数値.3 国の中も外も敵しかいなくて
日本のムエタイへの悪口を俺は許さなかった。
海外の友がいるからでも、ジムのメンツでもない。
俺は絶望していたんだと思う。
「こんな場所! はやく消えさってしまえ!」
目を覚ました時にはスマホの慣れないアラームに起こされていた。
「もうアラームに頼らなくても起きれるようになったのに」
疲れか。
またあの夢。
「君ならどう乗り越えた?」
競技も住む場所も違ったけど、同い年の友と一緒に笑った写真を見ながら今日も俺は仕事へと向かう。
--望みと
彼が簡単に死ぬとは思えない。
それ以外の情報を俺にふせているのか、それとも彼の死を先輩が悲しんでいるのか。
そんなわけがない。
人の心があるからこそ誰かの死に涙が出来ないあの人が話すことは全て
俺たちがやっている仕事を考えれば。
某都市で旅から帰った時、耳にした「
俺が今住んでいる場所以外は確実に人口が減る。
それは確定している。
出身者には悲しい現実だ。
俺も
前を歩けと成功者が語る道は近道も回り道も出来ないほどに整備されたつまらないレール。
「はっ!」
サンドバッグを強く殴る。
実際に人と戦う仕事をしていると何も正解がない世界を知る。
俺たちはいつか消滅するのだろうか。
周りが大学生活や社会人生活を送っている中で、
「くそっ!」
だとしたら本当にディストピアじゃないか。
俺たちは全く望んでない夢と現実を超えた先。勝ち取ろうとした世界を誰かに散らかされたまま
「あれ? 話しかけちゃだめだったか」
しまった。
話しかけられていたのか。
「ごめん。考えごとばかりしていて」
そして俺の
「
「質問が多い」
聞かれちゃまずかったかなと
「悪い。逆に質問するよ。その
「
なんだ。
こんな時代に心霊スポットか。
やっぱり女子高校生なんだなあ。
「副業うまくいってないんでしょう?」
「そこは反応しづらいよ」
「
突き止める価値があるかもしれない。
そんな恥ずかしいセリフは言えない。
「変な
「いないものを守ろうとするのは昔から人間が追い詰められた時によく考える
信じもしないし信じないわけもないか。
「まだ気にしてるの? 『俺たちの未来をうばった言葉だけの人間』から未来を取り返したいって?」
心霊スポットに関心がないのに話を聞いたら人の心のすきまへ入りこんでくる。
それでも彼女を
「
そういうことじゃないかもしれないな。
言ってみてそう感じた。
練習を終えた後に
あの場所が消滅可能性都市だったとは。
--消滅する未来と立ち向かう
誰もいないことを確認した俺は黒い
特に指示もないままかつて旅をしていた時に来た
「ついにここも人がいなくなるか」
もしかしたら思い出の場所が消えていくのを
「あれ? まさか……
この反応からすると知り合いか。
まいったな。
でも誰だ?
「ファイター続けるって聞いて安心しながら
今度は知り合いではなくて友達だった。
彼はアレッジ。
出身は海外で、どこの国かは教えられないが昔同じ学校で仲良くなった人だ。
「ここに
まあ
アレッジが海外の人間だなんて忘れていたくらいには彼の
だからこそこの場所で
「お前も黒い
しかも黒い
「俺はたまたま昔旅したこの場所が
アレッジは聞いちゃまずかったかなと言わんばかりに
「今ってさ、
「ある。話を
「待てって。俺がこの場所の黒い
間を置いたアレッジは不気味なイラストを差し出した。
「人間だろ? まさか霊だなんて言わないよな」
「その霊をあやつってる人間がいる。なんだっけ、他の国で言うエクソシスト。日本じゃ
俺が知らないうちにこの場所も様々な目的が入り組んでいるらしい。
「アレッジがここに
「お?ファイター
「いいんだ。これからアレッジは
「日本語で? まあ何でもかんでも英語や中国語に言いかえる必要もないし俺の
俺たちはすぐに黒い
アレッジには全ての秘密を守るように約束した。
二十歳も超えたからもう少し厳しくしようと思っていたけど、俺はまだまだ甘いのかもしれない。
*
まさか心霊スポットにまた行くことになるなんて。
そういえば心霊スポットで思い出した。
空手少年だった友と出会った時のことを。
中学生の時にムエタイの大会へ出てなんだか物足りなさを感じていた俺は他の刺激を求めて空手大会を観察していた。
「伝統的な競技は歴史もあいまって華があるなあ。俺も負けてられない!」
頭の中で浮かんだ言葉だったのにいつの間にかつぶやいてしまっていた。
そこで歳上の
身体付きを見れば誰がどれだけきたえていて、自分との力の差がどれくらいかはすぐに分かった。
そもそも相手は数も多くて逃げるしかなかった。
一般人をよそおって
人間は他の生き物とちがってたとえ
だから苦手なランニングできたえた
逃げすぎた。
これじゃ帰りがめんどうだ。
しかもこの建物ってどう考えてもずっと人がいないいわくしかなさそうな場所じゃないか。
あの歳上たちがここまで追ってくるわけない。
この時、俺はまだ人間の恐怖を知らなかった。
「その身体を見れば分かる。明らかに空手出身者じゃない」
「邪魔なんだよクソガキが!」
「大人しく元の競技に帰れ!」
俺は何もしていないのに顔も知らない歳上の男達からなぜこんな暗い場所ではさまれているんだ?
「俺は初めて空手大会を見に来たのにそこまで
床に落ちている物をバレないよう手にとって
この建物については歳上達がよく知っていたから。
「ちっ。もう死を覚悟しなきゃいけないか!」
夢中で逃げていても手放してなかった機械を使うか。
そう考えていた時に歳上の一人が目の前でたおれ、もう一人を押さえつけた。
誰だか知らないけどどさくさにまぎれて三人目を気絶させた。
「大丈夫か? って三人目やっつけたのか。君はすごいね」
おたがい普通のきたえ方をしていないのは感じとっていた。
余計なやり取りをしなくてすむからか俺と彼は
「誰がまたやられるのかと思ったら。空手じゃないのか」
「ありがとう。助けてくれて。でも俺は君が思ってるほど弱くない」
中学生だったから歳上の男子三人におそわれて助かった安心感もあってプライドを優先していた。
それでも彼は手をさしのべてくれた。
「三人にこんな心霊スポットまで追い詰められても恐怖心をおさえている。俺よりも歳下なのにたいした
「見た目でよく間違えられるけど、俺は中学生。君とそれほど変わらない」
それから彼がなぜ助けてくれたのかも説明してくれた。
今回使われた会場ではよくあることらしくて、見学に来た子供を心霊スポットまで追い詰めて心を折る人達がいるんだとか。
そこでたおれているけど。
「なんだ中学生か。しかも同い年。格闘好きには思えない目つきだったからリサーチにいやいや来ただけの子だと思っていたよ」
「俺がやっている競技は他の格闘技もやる必要が出てくるからさ。研究はちゃんとしないと」
「真面目な人だよ君は。俺も見習うとするか」
心霊スポットで中学生男子が人間におそわれて何を話しているんだ。
変なシチュエーションだったが助けてくれた彼の後ろに黒い気配がしたので俺はとっさに
「化け物ぉぉぉぉぉぉぉぉ」
とさけび夢中でみぞおちを攻撃した。
彼は
「
とさけびもう一つの黒い影をたおす。
「ってやべぇ! 霊だと思ったら
「ならちょうどいい。心霊スポットのせいにして逃げよう」
「君は
「そっちこそ。今のさけびを聞いて襲ってきた人達をたおす計画を立ててたんじゃないの?」
彼は苦笑いをしながらはぐらかし、一緒に逃げることになった。
彼は俺のことを知っていると思っていた。
心霊スポットのことも助けるタイミングも現実にしては出来すぎていたから。
それからしばらくして「
「俺は」
少し思い出しすぎた。
青春っていうのは補正っていうのかな?そういうものがかかってしまう。
簡単に黒い
ただし気になった点があった。
「調べていた女の子はただの人間じゃなさそうだ。もうつきとめられてるんじゃない?」
アレッジが女の子をそのまま
一応人間じゃない可能性があるのかどうかを確かめないと。
「残念ながら女の子は人間だ。でも情報は全くでない。女の子といっても女子中学生から女子高校生くらい。その子が黒い
それって本当に人なのかな。
「アレッジ。さっさと本題に入ってくれないかな?」
「本題ってなんだよ? 調査をする理由はもう話しただろう?」
「まさかとは思うけど〝
はったりのつもりだったのに女の子はどこからか森の中から現れた。
「もうこの世界には霊現象を信じる人間なんていないと思っていた。結界なんて漫画の見すぎ。言葉にはあえてしないけど。知ってる?森の
君が生きていたら見せたかったなあ。
歳下だけど本来の霊現象をあやつれる女性を。
*
アレッジは
そこへ手を貸してくれたのが黒い
名前は
なんでもアレッジが
アレッジはそこをやめて次の仕事を考えている時にえりかと出会ったらしい。
黒い
そもそもここでいう心霊スポットは昔とはちがってリフレッシュ目的として形を変えてるいるんだとか。
「彼女すげえんだよ。今まで日本人じゃない俺ですら霊現象だとか怪奇現象とか思っていたものを言葉を変えて
新しい
どうやら俺が
今の話だけを聞くと。
「少し無理がある話だ。もう心霊スポットじゃないのはわかったよ。俺がここへ来たのも急だったし。でも、二人は他で困ってることがあるんじゃない? 最初からその説明を俺に出来ないほどの」
心霊スポットの
いや、この二人が変えようとしている。
それなのに心霊スポットと呼ばれるのには理由があるはずだった。
「私が言うのも変なんだけど……出るんだよここ!」
ま、まあ見れば出ないことはないだろうとその場では言わなかった。
「アレッジさんからあなたのことを聞いていて。学生時代、
「話がはやいなあ。アレッジとは長い付き合いだから」
「それとプロファイターだってことも。最初は
それが今ってわけか。
上手い話だ。
もしアレッジと会う約束があったら黒い
たまたま
「俺が出来ることは少ないけど、解決してほしい話は何か教えてくれないか」
アレッジは女の子は息のあったコンビネーションで怪現象を話しはじめた。
黒い
高い金を払ってビジネスセミナーを学んでも現実は何も変わらず、二人で涙を流している時。
ひとりでに岩が
何度もカメラをしかけて調査をしても人やクマなどの生き物が来た
そこでアレッジは心霊スポット
さらに怪現象を見てここまでやってきた人を
「それも最近は上手くいってない。心霊スポット
「なら困ってないじゃないか。二人に
話はまだ続きがあった。
クマがなぜこの場所にやってこないのか。
そして地元の人間があまりこの場所に近づかないのか。
「
心霊スポット
投稿した映像にもアンチがあらわれクレームのあらし。
嫌がらせも数多く受けたらしい。
ただその嫌がらせも怪現象が攻撃してくれるから放置するしかない。
そして
「俺にも離れられない仕事がある。でも解決してほしいってこと?」
二人は俺に頭を下げた。
「俺がもし今日この
えりかも怪現象を新たな言葉に変えられる
もしかしたら格闘経験のある霊が
いや、発想が
ただいくつか二人が見せてくれた映像には
まさか……そんなはずはない!
*
今日は
もっともアレッジ達のアンチが急にやってくる可能性はある。
その前にわざと置いてある岩の数々が気になる壊され方をしていた。
映像を見ていた時から気になっていた。
岩の前で
俺が旅をしにこの地へやってきた時は知らなかった甘いものを。
集中力が少し切れかけた時に岩の方へ風が横切り、後ろの岩がくだける音がした。
「やはり!」
次の一撃は右から足技でやってくる!!
「君だったんだ。
ただの
すると
「お前だったか」
「お前……か。死んでまでコンプラを守ってくれるのか」
黒い
あとで二人に教えよう。
次の彼の攻撃は俺の顔を狙ってくる。
そう読んで右腕でガードした。
「な、なんだと! 俺の技を受け止める奴がいるだと!」
「
彼は死んでもまだ戦っていた。
もう何がきても
ってそんなの無理だ。
彼に関しては特に。
彼は空手技と喧嘩に近い技を組み合わせて俺と戦い続ける。
生きていれば相当な達人になっているほどの
だからこそ俺は彼に話しかけながら
「
なぜ彼がここで戦い続けている?
こうなったら最後まで付き合うつもりだった。
そもそも彼とは生きているうちに戦ってみたかったことが本音でもあった。
今彼と戦っているとしてもノーカンだ。
「コロナ
話して聞いてくれるのなら二人は苦労していないか。
理由を本当は聞きたくはない。
でも友として彼の声を聞いて戦いたかった。
プロファイターの道を選んだのも、空手家としての道を
彼があれから嫌がらせを受けた時は俺が彼を助け、俺が試合で負けて悔しかった時は
彼は何も俺に話すことはなく、ただ戦い続けた。
俺には見える。
彼が
「気がすむまでやろう。ありえなかったはずだった俺達の戦いを!」
森の中を
まるでリング上で
彼のやり場のない怒りと誰にも助けてもらえなかった悲しみを受けては俺も彼の攻撃を読み、前へ出る。
「はぁ……はぁ……はぁ……初めて会った時も心霊スポットだったよね。ここはもうじき心霊スポットじゃなくなるけどさ」
戦い始めてさらに二時間。
おたがいに一歩もひかない。
もう二度とあるか分からない戦い。
彼の姿が今ならはっきり見えた。
「腕は落ちてないか。やっぱり生きている人間は怖いな」
「
はっはっはっ。
「「
ある意味本音だった。
そういえば
戦いはまだまだ続いた。
どちらも引くことが出来なかった。
でも俺はこれ以上戦えない。
「お前にうらみはない」
「嘘ばっかり」
「「なら次の一撃で決める!」」
もう競技だか喧嘩だか分からなくなっていた。
霊になっても出てくるほどの
やっと受け止められる!
俺達の攻撃はおたがいの顔をフィクションみないに殴りあっていた。
そして倒れたのは
俺が彼をささえる。
「俺を止められるやつがお前だったとは」
「
そういえば生前もちゃんと話をした回数は少なかったかもしれない。
現実はいつだって残酷か。
「ここまで強いなんて」
えりかがアレッジと共に感心しながら近づいてきた。
「まさか怪現象の正体が友人だとは思わなかったよ」
アレッジはまさかと言いかけていた。
少しは彼にも
「霊なんて初めて見た」
「え?
「霊が見える人なんてもうこの世界にはいない。私はただ他に言葉がないから使ってるだけ」
それなのに
「あとあなたは……あなたたちは誰がなんと言おうと一番強い!」
「これは
死んだ後の道すら選ばせてもらえないか。
そんなことはさせない!
「えりか! 彼を俺の中へ
我ながら無茶を言ってしまった。
えりかは何も言わず、
アレッジも食料を運びながら俺達をサポートしてくれた。
「
俺達は目をつむりながら合体に近い
彼の記憶が俺に入り込む。
コロナ
俺の中で彼が見せる記憶にはそうあった。
本当はどうしたかったのか分からない。
相変わらず隠し事が上手い人だよ彼は。
目が覚めた後は俺の記憶は失われていなかった。
「あれ?
「つっこむのも分かるけど、今は休ませてほしい。ありがとうアレッジ、えりかさん」
意識は〝俺〟のままか。
何から何まで彼とは切っても切れない縁があったみたいだ。
「二人とも。この黒い
そのまま疲れた俺は土の上で倒れた。
--ふんわりとした
トレーナーとして仕事をしている時に会員さんからたまに聞かれることがある。
「空手もやってるんですか?」
そうか。
身体に
経験までは分けられない、か。
死んだ人間の分まで生きるなんて簡単じゃないな。
その事を聞かれる度に俺はこう返事している。
「昔助けてもらったからさ。空手の達人に」
アレッジとえりかさんならなんとか生きぬいてみせる。
だから俺も。
俺達も戦おう。
ふんわりとした
そう信じることで。
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