2-2 リジェルとモニカ、あとヘイエルも

「リジェ、おまえはどうおもっているんだ?」


 ほほをさすりながら、ヘイエルはもっと信頼しんらいする双子ふたごいもうとく。


「なんのこと?」

さきほどの閣議かくぎだ。魔界まかいからの書簡しょかんへの対応たいおうなにかしら方策ほうさくがあるんじゃないのか? さっきのかたからすると」

「ほうさく?」

「ああ」

「……豊作ほうさくといえば、今年ことしのイチゴはあまいっていたなあ。シェフがなんか、特性とくせいスイーツつくってくれるって。たのしみだよね」

「何をいっている?」


 リジェルは生返事なまへんじ

 モニカとあそぶことにいそがしそうだ。


「リジェ、聞いてるのか?」

「聞いてるよん」

「だったら……」

むずかしいはなしはパス」

「おいおい」

理由りゆうにいさまが一番いちばんかってるはずだけど?」


 すげない妹に、ヘイエルの眉間みけんにしわがる。


「おまえが神託しんたく巫女みこであるかぎりは、か?」

「そ。わたしは政治せいじ口出くちだししません。てか、出来できません」

「そうだったな、すまん」

いまさらですけど。わたしはかみさま? の言葉ことばあずかってそれをつたえるだけです」

「それでなければ、おまえは神の言葉を都合つごうのいいように解釈かいしゃくしてくに支配しはいすることさえ出来る、だな」

「それを実際じっさいやるかどうかはともかくとして、そう見られないためにも、政治には一切いっさい参加さんかしないし、ご神託の解釈かいしゃくもしない。そのために大神官だいしんかんなんて、たいそうご立派りっぱ名誉職めいよしょく、わたしにあたえてくれたのは兄さまじゃなかったでしたっけ?」


 リジェルはヘイエルをず、モニカの相手あいてをしつづけている。


 「そうだ、そのとおりだ。すまん」


 あたまをかいたヘイエルは素直すなおあやまった。

 リジェルはまだヘイエルのほうを見ない。


王位継承権おういけいしょうけん放棄ほうき! と、それは出来なかったけど」

「そこまでかんがえていたのか?!」


 おどろくヘイエルにも、リジェルは平然へいぜんとしたものである。


「兄さまが元気げんきでいるなら、わたしは厄介やっかいごとにはかかわりたくないわけ」

「厄介って、おまえ、国のことを」

「てか、わたし厄介と思っているひともいるでしょ」

「それは……」

「だから、わたしは政治からはとおざかります。それは理解りかいしてくれてるんでしょ? なのに、こまったら前言撤回げんげんてっかいはないんじゃなぁい?」


 リジェルはモニカをげ、やっとあにった。屈託くったくなくほほむが、それがまたはなしているようでつめたい。


「つ・ま・り」

「ちゅまりぃ」

むずかしいことは全部ぜんぶ、兄さまに丸投まるなげ~」

「まりゅなげ~」


 リジェルはモニカとほっぺをあわせ、姉妹しまいで兄をからかう。

 さすがにヘイエルはにがかおである。


「といってもさ、それはあくまで公的こうてきはなし。プライベート、兄妹きょうだい内輪うちわの話ってなら、それもお題目だいもくぎないっておもうわけ」

「わけぇ!」

「ねえぇ」


 真似まねっこモニカにわらいかけつつ、リジェルはあっさりしたものである。


「ここにはいま、わたしたちだけしかいないっしょ?」

「モニカと、にいたまと、ねえたまだけでつ!」

「そそ。立場たちばきにして、ちょっと相談そうだんってくらいなら、もうちょっとらくにしなよ、兄さま」

「にいたま、わらってほしいのでつ!」

「しかめっつらされてもねえ」

「むづかしいおしてるとハゲるのでつ!」

「お、モニカもいうねえ? だれからそんなこと聞いたのかなあ」

「ねえたまでつ!」

「わたしかあ」


 どこまで本気ほんきなのだか、この飄々ひょうひょうとした大神官さまは。

 ヘイエルの顔もやっとゆるんだ。


「にいたま、だっこ、だっこ!」

「うぅん? ああ」


 リジェルからうつってこようとするモニカを、ヘイエルはむかれた。


「リジェ、モニカ、ありがとう」

「なんで、ありがとうでつか?」


 モニカのいに、ヘイエルよりもさきにリジェルはいう。


「兄さまはねえ、けっきょく妹が、わたしたちがかわいくて仕方しかたないのよ」

「そ……!」

ちがわなくは、ないよねえ」


 兄はやはり、妹にはかなわないのである。


「じゃ、モニカ、あっちで絵本えほんでもんでて」

「なんで! モニカ、じゃまものにするでつか!」

「じっさい、邪魔じゃまだしぃ。兄さまと大事だいじな話するから」

「いじわるねえたま、きらいでつ!」

「あらぁ、きらわれちゃったぁ」

「プンプン! なのでつ!」

ねるな、拗ねるな!」

「キャハハハ! くすぐったって、ごまかされないのでつ!」

「ま、いいじゃん。あとから兄さまがあそんでくれるからさ」

「ほんとでつか!」

「やくそく、やくそくぅ」

「やったぁ! じゃあ、ケルスと絵本よんでるでつ! いいにしているのでつ!」


 途端とたん上機嫌じょうきげんなモニカである。

 ヘイエルがモニカをおろせば、テテテと、モニカはおとなしくケルスがそべる部屋へやすみへと向かった。


「兄さま、向こうでお話ししましょうか」


 バルコニーにめんしたおおきなまど

 窓際まどぎわかれた猫脚ねこあししろいティーテーブル。


 あおそらからさわやかにかぜはいってくる。さすがにバルコニーそとで話というわけにはいかない。王位継承けんつ兄妹の会話かいわを見られるのはなにかとはばかられる。疑念ぎねんまねかないためにも極力きょくりょくおもてでの会話はけたほうがいい。王家おうけにプライベートなど、あってないようなものなのだ。


 テーブルのうえには白磁はくじのティーセット。

 さき椅子いす腰掛こしかけ、リジェルは手慣てなれたしぐさで紅茶こうちゃふたつのカップにそそぐ。

 向かいにヘイエルも腰掛けた。

 リジェルはすらりとながあしみ、たおやかなでカップを薔薇ばらのくちびるにはこんだ。

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2024年12月12日 15:10
2024年12月13日 15:10

モニカとおともだち、なかよくできるかな? ~幼女は今日も元気です! 千年戦争終結に大人は右往左往も、溺愛されて変わらず暴走、爆走! 果ては逃走!?~ @t-Arigatou

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