サクラ&シアン

斎百日

第1話 桜の花びらに包まれし、死の囁き

「なぁ、お前ってなんでいつも俺と一緒にいるの」

「え? なんで?」

「いや……、別に言いたくないならいいんだけどさ」

「なんでそんなこと聞くの?」

「……なんとなく」

「ふーん。……じゃあ、逆に聞くけど。そっちはどうして私と一緒にいてくれるわけ」

「…………」

「……なに、その沈黙。もしかして、理由ないとか言わないよね」

「………………」

「ちょっと! なんか言いなさいよ!」

「……なんとなくだよ」

「ほら! やっぱり、理由ないんじゃん!」

「理由がなきゃ一緒にいちゃいけねぇのかよ」



 * * *

 * *

 *

 

「ねえねえ、知ってる?」

「なに?」

「桜の花びらってさ、地面に落ちる前にキャッチ出来たら願い事が叶うんだって」

「なんだそれ。くだらなねぇ」

「なんかそういうおまじないがあるらしいよ」

「ふーん」

「興味なさそうだけど、やってみようよ。ね、いいでしょ」

「……まぁ、いいけど」


 * * *

 * *

 *

 

「あ!」

「……え? あ! やば……」

「あ〜あ、地面に落ちたじゃん」

「あははは……」

「まぁ、私も間に合わなかったからおあいこか」

「なんてお願いしようとしたの?」

「……教えるわけないだろ」

「えー! なんで!」

「……恥ずいだろ」


 * * *

 * *

 *


「ねえ、知ってる?」

「……ん?」

「この桜の木の下にはね、死体が埋まってるんだってさ」

「へえ……」

「だから、ここの桜は毎年綺麗な花を咲かせるんだって。不思議だよねー」

「……」

「でもさ、それっておかしくねぇ?」

「……え?」

「だってさ、もしそうだとしたら、どうして桜は毎年綺麗な花を咲かせるんだよ」

「……さあね。そんなの知らないよ」

「くだらねぇ」

「ふふ、そうだね。……ねえ、もし私が死んだらここに埋めて欲しいな」

「え……?」

「……なんてね。冗談だよ。でも、案外悪くないかもね」

「……?」

「だってさ、もしそうだとしたら少なくとも、桜は私のことを忘れないってことでしょ?」

「お……俺だって! ……」

「ふふ、そうだね。……ありがとう」


 * * *

 * *

 *

 

「ねぇ、知ってる?」

「なにを?」

「あの桜の木の下にはね、死体が埋まっているんだって」

「……」

「ねえ、知ってる?」

「あの桜の木の下にはね……」

 * * *

 ああ、そっか。なんで今思い出したのだろ。これが走馬灯ってやつか……。いや、違うか。今までの記憶全部が映像みたいに頭の中を駆け巡っている。まるで映画のフィルムのように。きっとこれが死ぬってことなのかな。ああ、嫌だな……、もっと生きたかった……。

 * * *

「ねえ、知ってる?」

「あの桜の木の下にはね」

 * * *


  ああ、そっか。俺がこいつと一緒にいたのは……

 俺がこいつのことが好きだからか。

 

【桜の木の下には死体が埋まっている】

 

 その言葉に俺は何を思ったのだろう。

 きっと、どこか期待していたのだと思う。

 だって、もし本当にそうだとするならば。

 あいつとずっと一緒にいられるから。

 * * *

「ねえ」

「あの桜の木の下にはね」



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サクラ&シアン 斎百日 @ImoiMomoka

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