静と動
この街は音に満ちている。噴水の水音、小鳥の鳴き声、道行く人々の歩く音。絶えまない生活音が、この街に音を響かせ続けている。
「日本とは全然違うね〜」
テーブルをはさんだ向かいの席で、友人の桜は顔を突っ伏し、ストローでジュースを飲みながらそう言った。
「はしたないですよ……先生に怒られてしまいます」
「ここは日本じゃないので先生はいっませーん!」
「もう……」
普段はもっとしっかりしているはずなのに、イギリスこっちに来てからずっとこの調子である。郷に入れば郷に従えとは言いますが……やはり、こちらでも着物を着せるべきでしょうか?
このまま日本に帰れば、彼女はまず間違いなくマナーに厳しい紫野先生に大目玉をくらってしまいます。未だにダラダラとしている彼女を見ながらそんな事を考えていると、紫野先生に怒られ涙目になる彼女を想像してしまい、私はフフッと小さく笑い声をあげた。
「なに笑ってんの〜」
「いえ、すこし楽しくなりまして」
「そっか〜。たしかにね〜。……家、帰りたくないなーずっとここで暮らしたいよ〜」
彼女は軽めの口調で言うが、できることならそうしたいという本気さが伝わってくる。思い返せば、日本に居る時、彼女はいつも退屈そうだった。
日本の“静”の生き方より、ここの“動”の生き方が彼女の性格には合っているのかもしれない……。
「決めた!私、卒業したら家出して日本を出るよ!」
「家出すると私に教えて良いのですか?バレてしまいますよ?」
「平気干気!いっしょに家出するんだから!」
どうやら私も家出するらしい。私は静かは日本が好きだけど、不思議と嫌な気はしない。彼女と一緒なら、私はどこへだって行ける気がする。彼女はいつだって、私の“静”を動かす音をくれるから!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます