1-2 ヘイエルと円卓閣議 のちリジェルと、モニカ?!

 王国おうこく法治国家ほうちこっかである。

 王の一存いちぞんですべてがけっするわけではない。


みな意見いけんこう」


 おうこえ合図あいずに、円卓えんたく活発かっぱつ議論ぎろん閣僚かくりょうにより展開てんかいされた。


和平わへいはこちらこそのぞむものです。会談かいだんもうれ、けるべきとぞんじます」


 最初さいしょ発言はつげんしたのは、ととのえられたあごひげがしろながい、閣僚のトップたる内務卿ないむきょうであった。


百年ひゃくねんあまりの休戦きゅうせんで、国政こくせい非常ひじょう安定あんていしております。国庫こっこうるおい、王国の万民ばんみんいくさは望んでおりません」


 おおきなおなかあまし、あせきながら内務卿に追随ついずいしたのは財務長官ざいむちょうかんである。


現在げんざい同盟どうめい各国かっこくとは友好的ゆうこうてき関係かんけいむすばれておりますが、各国それぞれに思惑おもわくあり。うまくといってはなんですが、魔界まかいからの使者ししゃくにだけ、すくなくとも我が国を最初にえらんだのならば、これは他国たこくさきんじる絶好ぜっこう機会きかいでもあります」


 ひろ人間界にんげんかい情勢じょうせい見極みきわめて発言はつげんは、白髪グレースヘアげた、未亡人みぼうじん伯爵はくしゃく外務長官がいむちょうかんであった。


 内務、ならびに外交がいこうすじはどうやら一致いっちして恒久こうきゅう平和へいわへの道筋みちすじひらくべしと、魔界との和平協議きょうぎ前向まえむきのようだ。


わたし反対はんたいです!」


 こうからそれにとなえたのは、第一だいいち王位継承者おういけいしょうしゃのヘイエルであった。


「皆さま、おわすれでしょうか? たしかに、いまや千年戦争せんねんせんそうはおとぎばなしこうがわ、人間はだれきてそれを見聞みききしておりません。しかし、魔界のものどもは長命ちょうめいです。百年もくしていたところでなんだというのか。この百年はきずいやし、ちからたくわえる潜伏期間せんぷくきかんぎなかったにちがいない!」


 論説ろんせつたからかに、まさにこぶしをげ、たけわか獅子ししは円卓に居並いなら古強者ふるつわものにも物怖ものおひとつせずはなつのである。


「そもそも、特使とくしというのがらない。魔界大公爵だいこうしゃくアスタロトといえば、魔王まおう右腕みぎうでもくされるもの。しかし、けっして人間のまえにはてこない。おもてには出ず、うらからひとあざむき、かたり、知略ちりゃくで王国の心胆しんたんさむからしめたと、おとぎ話のなかでさえあく代名詞だいめいしうたわれる邪悪じゃあくおとこです。それが表に出てくる? 魔界の誠意せいいなどとるのではなく、なにかしらのたくらみありと、そのにおいこそぎとるべきでしょう!」


たしかに……」


 小柄こがら運輸交通うんゆこうつう長官は、ヘイエルの怒涛どとうのようなめにたじたじである。国境警備隊こっきょうけいびたいちょうとして、魔界を間近まぢかもの実感じっかんこもるこえ無視むし出来できないのである。


和睦わぼく前提ぜんていなどとは、それこそいつわり。和平を条件じょうけん無理難題むりなんだいけ、おうじられないとなれば開戦かいせん口実こうじつとするに違いないのです!」


 たからかなヘイエルの断言だんげんに、議場ぎじょうがざわつく。


静粛せいしゅくに」


 議長ぎちょうでもある王があわててせいした。


「では、ヘイエルさまは魔界のもうことわれと?」


 策士さくし名高なだかい、老練ろうれん国防こくぼう長官のひかる。


「それもまたよしなのでは?」


 こともなげにヘイエルはいう。くにもの決然けつぜんたる態度たいどに、閣僚の老輩ろうはいたちはいきむ。


「ヘイエルさまのお言葉ことばには一理いちりあります。我々われわれは魔界をらない。おいそれと会談かいだんおうじて陛下へいか、ならびに国民こくみん国土こくど危険きけんにさらすことはひかえるべきかと」


 たたきげの青年せいねん警察けいさつ長官がヘイエルに同調どうちょうする。国防長官もうなずくところを見れば、どうやらぐん、警察はヘイエルの強硬論きょうこうろんにつくようだ。


「とはいえ、此度こたび和睦わぼくは魔界からねがってきたもの。ここでそれをむげにすれば、それこそ魔王の機嫌きげんそこねるのではないですかな。魔王はかんしゃくちともつたわるゆえ


 冷静れいせい難色なんしょくしめすのは、歴史通れきしつう名高なだかい、閣僚のなかでもっと年齢ねんれいたか教育きょういく長官である。


「だからといって、むざむざてきわなにかかることもないでしょう。それこそ国を危機ききおとしいれるものではないですか!」


 ヘイエルはかたくなであった。


 穏健派おんけんは、強硬派、円卓はどうやらぷたつになってしまったようだ。


 空気くうきおもい。

 だれもがこのにいない、アスタロトの謀略ぼうりゃく、ひいては魔王のちからおびえているようにもかんじる。


 そのときである。


 会議中かいぎちゅうには開かれることのない、議場ぎじょうとびらが開いたのは。


失礼しつれいします」


 王国の紋章もんしょう天使てんしとをあしらった長杖ちょうじょう。それを持つものは王国に一人ひとりしかいない。

 みずったようにしずまりかえった議場に、まどからの陽光ようこうけた金の杖シンボルがきらめく。

 ストロベリーブロンドのながかみがわずかにれた。


 大神官だいしんかんリジェルである。


御神託ごしんたくか?!」


 まえのめりな王のこえにうなずきもせず、円卓にい、立ったまま、リジェルはつえかかげた。


かみは申しました」


 すずるようなこえ

 皆、固唾かたずをのんでる。


慰撫いぶせよ。さすればみちはつながれん」


 神の言葉はいつでも難解なんかいだ。


「それは……」


「けんかはダメなのでつ! みんななかよくしないと、メッ! なのでちっ!」


 舌足したたらずも甲高かんだかい、おさなこえ議場ぎじょうひびわたった。王が神の真意しんいおうとした、それよりもはやく。


「モニカ、しぃぃっ!」


「はえ?」


 無理むりやり「おてつだい」とあににしがみついてたものの、退屈たいくつ大人おとなはなしなど幼女ようじょ理解りかい出来るわけもない。円卓のしたかくされてひまを持てあますうち、侃々諤々かんかんがくがくの声をネタにおままごとにきょうじていた、モニカであった。


 だれからともなく、ほっといきく。


休憩きゅうけいにしよう」


 王は水入みずいりを宣言せんげんした。

 

 円卓の下からリジェルにき上げられたモニカは、わらず愛嬌あいきょうりまいていた。


 女神めがみいだかれた天使てんしか。


 気難きむずかしい財務長官さえ、姉妹しまい姿すがたにはやわらかいみをかべたものであった。

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