第6話

 大森重徳様

 大森様の背中を押してトラックが轢き、腕や脚を切断したのは私のせいです。ですがご安心ください。地獄では腕や脚は復活して獄卒にまた思い存分切られちぎられ砕かれますから。

 それと、閻魔様への掛け合いの件、心から丁重にお断りさせていただきます。そもそも閻魔様と掛け合いできるほど身分が優れているわけではございません。

 そういえば彩音がさっき閻魔様に裁かれ、無事に地獄行きとなりました。遠くから眺めていると牛の頭で人の体を持った怪異、のちに訊くと牛頭という怪物が、僕に話しかけてきました。

「お前、篠村彩音の関係者か」

「元々恋人でした。浮気されて、浮気相手の男に殺された」

 僕はなぜか恥ずかしいことをつつがなく目の前の牛頭に喋っていました。

「それは悲運だったな。じゃあこいつの地獄での処遇を見たいか」

 僕はすぐに頷きました。彩音は僕を見つけて必死に謝ってきましたが、それは真の謝罪ではなく、ただただ地獄行きから逃れたいという本心がすけすけでしたので、無視を決め込みました。実際、地獄の門に入る直前、彩音は「薄情なやつめえええええええええええ」と言って僕を罵ってきました。

 僕は牛頭に案内され、地獄の上部の舗装されていない道を歩きました。

「ここは地獄行きになった者たちに被害を受けた者が、罪人の裁きを見られるところだ。人間界でいう法廷に座るようなもんだな」

 彩音は地獄に入ると、獄卒に引き渡されました。必死に門へと走り出しますが、獄卒は彩音よりもはるかに長い出刃包丁を一振りしました。みごとに彩音の膝から下が一瞬で切り離され、ごろりと転がりました。彩音からは耳を塞ぎたくなるような悲鳴の叫び声が聞こえてきました。獄卒はなおも腕で這いつくばる彩音の肘から先を切断し、腕と足の付け根も切り落としてしまいました。すっかり達磨になった彩音は獄卒に助けを求めますが、股間の中央に出刃包丁の刃を当てられ、徐々に上部へと切り進めていきます。

「ぐげげげげげげ」

 気味の悪い声が彩音から出てきます。出刃包丁の切れ味は鋭く、軽い力だけで彩音を真っ二つに切断していきます。鳩尾まで刃が進むと、切れたところから内臓が漏れ出てきました。それでも彩音は命があります。いや、地獄に来た時点ですでに死んでいますからこの表現が正しいのかわかりません。でも彩音は確かに極限の苦痛に包まれていました。胸、喉ぼとけ、顔に到達したとき、獄卒は面倒になったのか、一気に残りの部分に刃を進め、彩音は見事に真っ二つになりました。獄卒は刃に付着した血液と肉片を振り払っていました。

「活きろお。活きろお。活きろお」

 獄卒はとつじょ謎の呪文を発しました。

「ここは等活地獄で死んでも生き返らせてまた極限の苦痛を与えるところなんだ。獄卒は『活きろお』と唱えて罪人をよみがえらせるんだ。ほら」

 牛頭が指差す方を見ると、真っ二つになっ体は繋がり、付け根から腕や脚が生えてきていました。しかし苦痛はそのまま残っているようで途端に大きな悲鳴が地獄内に響きました。

「これが五百年続く。ずっと見てるか? でもお前もそろそろ成仏したいだろ」

 僕は地獄から出てきました。あれが五百年も続くと思うと愉快でなりません。そろそろあなたをここに連れてきて、あなたが地獄で裁かれ、極限の苦痛の中、生命として存在したことを心から後悔する姿をこの目に焼き付けてから極楽へ向かいます。もう少ししたらあなたを連れに行きますので、少々お待ちください。

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殺したヤツからの手紙 佐々井 サイジ @sasaisaiji

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