第2話 狂気の舞

次の日も、彼女はボレロに引き寄せられるように音楽を再生した。まるで魂を浄化する儀式のように、彼女は体を揺らし、昨日と同じ熱に身を委ねて踊り始めた。昼間はいつもと変わらぬ日常を過ごし、夜になるとボレロとともに別の自分へと変わっていく。気づけば、この踊りが彼女の唯一の解放の時間になっていた。


夜が訪れると、ボレロの音楽と共に始まる踊りは、徐々に狂気を帯びたものへと変わっていった。音楽が始まると、彼女はすべての感覚が音に集中し、周りの世界がぼやけていくのを感じた。踊り続ける中で、彼女の意識はぼんやりとし、体がまるで他人のものになったかのようだった。


ボレロのリズムが高まるにつれ、彼女の体は制御を失い、全身で音楽を感じようと手足を激しく動かし、床を踏み鳴らしていく。壁に映る彼女の影が揺れ、狂おしいほどの踊りが繰り返される。その姿はまるで、彼女の内側に潜んでいたもう一人の自分が表に現れたかのようだった。


彼女の友人や家族も、この変化に気づき始めていた。疲れた様子の彼女が、夜になると急に元気を取り戻し、部屋にこもって踊り狂うことを不安に思い、心配そうに声をかけるが、彼女は微笑みながら「大丈夫」と答えるだけだった。誰も彼女の心の奥底で何が起きているか、知ることはできなかった。


夜ごとに踊りは激しく、熱くなっていった。彼女はこのボレロの旋律の中で、どんどん自分が変わっていくのを感じた。音楽と踊りに没頭する時間が長くなるほど、日中の自分がますます遠くに感じられる。彼女は次第に、自分がこの踊りなしでは満たされなくなっていることに気づき始めた。


ある夜、ボレロが最高潮に達した瞬間、彼女は思わず叫び声を上げ、全身を解放するかのように踊り狂った。涙が止まらず、笑いがこぼれ、すべての感情が渦巻いて彼女を支配していった。踊ることによって解放される痛み、喜び、悲しみ…そのすべてが一つになって彼女を包み込んだ。


ボレロの終わりとともに、彼女は床に崩れ落ちた。全身が疲れ果て、体の中には空虚感が残るばかりだった。それでも彼女は微笑んでいた。この狂気じみた踊りが、彼女の何かを救っていることに確信を持っていたのだ。


次第に、彼女は「このまま踊り続けたら、自分はどうなるのだろう」と思い始めていた。

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