墓参り
「しっ!」
そんな僕との距離を一息で詰めてきたデュナミスは迷いなくこちらの首を狙って鉄扇を振るってくる。
「……ッ!?」
だが、そんな一振りは容易に止められる。
止めたのは僕じゃない。
「何だ、これはっ」
自分の影から伸びている一つの人とは思えぬ禍々しい形をした手だった。
「僕に仕える臣下たる悪魔の手だとも。健気だろう?僕の臣下は」
「……天ノ橋をッ!?」
自分の影から伸びる手は鉄扇を容易に握りつぶし、そのまま一気にデュナミスの方へと伸びていく。
「クソっ」
それから逃れるように後退していくデュナミスは逃げながらもその手を振るい、ほんのわずかに目で捉えることが出来る程度の粉を飛ばしてくる。
デュナミスの持つ呪骸はおそらく状態異常を引き起こすようなものなのだろう。
「……ちぃっ」
だが、残念なことに悪魔へと状態異常は効かない。
呪骸の効力を高めた天ノ橋による振るわれる状態異常を引き起こす桜の花であれば、もっとうまく効いたかもしれないが、再展開にも時間のかかる現状では無力である。
自分の影から伸びていく悪魔の腕から逃げていく。
そんな中で。
「下からもっ!?」
何もない床からも悪魔の腕が伸び、慌ててデュナミスは後ろへと逃げていく。
「このっ」
だが、その逃げた先にも悪魔の腕が伸び始めていた。
そんな腕へと捕まりそうになりながらも素早い身のこなしで回避してみせるデュナミスだが。
「……ふざけやがって」
すぐに今まさに降りたった地面からも新しく悪魔の腕が伸びてくる。
「まだまだこれから」
徐々に。
『我らの王が目覚めたっ!』
『我らの王が目覚めたっ!』
『我らの王が目覚めたっ!』
これまで僕の中で眠り続けていた悪魔が起き始め、自分の中から湧き上がってくる力がどんどんと膨れ上がっていく。
この場に響くのは僕の中にある悪魔たちの喝采である。
高らかに響いていく、どんどんと大きくなっていく何処からか響いてくる悪魔たちの声。
「まだ上がるのか……っ!」
そして、それに伴って逃げ惑うデュナミスを悪魔たちの動きも早くなっていく。
『『『我らの力を見よっ!王に仕えし我らを見よっ!』』』
四方八方。
床から、天井から、壁から、多くの場所より悪魔の腕が伸びてきてデュナミスの方へと伸びていく。
もはや、デュナミスがこのまま逃げ惑い続けることは不可能になったと言っていい。
既にもう彼を追い詰めるための包囲網は完成されつつあった。
「クソがぁぁぁぁぁぁぁアアアアアアアアアっ!」
そんな中で、意を決したのか。
デュナミスは何処からか、先ほどは僕の動きを止められていた杭を取り出してこちらの方に突っ込んでくる。
「無駄なあがきだ」
真っすぐに僕の方へと近づいてきたデュナミスを迎え撃つのは自分の前から飛び出していった巨大な腕である。
「クソっ!?」
直進する自分の前に突然現れた巨大な腕を避けることなど、この世の誰であっても不可能だ。
ルータであっても転移が間に合わないだろう。
人類最強が避けられないそれを、デュナミスが避けられるはずもない。
「あぁぁぁぁぁああああああああああっ!?」
とうとう巨大な腕に捕まれたデュナミスはその体を潰されながら、天井にまで持ち上げられていく。
「これで終わりだ」
この場からデュナミスが打てる手などない。
僕は一切の容赦なく彼を捻りつぶすよう悪魔に命令を下す。
「化け物め……っ!」
そんな中で、デュナミスは苦悶に満ちた表情を浮かべながら、こちらへと言葉を吐き捨ててくる。
「じゃないと、人類の希望になれないでしょ?」
その言葉に僕が答えた瞬間、悪魔の腕がデュナミスの体を潰す。
「もういいよ」
悪魔の腕が消え、後に残ったのは真っ赤な液体へと変貌したデュナミスの体と、ただ唯一残された彼の首だけだった。
地面へと落ちていったデュナミスの首は転がり、そして、そのまま先に転がっていたシアーの首に軽く衝突して、そこで止まった。
「……そう」
これで、終わった。
ガクとアンシアと結んだ約束は守ることが出来た。
「ふぅー」
その事実を前にして自分の肩から力を抜き、また、自分の目が黒髪に隠れていく中で。
僕は心の底から安堵のため息を漏らすのだった。
……。
…………。
そんな争い。
自分の真なる力を受け入れて圧倒的な力を見せて勝利を掴んだロワの戦い。
「……良く、向き合ったね」
そんな戦いを自身の次元を一つ上げることで、ロワから感知されないように眺めていたルータは自分の思惑通り、仲間の為に戦うことを決めたロワの姿を見て優し気な笑みを浮かべていた。
まるで、親のように。
異界が眠りし王の~底辺の引きこもり少年は周りを見返しながら成り上がっていくらしいですよ?~ リヒト @ninnjyasuraimu
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