一期一会
淡いピンクに色づく桜の花弁が春の東風にさらわれ、空に舞って散って行く。まるで空へと昇る天女のように舞い踊りて散って行く。
「私も……またこんな風に踊れたらな」
私は公園のベンチに腰かけ、舞い散る桜を肴に安酒をあおった。お酒のおかげで、色んな不安が抜けていく。
なぜか涙が止まらない。でも、もう全部どうでもいいよ。
「あれ……·月夜?」
突然、近くから声をかけられた。
「え?」
「やっぱり月夜だ!久しぶり!高校卒業してからだから6年ぐらい?大学出たら連絡してって言ったじゃん!」
「……桜?」
私がそう言うと、彼女は元気よく「うん!」と言った高校から何も変わっていない彼女のテンションに当てられて、身体のお酒が抜けて行く。
「久しぶり……でも、どうしてここに?」
「私ね!今メンバー5人でバンド組んでるんだ!もうすぐ、この近くのスタジオで歌うの!月夜も来てよ!」
「え、いや、私は」
「あ、あれは事前に予約が必要か。でも本番前に、練習するんだ!それなら見れるよ!今から行こう!」
彼女は強引に私の手を引く。こんなところもあの時から何も変わっていない。子供のようにはしゃく彼女の様子に、私はクスリと微笑んだ。
その後、彼女の言うスタジオに着くと、彼女のメンバー四人が待っていた。
最初、不思議そうに私を見ていた彼女らも、桜が「お客さん」と言うと、目つきを変えて楽器を手に取ると、示し合わせたように突然演奏を始めた。
演奏を終え、桜は「どう?」と言って来た。演奏はすごい。でも、舞台にあがれば、たとえお客が一人でも、本気で向きあう彼女達の姿が昔の私と重なった。
やっぱり……私は芝居がしたい!彼女達の歌が、心が、背中を押した。燃え始めた思いを胸に、私は走り出す!
800文字以内の短編集 猫屋敷 @haruka163
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