第5話
大森重徳様
お考えはお変わりになりましたか?
小芝智也様
前回の手紙では大変失礼極まる内容を送付してしまい、誠に申し訳ございませんでした。心からお詫び申し上げます。小芝様からいただいた手紙とともに自分のものが添えられておりましたのを確認しましたらなんと下品で低能なことを書いてしまったのだろうと今でも猛省しております。にもかかわらず小芝様は、こんな私の命を奪わずにいてくださり、感謝してもし尽くせません。先日、認めた手紙には地獄など怖くとも何ともないと申しておりましたが、あれは真っ赤な嘘でございます。実は私、幼いころに書店にて地獄の絵本を読んだことがございます。それには獄卒が人間を細かく切り刻み、腕や脚を引っ張り、本来の二倍や三倍の長さに伸びた挙句、引きちぎられるといった描写がありました。その絵本は地獄に行くと無限の苦痛が待っているから悪いことはしないようにという児童向けのメッセージが含まれていることを大人になってから知りましたが、以来、地獄についてはトラウマができるほど苦手になっておりました。であるにもかかわらず彩音を寝取り、小芝様の命を奪ってしまったことほど愚かなことはございません。
私は地獄に落ちるべきです。そして何の罪もない小芝様は極楽へ成仏されるべきお方です。私の罪をお許しください、と申し上げる資格がないことは重々承知しております。地獄に行くしかない定めであることも理解しております。しかし、どうしてもその覚悟がまだできておりません。小芝様、もし可能なら閻魔様にお掛け合いいただき、私の地獄行をもう少しだけ延期いただくようにお話しいただくことは可能でしょうか。なにとぞよろしくお願い申し上げます。
追伸
トラックに轢かれ、四肢を切断せざるを得ない状況になり、口で書かせていただいておりますためお手紙を出すのが遅れてしまい申し訳ございません。私の背中を押したのは小芝様ですよね。すみません、小芝様のせいで手紙を出すのが遅くなった、ということを申し上げるつもりではございません。両親に頼んで自宅のポストに投函してもらいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます