第2話 プライベートルーム

2-1 リジェルとヘイエル、あとモニカも

 和平協議わへいきょうぎおうじるかいなか。


 紛糾ふんきゅうした円卓えんたく閣議かくぎも、かわいらしい闖入者ちんにゅうしゃにより中断ちゅうだんとなった。

 結論けつろんにほどとお平行線へいこうせん議論ぎろんほど徒労感とろうかんはきつい。閣僚かくりょう各々おのおの官庁かんちょうもどり、休憩きゅうけいもそこそこに、穏健派おんけんは強硬派きょうこうは、それぞれ連絡れんらくい、事務方じむかたとも相談そうだんかさねることだろう。


 議場ぎじょう最後さいごたのは、ヘイエル、リジェル、モニカの三兄妹さんきょうだいであった。


 先導せんどうするのはリジェルである。

 あにヘイエルはさすがにバツがわるい。颯爽さっそうあるいもうとについていくだけだ。

 モニカはなにかっていない。大好だいすきな兄とあねはさまれ、キャッキャとたのしそうである。


「兄さま、モニカ、こちらへ」


 リジェルがみちびいたのは兄妹のプライベートルームである。そこにあるものといえばモニカのおもちゃばかり。実質じっしつ、モニカのあそである。

 静々しずしずしたがっていたメイドは、ティーセットをテーブルにいて一礼いちれいし、退出たいしゅつした。とびらめられれば、部屋へやには兄妹3にんと、いつのにかついてきていたモニカのおともいぬのケルスだけである。


 リジェルがかえった。

 シャムねこのようなすましがおである。

 ニコリとむ。

 られてヘイエルも……。


「な・に・が、おかしいのかしら? に・い・さまぁ~!」


 勇者ゆうしゃヘイエルさえあとずさる。

 るリジェルの迫力はくりょくに。


 兄は妹にてないものなのである!


「な、何をおこっている?」

「とぼけないでくださるかしらぁ?」

「こわい、こわい。その上品じょうひん口調くちょうがこわい」

「あぁら、ごめんあそばせ。でも、だぁれがわるいのかしらぁ~」

「分かった、分かったから、それはやめてくれ。気色悪きしょくわるい。何か背中せなかがぞくぞくする」

「フッ……」


 冷笑れいしょう。のち、リジェルは一気いっきに。


似合にあってなくてわるぅございました!」


 聖女せいじょとも羨望せんぼうされる乙女おとめはそこにはいない。

 猫をいだ大神官だいしんかんさまであった。


「まあったく。議場ぎじょうにモニカをれてくるなんて、どういうつもりなわけ?」

「いや、な。おれはな、ダメだといったんだ、けどな……」

「けどもナンもないわけ! ダメ、イヤ、じゃあしょうがないなあ、って、デレデレ兄バカさらしてどうすんの! しめしがつかないでしょうが!」

てきたようにいうなあ」

「いつものことだからでしょ!」

「ハハハ……」

わらってごまかすな!」


 兄には容赦ようしゃない妹である。


「わたしの見せられるしぃ」

「なんだ? やはりおまえ、タイミングをはかっていたのか?」

「よくごぞんじで」

「いつものリジェのだろう」

「ゆうて、にいさまもたすかったんじゃない?」

「なぜ?」

「閣議がぷたつになっていいことなんてなんもないとおもわない? 冷静れいせいれば、だれがそれでとくをするかってこと」

「むぅ……」

「まじめすぎんのよ、兄さまは」

「そうはいうがな……」

「なに? わたしにまで魔界まかい策略さくりゃくだ、アスタロトは危険きけんだとかいうわけ?」


「ねえたま、ねえたま!」


 ヘイエルがそれでも反論はんろんこころみようとしたときである。

 空気くうきなんてめないモニカがピョンピョンと。


「なあに、モニカ?」

「にいたまをおこらないでほしいのでつ!」

「怒っているわけじゃないのよぅ? しかってるの」

「おなじでつ!」

「と・こ・ろでぇ」

「なんでつか?」

一番いちばんに叱られなきゃいけないのはだれだと思う?」

「だれでつか?」


 そよかぜれる野菊のぎくのように小首こくびかしげる幼女ようじょ仕草しぐさはかわいらしいものだが、それがつうじない相手あいてもいる。


「あんたねえ……」

「モニカ、おてつだいでつ! モニカにもできることはあるので!」

「それはあのじゃあ、ないよねえ」

「うぅ……。でもでも、モニカのおかげでおやすみになったのでつ!」

「それはねえ、結果論けっかろんっていうのよ? 分かる?」

「わかんないでつ!」

「お勉強べんきょうしなさい! そんなは、こうだ!」


 せりがちな母后ははきさきわって、モニカを叱るのはリジェルの役割やくわりである。めっぽうあま父王ちちおうや兄には出来できない、それはそん役回やくまわりではあるが。


 リジェル、ガッとモニカをつかまえた!

 モニカのやわやわほっぺを!

 ムニムニ!

 ぷにぷにぃ!!


「キャハッハハハ」

反省はんせいがないぞ、この、このぅ!」

「ねえたま、ねえたま、もっと、もっと!」

「まったくもう、何がたのしいんだか。怒ってるんだからね、わたしは」

「キャハハハ」


 結局けっきょく、リジェルもモニカには甘いのである。

 純真無垢じゅんしんむくで、天真爛漫てんしんらんまんで、こわいものらずの天使てんしのような妹がかわいくて仕方しかたない。怒り甲斐がいがないのにため息も、いやされるところあるのはみなおなじなのである。


「こらこら、リジェ! かわいい妹をいじめるんじゃない」


 ほっとかれていじけているのは兄ヘイエルである。

 こちらはまったくかわいげがない。


 ニコッと、リジェル、また怖い笑顔えがお


「ひぃたい、ひぃたい……。はにをひゅる……」

「かわいい妹はもう一人ひとりいるのですけどぉ? さっきもいいましたけどぅ、わたくしのかおててくださいませんこと! お・に・い・さま!」


 モニカにするのとはちがって、おもいっきり兄の頬をつねりげたリジェルであった。

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