第6話 私の大切な人(ナオレール視点)
ん、もう。
あの人が来たらすぐに伝えてくれるって約束だったのに……。
実際には随分と時間が経ってからだった。
まあ、色々とルーズなところがあるから仕方ないわね。
それで、あの人がいるという場所は私とはお互いに不干渉とすることになっているサッカルの町。
まあ、この際そんな約束は無視することにする。
こちらの方がずっと大事だから仕方ない。
そして現場に行ってみれば、なぜかあの人は死にかけてるし。
しかも黒猫の姿をしていた。すぐにあの人だというのは分かったけど。
でもまあ良かった。
何はともあれ、こうやって保護することができたのだから。
全身の毛を逆立てて目をまん丸にして私を見上げる双滋郎さんを見下ろす。
出会ったその日にまたお別れということになったら悔やんでも悔やみきれない。
猫ちゃんなのは私の計画には障害よね。前世と逆なんて。
でも、とりあえずは疑問を解消してあげないといけないかしら。
「魔女ですもの、それぐらいのことは分かるわ」
名前を知っていたことに対する私の説明に、爆発したようになっていた毛が少しは落ちついた。
手を伸ばして撫でつけてやる。
まん丸お目目が細くなったが、今度は少し不安そうになった。
「どうして助けてくれたの? そんな顔をしているわね。それは優秀な使い魔が欲しかったからよ。あなた、猫としてはかなり賢いでしょ。そういう子が欲しかったの」
本当は他に目的があるんだけど、話せない約束なのよね。
こっちの約束は簡単に破るわけにはいかない。
まあ、明かしたところで事態が進展するものでもないから無理に話す必要もなかった。
双滋郎さんは納得したように緊張を解いたので両手で抱え上げる。
目の高さまで持ち上げるとお腹に顔を埋めてみた。
思い切り息を吸い込む。
はああ。
なるほどね。
疲れた顔をした双滋郎さんが以前の私によくやっていた猫吸い。
やみつきになるのも分かる気がした。
私も少しは役に立てていたんだ。
ほんのちょっとだけ安心する。
でも、まだまだ。
これからもっと恩返しするんだから。
まあ、それはそれとしてときどき猫吸いはさせてもらおう。
顔を離すと双滋郎さんはなんともいえない顔をしていた。
そりゃそうよね。最初は驚くもの。
視線を下げると小さなモノが目に入った。
性別までは変わってないのね。
そこの手間は省けて良かったわ。
視線を双滋郎さんの顔に戻すと何かを凝視している。
ははん。
姿は猫でも中味は人間のオスなんだから。
でも、今の私の容姿に惹きつけることができたことに満足する。
いたずら心を起こして双滋郎さんを胸に抱え込んだ。
布地越しに暖かさが胸にじんわりと広がる。
ということはつまり、双滋郎さんにも私の乳房の感触が伝わっているということだ。
不干渉の協約を結ぶ前、サッカルの町に住む若い人間の番を拉致して目の前で交尾させ観察したことがある。
その結果、人間のオスはメスの乳房が大好きということを私は学んでいた。
こういうことは書物ではなかなか学べないので苦労をしたが、今ではリアルな人間の趣味嗜好を理解しているつもりである。
「ふにゃあ?」
情けない鳴き声が私の胸郭に響いた。
ふふふ。
効いてる、効いてる。
体は猫だけど心は人間だものね。
双滋郎さんを体から離すと目を白黒させていた。
前世のことだけど、裸の男女が絡み合う動く絵を見ながら、しみじみと羨ましいと言っていたものね。
ちょっとからかっちゃおうかなあ。
「あら、双滋郎さん。どこか具合が悪いの?」
「うにゃ」
「言葉が喋れないのは不便ねえ。じゃあ、『はい』の時は首を縦に振って」
その動作をやってみせた。
「それで『いいえ』のときは横」
双滋郎さんは前脚の付け根のところを私に支えられた状態で、顔を左右に動かす。
「じゃあ、何で様子が変だったのかしら? ひょっとして、乳房に挟まれて嬉しかった?」
力一杯首を横に振った。
あらあら。嘘をついちゃって。
トゲトゲつきのピンクの突起がそそり立っていて丸わかりなんだけどな。
これ以上追及するのはやめておきましょう。
観察して知ったのたけど、人間のオスってデリケートだからすぐ生殖不能になっちゃうものね。
双滋郎さんを床に降ろす。
「それじゃ、小屋の中を案内するわ。ついてきて」
こうして、私と双滋郎さんの2回目の同棲が始まった。
にゃにゃにゃ転生 新巻へもん @shakesama
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