3.受付嬢とダンジョンギルド
「どういうことですか!? なんたって一人とまともな人間がこのギルドにはいないんですか!?」
一つカウンターの向こうに立っている彼女はきょとんとして首を傾げている。まるで何のことでしょう。全く分からないわと言わんばかり。
しばし無言の後に彼女は言葉を吐いた。
「あっ、クレームですか!? クレーム一丁入りました!」
「ラーメン頼みに来た訳じゃないんだよ! ってか、クレーマーをクレーマー呼ばわりしちゃダメだろ!?」
「ええと、ちょっと待ってくださいね。クレーマーをクレーマー呼ばわりしてしまった時のマニュアルを……」
彼女はすぐにマニュアルを取り始めた。それがあるのであれば、正しい接客の仕方のマニュアルも存在しているのであるが。受付嬢はそんなのお構いなしに「どっかにあったはずですね……何処だ何処だ」とクレーマーを放ったらかしにしていく。そのクレーマーとは僕のことなのだが。
「ええと、クレーマーにはお帰りいただくための案内をした方がいい、と」
「普通に声に出すのもダメじゃない!? マニュアルをお客様の前で朗読するの初めて見たんだけど! そして、その内容も何か怪しいし!」
「ええと、後、クレーマーが二度と来ないようにするために裏口の危険な路地にお帰りしていただくよう案内するのが良き」
「本当にそれ、マニュアル?」
彼女は「ほら、見てみて! 見てください!」なんてマニュアルを見せてくる。それはもうお化けを見たのと主張する子供のように。
しかし、見て良いものではないだろう。特に赤字で書かれている文。
「クレーマーは生かして帰すな」、「殺せ」だとかとんでもないことが書かれている。僕の運命はどうなることやら。
目の前にいる受付嬢は僕の恐怖も知らずに笑っている。
「このマニュアルと熱心な指導で教わってきましたね」
「じゃあ、いい人をご案内するための研修はやったの?」
「……ギルドに関してはほとんどやっておりませんね。取り敢えず、お仕事を探している人をマッチングさせればいいとやっておりましたので!」
「……大丈夫かな。このクソギルド」
いや、大丈夫だろう。明日にはきっと誰かが火を付けているはずだから。
もうこのギルドにはお世話になるまい、と思っていたのだが。彼女は呆れて去ろうとする僕に声を掛ける。
「あの……?」
「何?」
「いや、この前の魔導士の代金、まだ貰ってないからね……」
「へっ?」
不意に止められた。
確かお金は払ったつもりなのだけれども。
代金の明細書を見ると、心臓を撃ち抜かれそうになった。
「あ……」
「貴方が払ったのとゼロがふたーつ違うんだよね」
「あのハズレ魔導士が……こんな値段……?」
「なのです! 返済は急がなくても大丈夫ですから、今後とも当店をごひいきにー!」
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