ボレロっ娘
星咲 紗和(ほしざき さわ)
第1話 目覚め
夜の静かな部屋に響くのは、薄暗いランプの下で流れる一曲のボレロだった。何の気なしに再生されたそのリズムは、彼女の心をまるで魔法のように捕らえた。初めはただの気まぐれだった。気持ちを落ち着けようとつけたラジオから、流れる音に耳を傾けただけだったのに。
音楽は彼女の胸をゆっくりと満たしていく。不思議な感覚が体の奥から湧き上がり、指先が自然と拍を刻み始める。次第に体が動き出し、気がつけば彼女は両足をリズムに任せていた。
「こんな気持ち、いつぶりだろう…」
そう呟いた瞬間、足は止まらなくなった。音楽がリズムを刻むたびに、体の奥底で何かが揺れ、じわじわと解放されていく。踊ることに夢中になるうちに、彼女は自分がどれほど日常に縛られ、心の動きを封じ込めてきたかに気付く。
ボレロの音楽は、彼女を新しい世界へと導いていくかのようだった。静かに、しかし確かに、心が解放されていくのがわかる。音楽に合わせて体を揺らすことで、心の奥にしまっていた感情や抑圧が一つずつ溶け出し、自由になっていくような感覚。
夜が更け、ボレロが繰り返されるたびに、彼女の踊りは次第に激しさを増していく。最初は戸惑いと小さな喜びだったものが、やがて圧倒的な情熱へと変わり始めていた。まるで音楽が彼女の心の奥底に隠された扉を叩き、開放へと導いているかのようだった。
やがて、彼女は踊りながら涙を流していた。それが何の涙かは自分でもわからなかったが、ただ一つ確かなことがあった。自分は、ボレロと出会い、自分自身を取り戻し始めたのだということ。
そうして彼女は、ボレロの音楽にすべてを捧げるように踊り続けた。
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