少年で曲がったことが大嫌い。


 こう聞くと昔のヒーロー気質きしつだと思われそうだから話題を変えることにしよう。


 この世界のありとあらゆる現実は誰かを好きに生かそうとしてはくれない。


 終わらない差別さべつと値上がる物価ぶっかに上昇し続ける温度。


 そしていつまでも昔からぬけだせない歳上と自分達。


「くそっ!」


 立華たちばなは誰にもみられない場所を確認して壁をなぐる。


 特に気晴らしにはならず、壁にあとを残す威力いりょくあたえられずただ痛みが残り血がにじむだけだった。


 誰も助けてくれないと分かっているのに資本主義しほんしゅぎに流されるため進学や就職をする。


 辛いと分かっていても立華たちばな自身もバイトはしている。


 ただ王者として戦い続ける以外になにか自分を満たしてくれるものは見つからなかった。


 それは夢なのか?

 愛なのか?


 今なら二つの問いに迷うことはなくなりつつある。


 せめて後輩の太刀鉄たちかぜには弱い部分を見せたくなかった。


「また悩んでますね」


 まじか。

 高校三年生に見せちゃいけないところを見せてしまったか。


太刀鉄たちかぜにはおみとおしか」


「たまたま見ただけで別に零牙れぬがくんが気をつかってくれたことに何も言うことなんてない」


 どこかで買ったのか太刀鉄たちかぜは袋を手渡してくれた。


「誰も信用してないかもしれないけど、俺は信頼しんらいしてほしい。軽く食ったらジムへむかおう」


 そういえば自分のことばかり考えるようになってしまったなあ。

 格闘技一本でいくか大学受験か専門へ行くか悩んでいるのは太刀鉄たちかぜもかかえているのに。


 それでもひとつ気になった。


「うたがってるわけじゃないんだ。ちょっと気になったことがあって。なぜこの場所を知っている?」


 とっくにバレていたのならなんの問題もない。

 ただここは二○二四年に見つけた穴場あなば

 スマホだとかヘッドフォンも全て外し、追跡ついせきされないようにしてきた。


 つけられた形跡けいせきもない。

 隠しカメラはさっきチェックした。


 なぜ太刀鉄たちかぜが俺の場所を。


「知らなかったんだ。零牙れぬがくん。ここは俺のなんだ」


 逃げ場?

 こんな都会の中で特に汚い場所で何もないのに?


皮肉ひにくじゃない。皮肉ひにくじゃないが零牙れぬがくんはいつもたちむかってばかりいるのに悩みが増える一方。だから俺はここでパルクールの特訓と許可証きょかしょうを使わない戦い方を研究していた」


 どうやら目のつけ所は似てしまっていたってことか。


「たまたま特訓しにきたら零牙れぬがくんがいて壁をなぐりはじめてびっくりしたよ。気の毒だったからはげましただけさ。厳重げんじゅうなセキュリティでストレスを解消していたから声をかけづらかった。でもこのままじゃ俺も特訓が出来ないから勇気を出すことにした。逃げ続けたいのに結局たちむかうことになったからね」


 ものすごく機嫌きげんが悪く聞こえるのはあえてなのだろう。


 許可証きょかしょう

 リング外でも人間から身を守るために使える上に報酬ほうしゅうがもらえるファイター用の資格。


 俺達は消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしに行かされないためと将来のことを考えて許可証きょかしょうを持っていなかった。


 なにかが起きれば自分達の身は自分で守らなければならない。


 そんなディストピアで。


「悪かった。本当に悪かった。太刀鉄たちかぜも自分の問題は自分で解決するようにきたえているってことを知ったか俺の悩みは別で解決させるよ」


 太刀鉄たちかぜは優しく立華たちばなの肩に手を置く。


「出来てないから壁にあたっているんでしょう? もうやめようぜ。今どき全部一人でかかえてかっこつけたり、逆に味方増やして現実逃避げんじつとうひとか。食って出して寝ればいいんだ。俺達有望株ゆうぼうかぶは」


 おいおい。

 別に有望株ゆうぼうかぶは関係ないだろ。

 イラついたままなのも良くないからここは彼の提案にのった。


「どこで覚えたんだ? そんなはげまし」


「いくら零牙れぬがくんでも教えないよ。さっき伝えたでしょ?」


 こうやって日常へとまた戻っていく。



--逃げるは恥でもなければ負けでもない。でも簡単じゃない--



 男子高校生ファイターにとって……いや、女子高生ファイターとそうか。


 もうやることは全て終わらせて格闘技の練習をしようとはならず、限倍太刀鉄きりばたちかぜはヤングケアラーとして過ごす一面もあった。


 先輩ファイターの立華零牙たちばなれぬが太刀鉄たちかぜの家庭に干渉かんしょうしないようにホームヘルパーか誰かを頼んでくれたおかげでなんとか大学進学は出来そうだ。


 残りの高校生活は別に甘酸あまずっぱい恋愛が待っているわけでもなく、リアリティショーみたいな女の子と一緒に過ごすわけもなく、太刀鉄たちかぜは別の高校で付き合っている彼女と将来をある程度ていどしゃべっていた。


「帰りぐらい送らせてくれてもいいじゃないか。やっぱ俺は二番手か三番手か」


 別に彼女が他と誰と付き合おうが今どきそんなこと気にしない。


 もう恋愛は楽しんだしあとは向こうから振られるのを待つだけ。


 太刀鉄たちかぜの彼女は少し現代視点げんだいしてんでも変わっていてやがて友人ですらなくなるかもしれない。


「ゲームでもするか」


 AIはなんか怖いからガキのころ楽しんでた今ではすっかり古いと言われている機種のゲームを部屋から引っ張り出すか。


 来年の四月には引っ越しているわけだし。


「プロになったら単位どうすっかなあ」


 先輩の立華たちばなときたえたトレーニングは太刀鉄たちかぜを国内ランカークラスまでみちびく強さをもたらした。


 おかげで高校生活は最後まで『現代怪力人間げんだいかいりきにんげん』と笑われるだけだ。


 スマホをしまって街を歩いていると誰かに追跡されている気配がする。


 太刀鉄たちかぜはわざと街の人気のない奥へ入ると誰かにかこまれた。


「あんたらひまだね」


 許可証きょかしょうがあったとしてもやばいタイプの人間は力づくでねらってくる。


許可証きょかしょう持ってないからねらいに来た連中じゃないか。なら逃げさせてもらう」


 太刀鉄たちかぜはファイターとしてランニングを練習する時に工夫くふうしたかった。


 足の速さに自信があったからかリングの上で使えないトレーニング成果せいかを他で使ってみたかった。


 さっきなぐってきた瞬間もカメラに撮ったしあとはこちら次第だ。


 逃げる。

 逃げる。


 逃げ続ける!


 ドラマでもそんな話があった。

 よく見てないから知らないけど受験にたちむかってリングで強者とたちむかってもいる男子高校生ならこれくらい逃げたってなんも恥ずかしくもない。


 前をさえぎられたらダイビング部に所属しょぞくしていた運動神経を使ってひねってジャンプすればいい。


「な、なんだこの身のこなしは?」


「あんたらにいいものみせてやるよ」


 先輩に見つかる前まで秘密の場所で特訓してたんだ。


 壁を蹴り、つかめるものをつたい、電線をヤカラ達に巻いて誰も逃がさない。


「先にやったのはあんたらだからな」


 スイッチ、オン!


「うぐあぎあああああああ!」


 理由は知らないけど相手が悪かったな。

 電気トラップで一網打尽いちもうだじん


「専門分野じゃないけどこの程度の工学スキルは取得済みでね」


 多数の幸せがあるらしいのに資格はそんなにいらない気がすると何度も拒否したのに。

 将来のために使える資格なんてほとんどないじゃないか。


 そうは思わないで取った資格の活かし方は応用しておいてよかった。


太刀鉄たちかぜくん。君がやったのか?」


 あれ?その声は。


如月いつつめさん? なんであんたが。住んでるところここじゃないだろ?」


 リングネーム・如月水飴きさらぎみんと

 三つ歳上の男性ムエタイファイター。

 関東とは違う都市に住んでるはずなのになぜ?


太刀鉄たちかぜくんを助けるために来たわけじゃない。むしろ嫌な頼みを君と零牙れぬがくんに押しつける形になるから少し迷っててね」


 太刀鉄たちかぜならあのトラブルを解決できると思ってここに立っていたのか、助けられなかっただけなのか。


「助ける助けないは置いておいて。許可証きょかしょう持ちのファイターが俺達になんの頼みがあるんですか?」


「そこで何が起きたか俺は知らない。でも君たちに損はさせない頼みだ」


 どんな内容なんだ?

 どうせろくでもないんだろう?

 決めつけないようにうたがっていた。


消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしについては知っているか?」


「聞いた事はある。女性の出生立しゅっしょうりつが下がって子供がいなくなり、だんだん人が減る場所のことだろ? 田舎者が上京するのは当然の話じゃ……ないか。あんたの前でそれを口にしたのは失礼」


「気がついているのか」


 この流れでそんな話題されたらたどり着く答えは一つだ。


許可証きょかしょう持ってない俺達が消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしへ行ったって何の役にも立ちませんよ。拒否させてもらう」


 別に如月いつつめと仲が悪いわけじゃない。

 許可証きょかしょうを持つ人間は基本信用していないだけだ。


 許可証きょかしょうを利用にファイターから一方的な暴力をふるう奴とも何度か俺達は逃げて戦った。


 工学スキルだって工業高校や高専こうせんの知り合いからファイトマネーをつぎ込んで正当防衛せいとうぼうえいと将来のために学んだものだ。


「俺達のような人間を信用してくれとは思っていない。ただ俺は消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしへの依頼は許可証きょかしょうを持っていても受けたことも断ったこともない。つまり団体からの命令めいれいじゃないんだ」


 ふうん。

 なら如月いつつめ自身の頼みか。


「わざわざ高校生の進路が落ち着く秋頃にねらってやってきたのもそのためか。何が目的だ?」


「君の工学スキルと格闘技を使ったパルクールでしか解決出来ない案件。だからこそ報酬ほうしゅうは約束する」


「教習も受けてる人間にいそがしいのは無しで」


「その心配はない」


 って立華たちばな先輩?

 そういえばグループは登録していたのか。

 立華先輩も彼と仲良くはないけど。


許可証きょかしょうのないファイターには間接的かんせつてきに頼みを入れるなんて。日本は消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしに対する問題を個人で解決させるのが好きらしいな」


 そう言われると腹が立つ。

 何にとは言わないけど。


「二人とも。話は最後まで聞いてくれ。俺の頼みは単なる私情しじょうだ。だからこそ……」


 もういい如月いつつめ

 合図があり、影から誰かが現れる。



 沌光莉八女系とばたりふぃいら!?

 そしてもう一人は?


「詳しい話はファイルにまとめておいた。もちろん紙だ。そんな難しいことじゃない」


 渡された資料に目を通すと衝撃的なことが書かれていた。


 ある消滅可能性都市しょうめつかのうせいとし爆破ばくはしてほしいと。


 こうして太刀鉄たちかぜと先輩立華たちばなは限られた時間内で遠目とおきめというファイターが担当していた誰もいない消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしを二人で爆破ばくはすることになった。



--全ての資格を役に立たせるために--



 ここまでに猶予ゆうよは持たせてもらった。

 教習も無事終わり、運転免許うんてんめんきょを手に入れたのも束の間。


 零牙れぬが先輩に乗せてもらって山道さんどうを通り、誰もいない霧ばかりの田舎いなかへやってきた。


 授業の単位に影響がない日程にっていを選ばせてもらったからかやや余裕があった。


「時間にうるさい日本人とは思えないくらい今回の依頼はゆるいね」


「仕事ともちがうし急ぎじゃないしな。その辺りは如月いつつめ選手も社会人だし現役ファイターだ。さあ、奥へ入るぞ」


 一人行方不明の許可証きょかしょう持ちがいる消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしなんて恐怖でしかない。


 いくらリングでは最強をきそう俺達でもこんなやべえ場所を爆破ばくはなんて。


「ヤンキーのいたずらではなくガチの爆破ばくはだ。そもそもよく工学スキルで資料通りのモノを作れたな」


零牙れぬがくんは俺のこと知らなすぎ。うそうそ。コンプラは守った方がいいよ」


「これは非合法だけどな」


 あるやかたへ向かうルートもちゃんと分かりやすく示されていて、食糧しょくりょうまで大量たいりょうにもらったのであとはモノを設置するだけ。


「こんなクソ遠い場所まで来たんだ。はやく終わらせよう」


 忙しいからな。

 こっちは。


 モノを設置したあとにやかたを出て二人で帰ろうとすると霧が何か形を変えて歩きだした。


「おいおい。ホラーかって」


許可証きょかしょう持ちのあの人らが俺達に頼んだのはこういう理由か」


 これは是非ぜひともカメラにおさめたかった。


 だってこれ心霊現象だろ?

 まさか消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしでしか出会えないなんてゲームじゃないか。


「俺達って現実世界に立ってるんだよな?」


「馬鹿野郎!太刀鉄たちかぜかまえろ!」


 人間相手なら逃げていた。

 でも素手を使えるって最高だ。


 迫ってくる幽霊ゆうれいらしき連中を二人でたちむかいながら次々と殴っては蹴り、打ち払う。


「そういえば如月いつつめ選手からもらってたっけ? 〝霧退治きりたいじの盛り塩〟」


 願掛がんかけかなんかかと思って気にしていなかったがこんな所で役に立つとは。

 行動に無駄がないぞあのファイターたち。

 もし階級かいきゅうが一緒になったら別団体だとしても警戒けいかいせねば。


 出口まで二人は幽霊ゆうれいに似たきり達と戦い続けた。


 逃げるのもいい。

 でもやっぱ向かってくる奴らとは正面でぶっ飛ばしたい!


 俺達の考えはいまここで動くことだけで一致いっちしていた。





 遠目償世とおきめさらしが死んだ場所はここか。


 八女系ふぃいら如月いつつめと共に遠目とおきめおとずれた消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしへ足をみ入れた。


立華たちばなくん達にまかせて良かったかもしれません」


如月いつつめたのみ方には感謝している。それと許可証きょかしょう持ちのくせに消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしを守るだとかなんとか言いやがって。それなのにここは爆破させるのか」


 自分達が所属しょぞくする団体の中では優等生ゆうとうせいファイターとうわさされているが腹の底が読めないやつだ。


遠目とおきめさんが沌光莉とばたりさんに回収かいしゅうされていたとは」


 死んではいないと思っていたらしいがまさかとは思っていなかったみたいだ。


 ざまあみろ。

 八女系ふぃいらは自分の前では可愛くない後輩の如月いつつめが驚く姿を表情にこそ出していないものの内心では混乱していると想像しながら心の中で笑顔になった。


「お前たち。俺の身勝手な頼みを受け入れてくれてありがとう」


 遠目償世とおきめさらしをビルから拾った時はフィクションでみるような力を手に入れて警戒けいかいしていた。


 そもそも交流があったわけでもなかったから。


「お礼を言うのは立華たちばなくん達へ。俺達はあなたが供養くようしてほしいと頼んできたきり達をたおすだけです」


 そう。

 さっさと切り上げねえとな!

 俺たちをねらう幽霊達をはらいに!


 遠目とおきめが説明がしづらい能力を使って一瞬いっしゅんで片付けてしまう。


 それでも現れては八女系ふぃいら達へ向かってくる。


「霧だけにキリがないか。だから爆破ばくはするってほんと極端きょくたん立華たちばな達が俺たちに気付いてうまくこの田舎を片付けてくれると助かるが」


「それは確実にありえません。あの二人は許可証きょかしょうを持っていないしくわしい事情を知らないはず。それに単位や仕事、練習に追われてさくっと終わらせると思いますよ」


 それはそれでいいか。

 遠目とおきめの力をみれば恐らく……。


「ま、別に許可証きょかしょう持ちでもきりはらってるだけだから規則は守れてるしストレス発散はっさんになるくらいにはいい相手だ」


 俺達だってはやく帰りたい。


 生きてもどれるかはさだかではないが。





 立華たちばな太刀鉄たちかぜきり一体化いったいかしている幽霊達をたおし、モノを爆破ばくはさせる準備を走りながらおこなう。


「まったく。試合や仕事以外で報酬ほうしゅうをもらうなんてクエストは現実で味わうものじゃないな」


零牙れぬがくんは考え方が古い。でも言いたいことは伝わってる」


 逃げる。

 逃げる。


 はらって、逃げて……まるで料理のように繰り返す。


 消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしを抜けてあらかじめ調べていた安全な場所へたどり着いた。


 帰るついでに如月いつつめ達を見つけた気がした。

 まさかここで戦ってる?


太刀鉄たちかぜ。もし如月いつつめ達も俺達を監視かんしするためにここへやってきていたらどうする?」


 太刀鉄たちかぜは多くは語らずだまったままスイッチを持つ。


無策むさくじゃないと思う。ここで死ぬ程度ていどのファイターなら俺達は彼らの対策しなくてすむし」


 そうだよな。

 人間の方が、怖い。


 迷いながらも時間はなくなっている。

 太刀鉄たちかぜはモノのスイッチをオンにし、消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしを終わらせた。



--輪郭編りんかくへんエピローグ--



 消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしとはいえ一つの町が消えたのにニュースにもならなかった。


 不自然なほどの情報統制じょうほうとうせい立華たちばな達はふるえる。


「特に後先考えなかった俺達も問題はある。でもあの依頼いらいってほとんど如月いつつめ選手の私的してきな内容だったのに」


 二人はただ許可証きょかしょうを持ってなくてよかったと安心するしかなかった。


「マジであの三人死んでたらどうしよう」


 太刀鉄たちかぜは新聞の切れ端を渡してきた。


「これスポーツ新聞? 格闘技に関してはボクシングしか取り扱わないメジャーな媒体ばいたいなんかにってな……」


 写真はなかったが文章で如月いつつめ沌光莉とばたりの活躍が小さく書かれていた。


「あの消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしに三人がいた気がしたのは俺の勘違かんちがいだったのか?」


 太刀鉄たちかぜは卒業式にむけてやることがあるとジムから帰宅した。


「はあ。誰をこれから信用すればいいのやら」


 一寸先は闇。

 立華たちばなはそう納得するしかなかった。





 自然な爆破ばくはだった。

 一時期人工地震じんこうじしん陰謀論いんぼうろんとして流行はやっていたがもしかしたら人間の技術は大自然と対等になってしまった可能性はあるのかもしれない。


 遠目とおきめがつつむベールによって沌光莉とばたり如月いつつめはワープしていた。


「何と契約したんだ?」


「いつか話す」


 如月いつつめはやれやれとため息をつく。


「思ったより活躍かつやくしてくれましたね。彼らにさりげなく依頼をすれば俺達の仕事も減るでしょう」


 報酬ほうしゅうを彼らに支払うことでメリットも大きくはないのだが。


「大都会だけ発展はってんさせる方針ほうしんなら目立たたない人間を使った方がいいって判断か。どいつもこいつもいけ好かねえ」


 八女系ふぃいらは地面に拳をつき、一人ではどうにもできない闇を悔しさとともに晴らす。


 力を持つ遠目とおきめは帰ろうと空間にとびらなのかエネルギーのかたまりを作る。


「俺達のコンプラも守れるんだ。怒りは試合でぶつけろ」


 理解が追いつかない現実はいつもつきまとうもの。


 仕方がない。

 三人は何一つ語ることなく扉へと入り、爆破した消滅可能性都市しょうめつかのうせいとしを後にした。


 これからも消えていくことがない現実を生きていく一人の人間として。



輪郭編りんかくへん 完】

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