WASHTHELAUNDRIES

宇鳥みこ

wash the laundries

「ニュース【モーニングシックス】の時間です。最近は季節外れの穏やかな天気が続いていましたが、本日夕方から寒気が南下、積乱雲の発達による急激な天気の変化が予想され…………」



「だってさ。今日は買い物早く行った方がいいよ。」


「そうね。でも今日は忙しいし…ハンナ、行ってきてくれるかしら」


「えー…まあいいけど。」


「今はまだ早いけど、八時間後にはお店もやってると思うから、そのくらいにお願いね。」


「わかった」


「寄り道はしないでよ?天気悪いんだから。」


「わかってるって。すぐ帰るよ。」


「こんな日の夜に外を出歩くなんて、死にたがりがすることよ。だって…」






ハンナはハシゴをのぼり、天井の扉を開ける。

地上にあがり、服に着いた砂埃をパラパラと払う。

ふう、と息を吐くハンナの目には、砂漠と、空と、水平線のみが入ってくる。







「だって、地上はとっても危ないもの。」







「ハンナ!遅れてごめん!」


砂の下から出てきたのはハンナの友人、アリス。


「私も今出てきたとこだよ」


「早く行こ!」




二人の行った先にはいくつかのトラックが並んでいた。この街ではトラックに商品を乗せ、移動しながら物を売り買いするのが主流である。トラックの中をオフィスとして使うこともある。


今日ハンナたちの街にはスーパームーブ、cgarbbage、consumablesなどと店名の書かれた装飾がなされている。


スーパームーブにて

「あら〜ハンナちゃんにアリスちゃん!見ない間に大人びちゃって〜」


「前会ってから一週間も立ってないでしょー」

「今日は何時までやるんですか?」


「今日はあと二時間くらいで帰るよ。あんた達もまっすぐ家帰りなさいよ」


「ふと考えてみると、長距離運転して、商品広げてを繰り返すって凄く大変な商売ですよね。おばさんは、なんでこの仕事をやるんですか?」


「それは単純。お金稼げるからよ。こんな更地で、大きなスーパーなんて建てられっこないところに、近くて便利な移動するトラックのお店。需要が高いからね。」


おばさんはにやりと笑った。




consumablesにて


このトラックには住宅のチラシが貼ってあった。


「見て。この家!四階建てだって!」


「珍しいね!私の家二階しかないよ。」


「でも、アリスの家には立派な地下車庫があるじゃん。」


「それを言うなら!ハンナの家のエレベーター羨ましいなぁー!」




「はいはい、近づかないで。動くよ」


consumablesのおじさんはトラックを片付けて帰ってしまった。


他のトラックも続々と帰り、残ったのはcgarbbageと書かれた見慣れないお店だった。




「あのトラックは帰らないのかな…」


「すぐ帰るから大丈夫だよ、天気予報くらい見てるはずでしょ。」


「そうだよね…」







「……あ!忘れてた!」


「どうしたの、アリス?」


「卵切らしてるから買ってきてって言われたんだった!」


「卵かあ…あの残ってたスーパーにあるかもしれない、急ごうか!」






cgarbbageにて


「……」


「……あ、ありがとうございます…」


「ここに売ってるのは一度『洗われた』もの…俺もその一人さ、だから俺は片腕と片足が無い…洗うっても、綺麗にはなってねえな。もう一度『洗え』ば、綺麗になるんじゃないかと思ってここで待ってる訳だが……」


そこにいた怪しい雰囲気のおじさんはアリスに何かよく分からないことを言ってきた。片腕片足ないと言うが、彼は穴から顔を覗かせるだけでよく分からなかった。



「アリスー!買えたー?早く帰るよー!」


「うんー!」




ついに二人は帰路に着いた


「もう人の気配全然ないね。私達も早く帰らないと。」


「さっきのトラック、まだいるけど大丈夫かな?」


「大丈夫だよ。そのうち帰るって。」


「あの人なんか洗うとか洗われたとか言ってたんだよね…しかも片腕片足ないって。」


アリスのその言葉にハンナは酷く驚いた。


「洗う…!?もしかしてそれって今日の話じゃない?その卵も!」


「ど…どういうこと?」


「アリス!!!」








ハンナと別れ、アリスは家に着いた。



「ただいま!」


「おかえりー。そろそろご飯できるよ。卵買った?」


「ごめん!忘れちゃった…無くても大丈夫?」


「仕方ないね。彩りが寂しくなるけど。」





アリスが買った卵は地面に捨てられていた。



突然、天気が悪化、雨や風が吹き荒れ始めた。




アリス家家族四人は椅子に座り、ご飯を食べ始める

「いただきます!」


父母兄妹の四人は幸せそうに食卓を囲む。妹は少々…元気がないようだ。



ハンナ家二人も夕飯の時間だ

「いただきまーす」


父を災害で亡くした彼女らは、二人で逞しく生活している。



一方、cgarbbageと書かれたトラックは、昼頃居た場所から微動だにしていなかった。



そして、朝の予報通り、大きな竜巻が現れた。砂やゴミを巻き上げ、凄まじいエネルギーを生み出した。


竜巻はあの、怪しいおじさんを載せたトラック丸ごと飲み込み、グシャグシャと砕いた。





アリスは夕食も終わり、布団に入っていた。



(気のせいだったらいいけど…本当だったら気味が悪い)







ーーーー


あの時ハンナはこう言った。


「あのおじさんと、売ってるものは全部、竜巻にやられてるんだよ!よく見て!その卵少し変!『洗う』って言ってたんでしょ!?竜巻に襲われたってことだよ!洗濯と一緒、『回転して洗われた』んだ!」



卵は確かに変色したり、割れたりしていた。普通なら少し品質が悪い思うだけだろうが、ハンナに言われると確かに、禍々しい雰囲気を感じる気がした。



そして、心当たりがあった。



「あ…ニュースで見たことある…潰れた鶏肉を売ったり、死んだ鶏から卵を盗…」


「早く捨てなさい!!」


ーーーー




竜巻は去り、朝と同じように、砂漠、空、水平線のみが、そこに存在していた。


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