第3話 解放
夜が明ける頃、彼女はふと目を覚ました。ボレロの音楽に浸り、夜ごと踊り続ける生活がいつの間にか習慣となり、肉体も精神も限界に達していることを感じていた。けれど、その狂おしいほどの解放感と引き換えに、彼女の心は以前とは違う場所にたどり着いていた。
「私は何を求めていたんだろう?」
彼女は問いかけた。心の奥底から湧き上がってきた踊りたいという衝動、その原因も理由も知らず、ただボレロのリズムに身を委ねてきた。そして、音楽に合わせて自分を解放することで、抑え込んでいた感情や失われた自己を取り戻してきたように感じていた。けれど、踊りに没頭するほどに、現実との距離は広がっていくばかりだった。
その日、彼女はいつもと違う決断をした。ボレロをかけず、静かな部屋でじっと座り、自分自身と向き合うことにした。頭の中に残るリズムを静かに感じながら、彼女はゆっくりと呼吸を整えた。これまで音楽と踊りの中でしか感じられなかったものを、今、自分自身の中で見つけたいと願っていた。
ボレロの音楽がなくても、彼女の心にはまだそのリズムが残っていた。踊り狂うような衝動や解放感が、今は静かに彼女の内側で脈打っている。まるで自分の体の奥深くに、その音が生き続けているかのようだった。そしてそのリズムに耳を傾けるうちに、彼女は気づいた。自分が求めていたのは、単なる解放ではなく、もっと深い「自己との対話」だったのだと。
日が昇る中、彼女は立ち上がり、初めての微笑みを浮かべた。ボレロに導かれた夜の踊りは、もう必要なくなっていた。彼女の内なるボレロは、すでに自分の一部となって息づいている。もう音楽に頼らずとも、彼女は自分自身を感じることができるようになっていた。
それから、彼女は穏やかな心で日常に戻っていった。ボレロと出会い、踊り狂った夜々が、彼女に新しい自分を見せてくれた。音楽にすべてを捧げた時間は、彼女にとってかけがえのないものであり、もう後悔もない。
ボレロの旋律が、彼女の中でいつまでも響き続ける限り、彼女は自分自身と共に生き続けることができるだろう。
ボレロっ娘 星咲 紗和(ほしざき さわ) @bosanezaki92
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます