2.暴走黒魔術師と原っぱダンジョン

「むいむいむいむいー、ムイのダンジョン配信始めるよー! 今日は原っぱにいる人間共をお得意の炎魔法で燃やし尽くしていきたいと思います!」

「待て待て待て待て待て待て! 待てぇい!」

「あら、どうしたの?」


 目の前にいる眼鏡の魔法使いは杖を構えて、きょとんとするばかり。

 真面目に見えたはずの女性。ギルドの中でも有名で真面目で清廉潔白だと言われていた彼女ならば安心だと思って声を掛けさせてもらったのだが。


「僕のアカウント、BANされたばっかりなんですよ……新しく作っていこうと思うんですが、ここで虐殺エンターテイメントかましたらどうなると思います?」

「流れ星は一瞬にして空に煌めき、数秒にして消える。そんな儚い人生を表現しているようで素敵だと思うわ」

「流れ星じゃなくて、隕石なんだよ……人に危害をくわえたら、それはもう災害なんだよ……!」


 だいぶ今回も失敗したな、と後悔するばかり。

 彼女はこちらに見せる笑顔とは別に草原のダンジョンにいる人達に嫌悪感を向けている。特にこんな会話をする人達だ。


「僕が魔物の倒し方を見せてやるよー!」

「きゃー、かっこいいー! イケメンくん、サイコー!」


 カップル、だ。

 他のダンジョンよりも難易度が低いため、カップルなどの男女コンビがほんの軽い冒険気分で来ることもある。

 そんな場所で撮影したいと言っていた彼女。

 今度こそ杖を構えている。僕がそれを制止しないと非情にヤバいだろう。彼女は僕のチャンネル名で挨拶してしまっている。つまるところ、これから起きるであろう惨劇が僕のシナリオであると勘違いされてしまう。

 あの女が一人で捕まるのならまだ良い。僕が捕まるのは嫌だ。


「ちょ、ちょっと待って。それ、あっちに現れたとんでもないモンスターに使ってやれ!」


 僕はあちらで炎を吐き、辺りの冒険者を焦がしまくっている龍を指差した。この場所ではかなり珍しい強敵だ。

 あの龍を倒すなんてものであれば、取れ高は良いだろう。

 ただそのドラゴンにも優しい笑みを向ける。


「いやいや、そんな可哀想なことできないよ。ただ頑張って一人で炎吐いてるだけでしょ?」

「冒険者ってこと忘れてる? ねぇ? その黒魔術、何のために使うのかって忘れてる?」

「いやぁ、そりゃあ弱い者を助けるためだよ」

「その弱い者が今、丸焦げにされてるんだけど……!」


 弱者を見捨てて、自分の快感を求めていくスタイル。

 もう既に彼女の黒魔術で僕のアカウントが炎上し始めている。たまたま見始めている人が思い切り「おいおい、本当は弱いんじゃねえの!?」、「見捨てんなよ」だとかコメントをしているのだ。

 そんなのは序の口。もうこれ以上は見たくない。


「さぁ、今から炎のパレードでばえばえしちゃいましょう!」


 ああ、僕は止められなかった。そう嘆くところでドラゴンの元にもう一匹同じものがやってきた。見たところ、つがいか。

 思考よりも早く黒魔術が飛び、二匹の龍は黒焦げになっていく。


「……ちっ、魔物風情が調子に乗ってんじゃないわよ……」

「さっきと言ってること違うんだけど……炎吐くだけの奴だって言ってたんじゃ……」

「まぁまぁまぁ……ごめんね。魔力全部使い切っちゃった……今日の配信はこれで終わりだねバイバーイ!」

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